誰もいない家
先月、事故で両親を亡くした。
静まり返った家で、愛猫のぽけと二人きりの生活。
はずだった。
真夜中のキッチン。足元で威嚇するぽけと、暗闇の廊下から忍び寄る「何か」の気配。
わたしが息を潜めて恐れていたのは、一体誰だったのか——。
日常が怪異へと変貌する、短編ホラーをお楽しみください
夜中に小腹が空いて、起きてしまった。時刻は午前3時だ。寝室は暗く、照明を点けるまでは何もさ見えなかった。
わたしご起きた気配を感じたのか、突然、飼い猫のぽけ君が、足に纏わりついてきた。
父と母を起こさないよう、静かにキッチンに向かった。冷蔵庫からペットボトル入りのミネラルウォーターをボトルに直接口をつけて飲んだ。小腹が空いていた。
冷蔵庫の中には ベーコンと鶏卵しかなかった。
━━これでスクランブルドエッグでも作ろうかしら。
そんなことを考えた直後にぽけがにゃーにゃーと鳴いて騒ぎ始めた。どうやら、ベーコンの匂いを嗅ぎつけたようだった。
このままでは父や、母を起こしてしまう。
「シーッ! 静かに、ぽけ!」
あわててぽけの口を塞ごうと手を伸ばした。けれど、足元に視線を落とした瞬間、わたしの全身の血が凍りついた。
そこにいたのは、毛を逆立て、怒りと恐怖で威嚇するように喉を鳴らすぽけだった。彼の視線はベーコンではなく、わたしの背後――誰もいないはずの暗闇の廊下を鋭く見つめている。
「にゃあぁぁ……」
それはおねだりの鳴き声などではない。明らかな警戒の唸り声だった。
そのとき、ふと違和感が頭をよぎる。……父と母を起こさないように静かにキッチンへ向かった?
――待って。父と母は、先月事故で亡くなったはずだ。
じゃあ、わたしは今まで「誰」を起こさないように息を潜めていたのだろう。そして、暗闇の廊下からゆっくりと近づいてくる、足音のない気配の正体は――。
日常が一瞬で崩れ去る静かな絶望と、最後に明かされる狂気。短編ならではの切れ味を楽しんでいただけていたら幸いです。
最愛の家族を失った悲しみが生み出したのは、怪異そのものなのか、それとも主人公の壊れた心なのか……。読者の皆様の解釈で、この物語の「本当の恐怖」を補完していただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました




