89.好かれるのは良い
夕日に照らされる通りを歩いて行くと、自分の家が見えてきた。すると、手をギュッと握られる。
「もう、着いてしまったか」
名残惜しそうなセリスさんの声が聞こえる。
「ここまでゆっくり歩いてきたから、結構時間がかかったと思うけど?」
「楽しい時間は一瞬で過ぎていくようだ。私はまだリオと一緒にいたかったから、物足りない」
「そ、そう?」
恋愛イベントでランクアップしてからというもの、セリスさんの態度が今まで以上に軟化した。こ、これが「好きな人」の効果なのか? 凄すぎる!
「今日は色々あったから時間がなかったけど、今度沢山時間を作って一緒にいようよ」
「……リオも一緒にいたいと思ってくれているのか?」
「うん、そうだよ!」
「……っ!」
元気よく答えると、セリスさんが片手で口元を覆ってソッポを向いてしまった。……あれ? なんか可笑しいこといった?
じーっと見つめていると、セリスさんの頬が赤いのが分かった。もしかして、照れている? それだけ、意識してくれているってこと?
それを自覚すると、むずむずとした心地よさが胸に広がった。なんだか恥ずかしくて、でも心地いい……。
もしかして、セリスさんも同じ気持ちなのだろうか? そう思うと、なんだか嬉しく感じる。
「セリスさんは嬉しい?」
「……えっと、その……う、嬉しい……」
「だったら、同じだね!」
「……あぁ」
照れたように微笑むセリスさん。その表情は可愛らしくて、普段の凛々しい姿からは想像が出来ないほどだ。
それを見ていると、こちらも感情が高ぶってしまう。あー、何これ! あー、何だこれ! 顔のニヤケが止まらんぞ!
「じゃ、じゃあ! セリスさん、またね!」
なんだか空気に耐えきれず、家の中に逃げようとする。と、手を掴まれた。
「待って!」
手を引かれると、そっと体を抱きしめられた。そして、頬に頬を重ねられた。急なふれあいに鼓動が高鳴る。
「……リオ、またね」
優しく抱きしめられると、名残惜しそうにセリスさんが立ち上がる。そして、微笑みを向けて、その場を去って行った。
◇
「わー、マジか! マジかー! あんなに態度が変わるんかー!」
ベッドの上でじたばたともがく。まさか、あんなに態度を変えるとは思わなかった。
「いやー……パラメーターの変化って凄い。全然、別人になった感じじゃん」
ベッドの上で仰向けになり、両手で顔を覆う。
「いやいやいやいや……」
頭の中で、さっきの光景がぐるぐる再生される。
手を握られたこと。照れてそっぽを向いた顔。そして――あの、ぎゅっとした抱擁。
「……無理無理無理無理!」
ごろんごろんとベッドの上を転がった。セリスさんが、私を意識するだけで、こんなにも態度を変えるなんて思わなかった。
今までのセリスさんって、凛々しい騎士。頼れるお姉さん。どんな状況でも落ち着いていて、ちょっとクールで、かっこいい感じの人だったのに。
それが今はどうだ。
「甘い……!」
枕に顔を埋めて足をばたばたさせる。距離が近い。やたら近い。なんかもう、視線とか声とか仕草とか全部が甘い。
「おかしいでしょ!? あんなの!」
さっきのセリスさんを思い出す。
『……リオも一緒にいたいと思ってくれているのか?』
あの期待した目。
『……っ!』
私が答えた瞬間のあの照れ方。
さらに――ぎゅっ。頬ずり。
「……ぐはっ」
私は枕に顔を埋めたまま硬直した。
「破壊力が……高すぎる……」
なんなの、あれ。今までの「凛々しい騎士モード」も十分かっこよかったのに。そこに「甘いお姉さんモード」が追加されたらどうなるか。答えは簡単だ。
「最強じゃん……」
強すぎる。破壊力が段違いだ。というか、距離感がおかしい。
「え、なに? これ恋愛イベントの効果? ランクアップボーナス?」
ベッドの上で天井を見上げる。
「パラメーター上がったら、ここまで変わるの?」
いや、そりゃ好感度が上がれば態度が変わるのはゲームでもよくある。でも普通はもう少し段階というものがあるはずだ。
たとえば、ちょっと優しくなるとか。笑顔が増えるとか。そういうレベルだと思っていた。
ルメルの時は距離が近くなる感じで、前よりも雰囲気が柔らかく甘くなった感じだった。だけど、セリスさんは凛々しい姿から甘い姿に……。
「ギャップ、強っ!」
ルメルは可愛いのがもっと可愛くなった。だけど、セリスさんは凛々しいから甘くなった。この違いがとても重い。
「はー……パラメーター、すごっ。こんなに変わっちゃうものなんだな。ということは、もしかしてシグナさんもこんな風に変わる?」
あのシグナさんが甘く? それを考えるとゾクゾクとしてきた。と、同時に興味が沸く。
「どんな風に変わるんだろう? 今のシグナさんに磨きがかかる感じ? それとも、態度豹変?」
そのことを考えると、そのことしか考えられなくなる。
「……みたい。シグナさんがどう変わるか見てみたい」
すぐにウィンドウを開き、シグナさんの愛情度を確認する。
「愛情度は34……。あと5上がれば、ランクアップイベント……」
攻略法が見つかった今、愛情度をいきなり5上げるのは夢ではない。一度の交流で5は確実に上げることも可能だ。
ということは、次の交流でランクアップイベントが来る可能性がある。
「……うん。明日、会いに行こう。そして、シグナさんのパラメーターも好きな人に変えてみせる」
こうなったら、徹底的に攻略する!




