85.クエストクリアと……
「本当にありがとうございます。大切なものが戻ってきて、助かりました」
「私も。疑いを晴らしてくれてありがとう」
店長と女性が感謝をしてきた。それだけで、とても嬉しい気持ちになる。すると、通知音がピロンと鳴った。
『クエストクリア! 盗まれた商品を探せ』
『クエストクリア報酬 300ポイント』
来た来た! クエストクリア報酬! 今回は人物が絡まなかったから、パラメーターには変化がなかったのかな?
「何かお礼をしたいのですが……」
「いや、もうお礼は受け取ったからいいよ」
「えっ? 何も渡してないけど……」
「見えないお礼は貰ったから、大丈夫!」
ここは格好良く、お礼はいらないと言おう。その方が締りがいい。
店長と女性は戸惑った様子だったが、しばらくすると納得したのか笑顔を浮かべてくれる。
「今度、お店に来たときは割引させていただきますね」
「私は今度あったら、お茶でもおごらせて。あっ、今でもいいわよ?」
「いえいえ、大丈夫! とにかく、事件が解決して良かった! じゃあ、そういうことで!」
私は張り切って手を上げると、お店から出ていった。ふふふっ、こうやって去って行くのカッコよくない?
意気揚々と歩いて行くと、手を引かれた。振り向くと、やっぱりそこにはセリスさんがいた。
「リオ、いいのか? 本当に何も貰わなくて」
「うん、大丈夫。もう、貰ったから」
「貰ったって、何を貰ったんだ。リオなら絶対に何か欲しがると思ったのに」
セリスさんにそう思われているなんて……。まぁ、いい。欲しがっているのは外れじゃない。だけど、ここは恰好をつけよう。
「大切なものをもらったんだよ」
「大切なもの?」
「そう感謝!」
私は胸を張って言い切る。
「事件を解決して、困っている人からありがとうって言われた。それで十分だよ」
言われるのは好きだ。だから、嘘は言っていない。セリスさんが、じっとこちらを見る。
「困っている人を助けられたこと。それが一番のもらい物だと思う」
にこっと笑うと、自分でいいながらも胸の奥がじんわりと温かくなった。本当にそう思っている。
ポイントも嬉しいけど、あの二人のほっとした顔の方が、ずっと価値がある気がするんだ。
……あれ? セリスさんが黙り込んでいる。さっきまで普通に話していたのに、急に静かになった。
「え、なに? 私、何か変なこと言った?」
首を傾げると、次の瞬間――ふっと、セリスさんの口元が緩んだ。それはいつもの呆れた笑いじゃない。どこか誇らしげで、柔らかい笑み。
「……いや」
ぽん、と大きな手が私の頭に乗る。わしゃ、と少し乱暴に撫でられた。
「その考え、とても立派だ」
「え?」
「騎士の心に近い」
騎士? 思わず目を瞬かせる。
「騎士はな、報酬のためだけに剣を振るうわけじゃない」
セリスさんは歩きながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「守るべきものがあるから立つ。困っている人がいるから剣を抜く。感謝の言葉一つで、また戦える」
視線はまっすぐ前を向いているけれど、声はどこか懐かしそうだった。
「もちろん、金も名誉も大事だ。だが、それだけで剣を握る奴は長くは続かない」
ぽん、ともう一度頭を叩かれる。
「助けられて良かったと思えるかどうか。それが一番大事なんだ」
「へぇ……」
「リオはまだ小さいのに、ちゃんとそこが分かってる」
少し照れくさそうに、セリスさんは笑う。
「騎士向きだな」
「そうなの?」
「そうだ」
そう言って、また頭を撫でる。……なんだか、くすぐったい。でも悪い気はしない。
「最後に残るのはありがとうの一言なんだ。それがあるから、次も守ろうと思える」
セリスさんの横顔は、いつもより少しだけ優しかった。
「リオはもう、それを知ってる。だから立派だ」
……そ、そんなに褒められると困る。
「べ、別にそんな大したことじゃないよ」
「いや、大したことだ。誇っていい」
その言葉に胸の奥が、じんわりと温かくなる。ポイント三百より、今の言葉の方が、ずっと重い気がした。
その時、通知音が鳴る。
『セリス・アルディア 好感度2アップ、愛情度5アップ』
こ、ここでキター! あそこで上がらなかったけれど、それに続く会話で良い感じの話題を引き出せたらしい。
これは美味しい。幸運で巡り合ったクエストでポイントをもらえるどころか、セリスさんのパラメーターの上昇も引き出せるなんて。幸運……恐ろしい子。
ピロロロロンッ!
すると、あの通知音が鳴った。この音はまさか!
『セリス・アルディア 愛情度ランクアップのイベント開始』
ここで来たか、ランクアップイベント!
『セリス・アルディアの愛情度ランクアップのイベント開始を開始しますか? ▼はい いいえ』
ここはもちろん、「はい」の一択でしょ!
ウィンドウをタップすると、ウィンドウが消える。セリスさんのランクアップイベント、何が来るんだろう。前回は会話イベントだったからな、今回は違うイベントになるのかな?
ドキドキしながら、セリスさんと並んで歩く。他愛もない会話をして、どんどん進んでいく。
そして、どんどん進んでいって――自分の家が見えてきた。あれ? ランクアップイベントは?
「今日はここまでだな。じゃあ、リオ。また今度迎えに行くよ」
「う、うん……じゃあ」
そうして、セリスさんは手を振って去って行ってしまった。えっと……ランクアップイベントはどうしました?
疑問に思って突っ立っているが、何も起こる気配がない。もしかして、今回のイベントはすぐに起こらない系?
時間が経過すると起こる感じだろうか? これだったら、いつイベントが来るか分からない。とにかく、いつかは何かが起こるんだから、その心づもりでいなくっちゃ。
そう思って、お店の扉に手を書けた時――私の手を誰かが握った。
「わっ!?」
思わずビックリして振り向いた。すると、そこにはスーツを着た中年の男性が立っていた。
「リオ・グランデ様ですね?」
こちらを見る顔は微笑んでいる。だけど、目が笑っていない。
「少々お話宜しいでしょうか?」
も、もしかしてこれがランクアップイベント?




