超絶合体変形ロボ《超合金カグヤ》 ~月の姫が落ちてきて、私の家と宇宙が終わりました~
人類は知らなかった。
自分たちが夜空を見上げるたび、胸の奥にふわりと浮かぶ「宇宙」という言葉の、その本当の意味を。
——宇宙は、ロマンではない。
宇宙は、距離だ。
孤独だ。
そして、戦争だ。
時は二〇二五年。
人類の観測機器が届かない、はるか遠い宙域で、すでに「終わり方」を賭けた殺し合いが続いていた。
名を——**大宇宙大戦**。
全宇宙の敵はただ一つ。
天の川銀河征服を目論む、最強の知的種族——**ゴグアーグ星人**。
彼らは圧倒的だった。
知能も、身体能力も、技術も、倫理も——宇宙のルールさえも、自分たちの都合で書き換える。
ひとたび狙われた星系は、二択を迫られる。
味方につくか。
滅ぶか。
それ以外は許されない。
中立は「敵性」と同義だった。
そして、ついにその魔の手が、青い小さな惑星へと伸びた。
地球。
ゴグアーグ宇宙艦隊が、太陽系外縁を越えた、その瞬間——
宇宙空間に一本の線が走った。
線は、月から来た。
巨大な鉄柱が、迷いなく放たれたのだ。
真っ直ぐに。
必要なだけ正確に。
必要なだけ残酷に。
鉄柱は宇宙を裂き、艦隊の一角を貫き、戦艦を一機——いとも簡単に撃墜した。
ゴグアーグの艦内に、赤い警報が点滅する。
翻訳機を通した怒声が飛び交い、指揮系統が一瞬揺らいだ。
『月だと? 月に文明など——!』
『違う。軌道計算が正しければ、発射点は月面裏側——』
あり得ない。
地球文明の火力ではない。
月に、誰かがいる。
月面の暗い裏側。
そこにいた種族の名は——**ウサピョン星人**。
はるか太古、地球上で繁栄し、最終的に地球を人間へと明け渡し、自らは月の裏側へと移った超知的種族。
彼らは古来より、静かに、ずっと——地球を守り続けていた。
月面基地の司令室。
楕円形の広間に、白い光が落ちる。壁面には地球の映像。青い球体が、あまりに綺麗で、あまりに脆そうだった。
「……防衛線、第三リングが破られました」
報告の声に、沈黙が降りる。
誰もが知っていた。相手が悪いのだと。
ゴグアーグは強い。
ウサピョンは押され、追い詰められ、月面の防衛線は崩れはじめていた。
そこで——最後の希望が動く。
ウサピョン星防衛大臣の娘。
少女の名は、**フルル・ピョン・ウーサギヌス**。
彼女はまだ若い。
だが、背筋は折れていなかった。真面目で、実直で、言葉は丁寧。
その丁寧さは、取り繕いではない。教育と責任感と、そして「逃げる余地がない」者の静かな覚悟だ。
「……提案があります」
彼女はそう言って、前に出た。
壇上の大臣——父の視線が、厳しいまま彼女を貫く。
「フルル。あなたが言うのですね」
「はい、父上。……いえ、防衛大臣閣下」
場がざわつく。
娘が父を役職で呼ぶ。その意味を、この場の誰もが理解した。
家族ではなく、国家。
娘ではなく、軍人。
「地球へ降下します。……超合金カグヤを用いて」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
伝説。切り札。禁忌に近い最後の手段。
太古の昔、滅亡した日本文明にいた天才機械オタクが発明し、かつて地球に攻め入ったゴグアーグたちを撃退した最強のロボット——**超合金カグヤ**。
カグヤは本来、遠距離戦用の兵器だ。
月槍と呼ばれる投擲武器を用い、敵艦を貫き、戦線を一撃で折る。
近接戦は不得手——少なくとも、マニュアル上は。
だが、いまは手段を選べない。
「地球に、味方を作ります。地球を、巻き込むのではなく——地球人の『当事者』を作ります。こちらの戦力の不足を補うためではありません。……地球そのものを、守るためです」
フルルは息を吸って、吐いた。
言葉は整っている。声も震えない。
なのに、指先だけがほんの少し冷えている。
「カグヤの起動鍵は、地球側に反応する可能性が高いです。古代日本文明の設計思想に基づけば、地球人の遺伝情報、文化情報、あるいは……『選定』に近い何か。ですから——」
視線が、地球へ向く。
「地球で、鍵を見つけます。……私が」
父は、長い沈黙のあと、ただ一言だけ告げた。
「戻れなくても、行くのですね」
フルルはまっすぐ頷いた。
「はい」
彼女の中で、もう答えは出ている。
だからこそ、丁寧な言葉しか残らない。
「地球は……月のものでも、宇宙のものでもありません。地球の子どもたちのものです。あの青を、奪わせません」
その日、月の裏側から、ひとりの少女が地球へ向かった。
そして——
彼女が最初に出会う地球人は、世界を救う英雄ではなかった。
どこにでもいる普通の女子高生だった。
---
……あたしの人生って、こんなに派手だったっけ。
放課後の帰り道。
住宅街に向かう坂道を、だらだらと下る。制服のスカートが風に貼りついて気持ち悪い。
右手にはコンビニ袋。腕に食い込む重さ。中身はカップ麺と、アイスと、安売りのお菓子。
今日のあたしのテンションにふさわしい、最底辺の夕飯だ。
「はぁ……」
ため息が白くならない季節。
四月でもなく、真夏でもない。中途半端に湿った風が頬にまとわりつく。
高校二年生。
名前は——**望月ひかり**。
成績はふつう。運動もふつう。友達も……いる。
ただ、クラスの中心にいるタイプじゃない。輪の端っこで、相槌を打って笑って、空気を壊さないようにするタイプ。
それで困ることもある。
「ひかり、これ今日中にまとめといてー」
今日だってそうだ。
委員会のプリント。誰が配るかで揉めた結果、なぜか「私がやる」流れになった。
「え、でも私、今日バイト——」
「お願い! ひかりって優しいじゃん!」
優しい、って便利な言葉だ。
断ると自分が悪者になる。引き受けると相手は当然みたいな顔をする。
——別に、助けたい気持ちがゼロじゃない。
ただ、いつも「当然」になっていくのが、じわじわ嫌だ。
笑って、流して、我慢して。
気づけば、誰かの都合のいい歯車。
そんなこと考えながら、コンビニに寄って、適当な夕飯を買って、帰ってきた。
たぶん今日も、平和な夜のはずだった。
家の玄関を開ける。
「ただいまー……」
返事はない。
母は夜勤。父はいない。
つまり、今日もあたしは一人。
靴を脱いで、コンビニ袋を持ったままリビングへ。
テレビをつけたら、ニュースがちょうど「海外の紛争」とかやってて、あたしは即チャンネルを変えた。
「やだやだ……そういうの……」
平和なバラエティがいい。
動物がかわいいとか、芸人がすべるとか、そういうのでいい。
そのときだった。
窓の外が——一瞬、昼みたいに明るくなった。
「……え?」
雷? いや、音が遅い。
空気が、沈む。まるで巨大な手で世界を押しつぶされたみたいに。
次の瞬間。
**ズンッ——!**
家が揺れた。
地震? 違う。揺れ方が、上から叩かれたみたいな——
「うわっ!?」
窓ガラスがビリビリ震える。
コンビニ袋が床に落ちて、豆腐がぐしゃって潰れた。
「最悪……!」
舌打ちする間もなく、庭の方から「どごん」と低い衝撃音がして、砂埃が舞い上がった。
犬の鳴き声。遠くで車のクラクション。近所の誰かの叫び。
何かが落ちた?
隕石? え、うそでしょ。
あたしはカーテンを掴み——その瞬間、天井が「きいん」と嫌な音を立てた。
続いて、ベランダの外から、何かが「どさっ」と落ちる音。
「……え」
恐る恐る窓を開ける。
そこにいた。
——女の子が、落ちていた。
月みたいに白い髪。
信じられないくらい整った顔。
ただし、服装は……なんというか、普通じゃない。白と銀を基調にした、軍服みたいなコート。腰には硬質な金属の装具。
そして、表情が真面目すぎる。
少女は体を起こし、ほこりを払い、まず深々と頭を下げた。
「失礼いたします。突然の降下で驚かせてしまい、申し訳ありません」
「え……」
丁寧。
丁寧すぎる。
少女は顔を上げ、こちらをまっすぐ見た。
「あなたが、この住居の代表者様でしょうか」
「……代表者?」
代表って何の代表だ。町内会? 自治会?
あたし、プリントも出してないんですけど。
「私はフルル・ピョン・ウーサギヌスと申します。ウサピョン星、防衛大臣の娘です」
「……うさ……ぴょん……?」
脳が追いつかない。
いや、追いつく気がしない。
「えっと……まず、ここ日本なんですけど」
「承知しております。地球の日本列島、関東地方、住宅密集地域。座標は——」
「座標の話してない!!」
思わずツッコんだら、フルルは一瞬だけ目を瞬かせて、即座に謝った。
「申し訳ありません。説明が先走りました」
この子、真面目だ。
真面目すぎて逆に怖い。
「あの……で、何? 迷子? 撮影?」
「迷子ではありません。……侵略に対する防衛要請です」
「は?」
あたしの声がひっくり返った。
フルルは頷く。丁寧に。真顔で。冗談の余地ゼロで。
「地球は現在、宇宙規模の侵略戦争の標的になっています。あなたがご存じないのは当然です。地球文明の情報網は、まだそこまで宇宙に届いていません」
「……ごめん。ちょっと待って。情報量」
手のひらを突き出すと、フルルはぴたりと止まった。
すぐに止まるの偉い。しかも止まったあと、ちゃんと待つ。
あたしは頭を抱えた。
絶対関わっちゃいけないやつだ。
こういう人って、一回受け入れたら最後、人生が壊れる。
「……あなた、もしかして新手のVTuberとかじゃないよね?」
「ぶい……ちゅーばー……?」
「そういう反応するなら違うわ……」
フルルは咳払いをして、真面目に言い直した。
「改めて要点だけ申し上げます。地球人、望月ひかりさん。あなたにお願いがあって来ました」
「……なんで名前知ってんの」
「降下の際に、地球の通信を一部解析しました。個人情報の取得については申し訳ありません。ただ、緊急事態です」
謝るとこは謝る。
でもやることはやってる。
怖い。
「あなたにしかできません。超合金カグヤの起動鍵が、あなたに反応しているのです」
「知らないってば!」
「信じていただけないのは承知しています。ですが事実です。カグヤのシステムは、あなたを——『操縦者候補』として認識しています」
「無理無理無理。世界救うとか、そういうの無理。怖いし」
あたしの声は、思ったより小さかった。
怖い。ほんとに怖い。
戦争なんて、画面の向こうの話であってほしい。
フルルは頷いた。
丁寧に、まるで教師みたいに。
「恐怖は正常です。あなたの反応は、むしろ正しい。……ただ、それでも」
フルルの目が、ほんの少しだけ曇る。
「逃げ場がないのです。地球は、もう最前線に入っています。だから——」
「いやだ」
言葉が勝手に出た。拒絶。反射。怖いから。
「あたしを巻き込まないで。戦争とか無理。そういうのは警察とかに言ってよ!」
突き放すように目を逸らした。
フルルは驚いた顔をして——それから、少しだけ、苦く笑った。
「……承知しました。あなたはまだ幼い。地球の子です。無理もありません」
その言い方、ムカつく。
でも反論する気力もない。
「では、私は——別の方法を探します。あなたの安全を——」
そこまで言いかけた、その瞬間。
空気が、もう一度沈んだ。
「……え?」
嫌な予感が背骨を走る。
次の瞬間——
**ドゴォン!!!!**
頭上が白く弾けた。
屋根が、消し飛んだ。
「……っ!?」
熱風。木片。瓦礫。
フルルが反射で両手を突き出す。
「防壁、展開します——!」
透明な膜が張られ、飛び散る瓦を弾く。
でも、屋根は戻らない。
あたしの家は、いま、空と繋がっている。
穴の向こう。
空に——立っている。
一つ目の全身真っ黒な巨人。
未来的な大剣と銃を持って、住宅街の上に浮かんでいた。
「なに、あれ……」
声が震えた。
フルルの顔が青ざめる。
「……ゴグアーグ。先遣個体です」
言葉が丁寧なのに、内容が地獄。
フルルは一歩前に出て、震えを押し殺すように背筋を伸ばした。
そして叫ぶ。今度は、命令として。
「——カグヤ! こちらへ!」
次の瞬間。
銀色の影が、音もなく滑り込んできた。
巨大な人型ロボットが、ひか split りとフルルをまるごと抱え上げる。
「うわぁぁぁ!? ちょ、ちょっとぉぉ!!」
床が抜けたみたいに身体が浮く。視界が回る。
気づけば——金属の胸の中。操縦席。
無数のモニター。警告灯。意味不明の文字。
耳障りな電子音が鳴りっぱなし。
「これ……なに……」
「超合金カグヤです。……あなたが乗るべき機体です」
フルルは即座に操縦席に滑り込み、手順通りに指を走らせた。
真面目に、正確に、丁寧に。
なのに。
「え……? どうして……反応が——」
「だから巻き込まないでって言ったでしょ!!」
「申し訳ありません! ですが、状況が最悪です! ここに残れば——」
**ドガン!!**
船みたいな衝撃が来た。
モニターが跳ね、警告が赤く点滅する。
外部カメラの一つが映したのは——
カグヤの脚を掴む、黒い巨人の手。
「……脚」
「ちょっと!! 早く逃げてよ!! 脚掴まれてるじゃない!!」
「そ、そうしたいのですが——操作が……っ、難しい……!」
フルルの声がわずかに裏返った。
彼女は必死だ。真面目すぎるくらい必死で、でも、上手くいっていない。
「落ち着いてください! いま回避——」
また衝撃。
カグヤが引っ張られ、機内がぐわんと傾く。重力が横にずれる。胃が浮く。
「だぁもう!!」
あたしは操縦席に割り込んだ。
フルルの肩を押して、席から引きずり降ろす。
「ひ、ひかりさん!? いけません! そこは——」
あたしが睨むと、フルルが固まった。
蛇に睨まれた蛙みたいに、目が点になる。
「……操縦方法は、分かるのですか?」
「知らねえよ……」
でも。
手が——勝手に動く。
レバーを掴む。スロットルを倒す。
指がボタンを撫でる。
まるで、前からこうしていたみたいに。
「……え?」
フルルが息を呑む。
カグヤが応えた。機体の震えが、あたしの骨に響く。
機体が、あたしの身体になる。
巨体なのに軽い。呼吸が合う。背骨の奥に全能感が走る。
怖い。
怖いのに。
胸の奥の“何か”が、ぷつんと切れた。
——今日のプリント。
——「ひかり、優しいじゃん」。
——笑って流して我慢して。
そうしてたら、勝手に便利にされる。
「……なんでいつもいつも、みんな……」
声が、低くなる。
自分でも分かる。いま、あたしの顔が違う。
「……あたしは便利屋じゃねえんだよ。……あったまきた」
眉間に皺。目が開く。鬼みたいに。
フルルが小さく身をすくめた。敵より怖い、って顔で。
「……つまりさ」
口元が歪む。
「ブッ殺しゃいいってことだろ!!」
カグヤが身体を捻る。
掴まれた脚を軸に回転し、巨人の腕をねじり返す。掴む。
首。
黒い首を——わしづかみ。
『ギ、ギギ……!』
「表出れねえ顔面にしてやらぁ!!」
拳が入る。
**ドゴン、ドゴン、ドゴン!!**
緑の血が散る。
それでも止まらない。
「ちょ、ちょっと! ひかりさん! 力加減というものが——!」
「黙って見てろ!!」
最後に膝蹴り。
巨人が力を失って宙に浮く。
あたしはそれを——
蹴った。
サッカーボールみたいに、天へ。
「ひかりさん! 上です! 増援が——!」
空から同じ影が何体も降ってくる。
フルルは震えながらも、己の役割を思い出したようにパネルへ手を伸ばす。真面目だ。真面目すぎる。
「武器を……武器を出します! そのまま前を——!」
「武器ならここにあるだろ!」
「違います! 素手で殴るのは武器では——いえ、武器ですが!」
「どっちだよ!」
青いボタン。
背中が開き、緑に輝く金属の柱が何本もせり上がる。
合体。組み上がる。
銀色に光る一本の槍——いや、太い“杭”。
「——月槍です! 超合金カグヤ専用の投擲武器で——」
「説明いらねえ!!」
「いります! 本来は投げるのです! 殴るための——」
言い終わる前に、あたしが掴む。
重い。最高。
「……それ、投擲武器です!!」
「知るか!!」
**バゴォン!!**
一体、殴って砕く。
二体、叩いて折る。
三体、突いて穿つ。
骨が鳴る。空が鳴る。
殴るたび、機体の震えが腕に返ってくる。
「ひかりさん! それは近接用では——!」
「近づいてきたら近接だろ!!」
「理屈が乱暴です!!」
ツッコミの声が震えている。
でもフルルは逃げない。目を逸らさない。
そのとき——
**スギャァァァン!!**
光線が走り、カグヤの左腕が穿たれた。
次の瞬間、雨みたいに何百本もの光が降ってくる。
「防御です! 右の緑のボタンでクレーターシールドを——!」
「いらん!!」
「えっ、いらん!? いります! 普通いります!!」
カグヤが動く。
月槍を振り回し、光線を叩き落とす。切り払う。砕く。
「攻撃こそ最大の防御なんだよォォ!!」
「違います!! それは“理想論”——!」
フルルの叫びが、途中で途切れる。
近づいて、殴って、突いて、粉砕して。
数秒で、空に緑の雨が降った。
「……なんだよ。超合金カグヤ。結構やるじゃん」
「……カグヤが、というより……ひかりさんが……怖いです……」
フルルは口を開けたまま固まっていた。
怖いのは敵じゃない。いま操縦してる女子高生だ。
その時、通信が割り込む。
『ギギグ……ゴギグガ、ギフガ……』
あたしにはただのノイズだ。
でもフルルは、耳を澄ませる。眉を寄せる。丁寧に、淡々と訳す。
「……ゴグアーグの言語です。『降伏しろ。我ら第六小隊の小隊長が到着する。お前たちは終わりだ』——そう言っています」
「ひゅー。翻訳助かるぅ!」
あたしは一度、目を閉じて深呼吸した。
開く。
フルルを見る。
震えてるのに、目だけは逸らしていない。
「怖がりのくせに、案外度胸あんじゃねえか」
「……怖いのは当然です。ですが、私は防衛大臣の娘です。敵から目を逸らすくらいなら——」
フルルはごくりと飲み込み、声を整えた。
「——その前に、できることをします」
真面目だ。
実直だ。
ツッコミ役のくせに、こういうところで踏みとどまる。
「いいねえ……」
あたしは笑った。獣みたいに。
「ぶっ飛ばすかぁ!!」
「……はい。ぶっ飛ばしましょう」
フルルが言うと、なぜか“正式な作戦”っぽく聞こえるのが腹立つ。
宇宙から降りてきた巨大な黒い塊——艦。
その腹が割れ、金色の装飾を施した“隊長”が飛び出してくる。ライフルを構えた瞬間——
金の弾幕。
「損傷率……一〇、三五、五五……っ! まずいです!!」
「クソが!」
光の雨が装甲を削る。
カグヤは遠距離用の機体だ。耐久で受ける設計ではない——フルルが言わずとも、感覚で分かる。痛い。削られる音がする。
「ひかりさん! ここは回避して距離を——!」
「距離? 詰めればいいだろ!!」
「詰めるとこちらが——!」
あたしは月槍を構える。
フルルが叫ぶ。
「待ってください! 月槍は柄のボタンで推進火薬を——」
聞く前に——投げた。
月槍が光線を砕きながら一直線に飛ぶ。
隊長の胸に刺さる。
……止まった。
黒い装甲に阻まれ、貫通しない。
隊長が——笑った気がした。
「……んなの、気にするかぁぁぁぁ!!」
「気にしてください! 普通は気にします!!」
月槍は囮。
カグヤは一瞬で背後へ回る。
後頭部に拳。
**ゴギャァン!!**
隊長が落ちる。
追う。殴る。殴る。殴る。
「だめです! それだけでは決定打になりません!」
「わぁってる!!」
その一瞬。
隊長が振り向く。銃口がカグヤの“眉間”に突きつけられた。
「ひかりさん!!」
「大丈夫!!!」
轟音。
外部カメラが、全部暗転する。頭部をやられた。
「まずいです! これでは視界が——!」
フルルの言葉が途切れる。
あたしは目を閉じていた。
静かに息を吸って、吐く。
「……かの有名アニメの天パが言った」
目を閉じたまま、笑う。
「視界を奪われたら——見なければいいだけのこと!」
「それは台詞の引用であって、戦術としては——!」
ツッコミが聞こえる。
でも、あたしの中で何かが“繋がって”いる。
見える。
全部、見える。
敵の位置。動き。重さ。
そして——刺さったままの月槍の位置。
「……ここだ!!」
拳を突き出す。
「必殺——!」
**バーンブレイク・パイルバンカァァァァ!!**
**ドゴォォン!!**
拳が月槍の柄を殴り飛ばす。
押し込む。装甲が砕ける。
次の瞬間——
月槍に仕込まれた“加速用火薬”が起爆した。
内部から、爆ぜる。
隊長の身体が、内側から——四散した。
緑の血が、宇宙に花火みたいに広がった。
「……はぁ、はぁ、はぁ……やった……フルル!!」
あたしが振り返る。
フルルはびくっと跳ねた。怒鳴られると思ったのか、肩に力が入る。
でも、あたしはただニィっと笑った。
「翻訳しろ」
「……え?」
「おいコラこのクソカス宇宙人ども!」
あたしの声が艦内に響く。
「地球の運命? 宇宙戦争? 知ったこっちゃねえんだよ!! でもなぁ——」
言葉が、刃になる。
「あたしに喧嘩売るってんなら、まとめて叩き潰す。覚えとけ」
フルルが、ほんの一瞬だけ絶句してから、丁寧に言った。
「……言葉は荒いですが、意図は伝わりました。翻訳します」
「マジでやんのかよ」
「はい。やります。戦争ですから」
真面目か。
その瞬間。
モニターの端で、また警告灯が点いた。
赤。赤。赤。
遠方に、艦隊の影。
ゴグアーグは一小隊じゃ終わらない。
フルルが、かすれた声で呟いた。
「……ひかりさん。地球は、もう……逃げられません」
あたしは、屋根のない家を思い出す。
空が見えるリビング。潰れた豆腐。床に落ちたアイス。
たぶん、もう戻っても「いつもの日常」はない。
カグヤが大気圏へ戻る。
遠くに見える自宅——屋根がない。というか、半分なくなっている。
サイレン。人影。近所の誰かが空を指差して叫んでいる。
あたしの喉が、ひゅっと鳴った。
「……最悪」
フルルが深く頭を下げた。真面目に、丁寧に。
「申し訳ありません。私が……あなたの日常を壊しました」
あたしは返事ができなかった。
怒りは残っている。怖さもある。
でも、それ以上に、胸の奥がじんわり痛い。
それでも。
拳の奥が、まだ熱い。
全能感の残り火が、手のひらに残っている。
怖い。
でも、怒りがそれを上回る。
「……じゃあさ」
あたしは笑って、息を吐いた。
自分で自分に言い聞かせるみたいに。
「逃げるの、やめるか」
その言葉が、宇宙を揺らす導火線になるなんて——
この時は、まだ誰も知らなかった。
**大宇宙大戦争は、ここから本当に始まった。**
次回、ひかりの横暴にカグヤ側がキレ始めます。
反応よかったらこのまま宇宙ごと殴り進むので、応援(ブクマ・感想)ください!




