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ごめんね。

怒りは無謀をもって始まり、後悔をもって終わる。

 ーピタゴラス


「なんで?なんでなの?」


震える声で、鈴花は私の体を揺さぶった。

私はそれに応えられない。


「幸せになって欲しかったのに、なのに、私じゃダメって、あんなに理解したはずだったのに」


そんなことないよ。

私はそう言いたかった。

頭を優しく撫でてあげたかった。

けど、それももうできない。


「私より、ずっとあの人の方が、あっちの方がずっと良かったって、納得したのに」


私はあなたが良かったんだよ。

あなたが良くて、手を取ったんだよ。


「なのに、私…迷惑かけて、ずっと莉乃のこと不幸にしてっ…私が死ねば、全部解決したのにっ…」


ダメだよ。

鈴花が死んじゃったら、私悲しいよ。

…私が言えることじゃ、ないか。


「やだっ…まだ、何にも言えてないよ、伝えたいこと、たくさんあるのに」


私も。

パンケーキ一緒に食べたかった。

お互いの服を買って、着せ合いっこしたかった。

あーんって鈴花にして欲しかった。

遊園地に行って、2人で笑い合いたかった。

布団の上で、愛し合いたかった。


「たくさんしたいことあって、こんな、もっと、ずっとっ、ふ、たりでぇ…」


雫が一つ、零れた。

留めどなく溢れる涙が血と混ざって、私の頬を濡らした。


「あっ…あぁ…やだ……やだよ…謝るからぁ…」


ごめんね。

謝るのは私のほうだよ。

私が乗せられたから、騙されたから。

バカな女で、ごめんね?


「……莉乃?」


だめだ。

もう、心臓が動いてない。

体が動かせない。


「動いてよ…怒ってよ…私のこと、たくさん罵って、嫌いって…鈴花なんか、死んだ方が良いって、言ってよ…」


言えないよ。

口が動かせたとしても、私は鈴花のことが大好きだから。

だから、言えないよ。


「…私が、ころ、し、た?」


それは、否定できないけれど。

でも、原因は私だから。

責めないで。

どうか、永く生きーーー


「……そっか」


え?


「私…死んだ方が良いんだ、そうだよね?莉乃」


違う。


「好きな人を、世界で1人だけ愛したはずの人を、バカみたいな未熟な感情で、ころ、殺せる、私なんて」


ダメだよ。


「それに…償わないと」


そんなこと、しなくていいよ。


「今まで、ありがとう。たくさん、幸せもらったよ?」


私も。

私もなんだよ、鈴花。


「なのに…私、何も返せなくて、ごめんね」


たくさん貰ったよ。

あなたの笑顔を見るだけで、所作、匂い、声、全部が私の幸せだったよ。

だから、やめて。


「来世があったら…きっと、莉乃は幸せになれるよ。だって、私がいないんだから」


鈴花がいない世界なんて、幸せになれないよ。

今なら、まだ間に合うよ。

私の死体を隠して処分してよ。

それで、逃げて、どこか遠いところまで。

そしたらきっと、また鈴花も幸せになれるはずだから。


「…はい、もしもし…殺人です。好きな人を殺しました。……はい、はい。ありがとございます。莉乃のこと、よろしく願いします」


やだ。

鈴花がいい。

私の死体に触るのは。処分するのは。

鈴花が、良いのに。


「…ごめんね。大丈夫だよ、私はもう触らない。警察の人たち来てくれるって」


「……私、バカだなぁ」


「じゃあ、ばいばい」


待って、待ってよ。

逝っちゃだめ、ダメだよ。


だ…め……

決してあなたが嫌いだったわけじゃなかったの。

ただ、私の中で大切になりすぎた、だけだった。

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