90.ピンポイントを狙え
「へぇ……身体強化が出来るようになったか」
「へへっ、私のスキルって凄いでしょ!」
「あぁ、凄い。習得するまでに何年もかかるのに、そんなにすぐに習得できるなんて」
ダンジョン内に来たシグナさんと私。この間のガチャで身体強化を入手した話を伝えると、シグナさんは驚いた顔をした。
「だけど、あんまりそう言うことは言わない方が……」
「分かってるって! シグナさんだから言うんだよ! だって、シグナさんは悪いことを考えないでしょ?」
「まぁ……」
褒め返しをすると、少し照れたように視線を外す。だけど、通知音はしない。やはり、こんなやり方ではパラメーターの変化はない。
もう、こんな事では生ぬるいということだ。もっと、ガツンと行動しなければ、パラメーターの大きな変化は来ない。
さて、どうやってシグナさんを攻略しようか。以前の事を思い出してみよう。あの時は指の怪我を舐めただけで、一気にパラメーターが上がった。
これは、先に私のことを意識してないと無理だと思う。だから、シグナさんを攻略するなら、意識を向けさせるということじゃない。
もう、シグナさんは私のことをちゃんと見ている。なら、問題はそこから先だ。
どうすれば、もっと強く心を動かせるのか。私は腕を組み、うーんと唸った。
指の怪我を舐めたときはパラメーターが一気に変化した。それはシグナさんの感情が一気に揺れたということ。
恥ずかしいこと……距離が近いこと……。それに近いことをすればいいということ?
普通の会話や褒め言葉では足りない。もっと、心が大きく動くようなことをしないといけない。
近づく? 触る? それとも――。ちらりとシグナさんを見る。
シグナさんはいつものように周囲を警戒しながら、周囲に気を配っている。真面目で、優しくて、ちょっと不器用。だからこそ、ああいう突発的なことに弱い。
じゃあ、突然何かをすればいい? それも距離が近くて、触っていて……よしっ!
「シグナさん!」
声をかけて、シグナさんに飛びつく。大きな体に精一杯腕を回して、密着して抱きつく。
「私に身体強化を教えて!」
そうして、下から見上げて笑顔を振りまいた。途端にシグナさんの体が固まった。
「えっ、あっ……ま、まぁ……」
と、しどろもどろになり、視線を泳がせている。これはドキドキしたんじゃない? と、思っていると通知音が鳴った。
『シグナ・ヴォルグ 好感度 1アップ、愛情度 1アップ』
あーーーーっ! 1かぁーーーー!
そうだよね、指を舐めるよりも現実的だし、インパクトも薄い。もっと、強いことをしなくては。
とにかく、シグナさんの心を探ろう。
『急に抱き着いてきて、驚いた……。最近のリオは距離が近くて落ち着かない。でも、それって仲良くなったってこと? ……そうだったら嬉しい』
ふむふむ。どうやら、距離を近くするのは当たりのようだ。距離が近いとシグナさん的には仲良くなったって思ってくれているんだ。
だったら、もっと距離が近いことってなんだろう?
「じゃ、じゃあ……やり方を教える」
「うん!」
そんなことを考えていると、身体強化の特訓が始まった。シグナさんの攻略も大切だけど、こっちも大切だ。
特訓をしながら攻略をしていこう。
◇
「身体強化は、ただ魔力を出すだけじゃない。まずは、自分の魔力を体の内側に広げるイメージをする。外に放つんじゃない。体の中に満たしていく感じに」
「体の中に……」
私は自分の胸に手を当てた。魔力の感覚は分かる。魔法を使うとき、体の奥にある何かを動かす感覚があるからだ。
「それを、体の部位に付与する。例えば腕を強化するなら、腕の中に魔力を流し込むイメージだ。筋肉や骨を包み込むようにな」
「なるほど……」
分かったような、分からないような。
「じゃあ、やってみます!」
私はその場で目を閉じた。体の中にある魔力を意識する。胸の奥にある、温かい流れ。それを外に出すのではなく、体の内側へ広げる。
右腕に意識を集中させる。魔力を流す、流す、流す――。
「……どう?」
「うーん……なんか、ちょっと温かいかも?」
腕をぶんぶん振ってみる。でも、特に変わった感じはない。
「最初はそんなものだ。魔力がちゃんと広がっていないんだろう」
「そっか……」
私はもう一度集中した。今度は、もっと丁寧に。魔力を腕に送り込むイメージをする。じわ……っと腕の奥に何かが広がる。
「……あ」
少しだけ、力が入る感覚があった。
「今、ちょっと出来たかも!」
「いい。その感覚を忘れないで」
シグナさんが頷く。それから何度も試した。魔力を広げて、腕に流して、付与する。
最初はすぐに途切れてしまったけれど、繰り返すうちに少しずつ安定してきた。腕に薄く膜が張るような、不思議な感覚。
「……だいぶ形になってきた」
シグナさんが腕を組んで言う。
「本当?」
「あぁ。でも、まだ効率が悪い」
「効率?」
「今のやり方だと、魔力を押し込んでいる感じだろう?」
「うん……」
シグナさんは少し考えるように視線を上げてから言った。
「魔力は押すものじゃない。流すもの」
「流す……?」
「川を想像して。無理やり押し込むんじゃなくて、自然に流れていく感じ」
そう言って、私の腕をそっと取った。
「ここから、ここに」
指で腕の線をなぞる。
「魔力を通すイメージだ」
「通す……」
私はもう一度目を閉じた。今度は押し込むのではなく、流す。胸の奥から生まれた魔力が、肩へ。肩から腕へ。腕から指先へ。すっと、滑るように流れる。
その瞬間。ぐっ、と腕の中で魔力が一気に広がった。
「……っ!」
思わず目を開く。腕が軽い。だけど、力が満ちている。
「シグナさん! なんか、さっきと全然違う!」
思わず拳を握ると、空気を切る音がした。さっきまでとは明らかに違う感覚だ。それを見て、シグナさんが少し驚いた顔をした。
「……もうそこまで出来るの」
「え、すごいですか?」
「あぁ。普通なら、そこまで感覚を掴むのに何週間もかかる」
そう言って、小さく笑う。
「やっぱり、リオはすごい」
その言葉に、私はにやっと笑った。この時を待っていた。特訓をしながら、何をすればいいのか考えていたのだ!
「シグナさん、耳貸して!」
「?」
突然のことで不思議そうにする。だけど、素直に屈んで耳を傾けてくれた。これは、絶好のチャンス!
「シグナさんのお陰だよ、ありがとう」
笑顔でお礼を言うと、頬にそっと唇を寄せてチュッとキスをした。
「っ!!!???」
その途端、シグナさんの体が飛び跳ねる。耳がピンと立ち、尻尾の毛がボサッと膨らんだ。
ふっふっふっ! これは効くだろう! 突然だし、接触している、何よりインパクトがある!
そう思っていると、通知音が鳴った。
『シグナ・ヴォルグ 好感度 5アップ、愛情度 4アップ』
キターーーーッ! パラメーターの急上昇! これを待っていたんだよー!
ということは、あれが来るんじゃない?
ピロロロロンッ!
『シグナ・ヴォルグ 愛情度ランクアップのイベント開始』
『シグナ・ヴォルグの愛情度ランクアップのイベント開始を開始しますか? ▼はい いいえ』
シグナさんも来た、ランクアップイベント。選択肢はもちろん、はい!




