あなたの香り
わたし、香りに敏感なんだから。
臭い。誰よ、こんな満員電車で大量の香水振り撒いてるのは。
私はとにかく匂いに過敏で。同棲している恋人が使っていたオーガニックやらハーブやらなんか高そうなヘアオイルの匂いにもついぞ耐えられず、土下座して懇願し交換してもらったくらいだ。
あの日々は地獄だった。体を重ねる時もあまりに臭くて集中できなくて、
「今日は乗り気じゃない?」
なんて聞かれても、機嫌を損ねたくなくて我慢していた。なんでもないよ、と笑っておいたけど、やっぱり無理で変えてもらった。
「ねぇ、唯。今度の休みどこ行く?」
「んー、結美が行きたいって言ってたパスタ屋さんは?」
「それ家事当番サボりたいだけじゃん」
違うもーん! と抱きついてじゃれ合う。結美が脇腹をくすぐってくる。やーめーてー、と私は笑って、結美の首に手を回し、ぐっと顔を近づけてキスをした。ふふ、と笑い合う。
そのままお互い夢中で口づける。この関係がいつまで続くかなんて、考えないでいいように。私たちはいつだって仲良しだ。ケンカだってしない。お互い嫌なことは言うようにしたから。ヘアオイルのこともしかり。
それでも、ああ、今日もだなぁ、って思う。
煙草は吸わないでって言ったのに。これだけはやめてくれない。わかっちゃうよ、私。長生きしてよ。私を一人にしないで。




