表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜はウィンドウで楽しい転生ライフを満喫中! ~ゲームのシステムを再現した万能スキルで、異世界生活を楽々攻略します~  作者: 鳥助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/93

76.第二段階目の恋愛イベント(2)

「聞いて欲しい話?」


 その一言に、胸がわずかに高鳴った。とうとう来たか、恋愛イベント的な展開。そんな期待が頭をよぎり、自然と鼓動が早くなる。


 けれど。目の前のルメルは、少しずつ表情を曇らせていった。


 ……あれ?本当に恋愛イベント? そう疑いたくなるほど、空気が重い。少なくとも、「好き」とか「気になってる」とか、そういう話題に入る前触れには見えなかった。


 黙って待っていると、ルメルは遠慮がちな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。


「私って……誰にでも良い人を装っちゃうんだ」


 思いがけない言葉だった。


「良いことをしたり、楽しませたり……そういうの、つい頑張っちゃって」


 装う?良い人を?


 それはまるで、今まで見てきたルメルの姿が演技だったと言われているみたいで、思考が一瞬止まる。


「必要以上に良い人を演じてるっていうか……誰からも好かれるように、振る舞ってるっていうか……」


 演じている。その言葉が、妙に重く胸に残った。


「やっぱり、私……良い子ちゃんに見えすぎちゃうかな?」


 視線が、真っすぐこちらに向けられる。口元は笑っているのに、目だけが笑っていない。評価を待つというより、答えを探るような視線だった。


 その瞬間、ウィンドウが開く。


『良い子ちゃんに見える』


『良い子ちゃんに見えない』


 ……来たな、選択肢。


 とはいえ、これはあまりにも直球すぎない? もう少しこう、柔らかく包んでくれても良くない? ダメ? あ、ダメですか。


 仕方ない。けれど、即答するには早い。まずは、ルメルの気持ちを整理しよう。


 ルメルは「どう見えるか」を聞いているようで、実際には別のことを気にしている。


 本当に知りたいのは「このままの自分で、誰かと深く関われるのか」その不安じゃないだろうか。


 誰にでも優しくて、場の空気を壊さなくて、期待される良い子。それは確かに好かれやすい。でも同時に、誰にも本心を見せていない状態でもある。


 好かれているのは演じている自分。じゃあ、演じるのをやめたら? 本音を出したら? それでも、隣にいてもらえるのか。


 きっと、ルメルはそこが怖い。


 だから、私の答え次第で「この人の前では、演じなくていいか」が決まってしまう。そう思っているから、あんな目で見てきたんだ。


 ……なるほど。これは恋愛イベントじゃない。信頼イベントだ。しかも、選択肢を間違えたら一気に距離が開くタイプのやつ。


 まだ、私は恋愛に発展するほどの信頼を勝ち取れていない。だからこそ、今このタイミングで、こんなイベントが用意されている。


 このランクアップイベントは、「気になる人」から「好きな人」へ変わる、その境目。ここで本当の意味で信頼を得られるかどうかで、淡い好意は、恋愛を意識した感情へと変わる。


 じゃあ、どちらの選択肢を選ぶべきか。


 正直に言えば、いつもの私なら『良い子ちゃんに見える』を選んでいたと思う。だって、それは事実だったから。


 今まで近くで見てきて、ルメルは必要以上に「良い子ちゃん」だった。その容姿があれば、無理にそう振る舞わなくても十分なのに。それでも、誰かに合わせて、誰かの期待に応え続けてきた。


 だけど、「演じている」と聞いて、私は少しだけ安心してしまった。


 だって、あんな完璧な良い子なんて、滅多にいない。本気で、天使なんじゃないかと思ったことだってある。


 でも違う。ルメルはちゃんとした女の子だ。


 嫉妬もするし、選り好みもするし、時にはわがままになりたいはずだ。誰にでも優しい自分じゃなくて、「自分が選んだ相手にだけ向ける感情」だって、持っていていい。


 ここで、こんな話を打ち明けてきたのは、並々ならぬ覚悟を決めたからだ。


 演じてきた自分も含めて、本当の自分を見てほしい。そう願ったから、ここまで踏み込んだ。


 でも、だからこそ。私は、それをそのまま肯定しちゃいけないと思った。


 「良い子ちゃんに見える」と言ってしまえば、今までのルメルを否定してしまうことになる。その中には、本当に他人を思いやった気持ちもある。それを、否定したくない。


 だから、私が選ぶ言葉は――。


「良い子ちゃんには、見えないよ」


 真っすぐに、逃げずに言った。ルメルが、はっとしたように目を見開く。


「な、んで……。リオなら、絶対に良い子ちゃんだって言うと思って……」


 その声は、驚きよりも少しだけ、怯えているように聞こえた。まるで、私に『良い子ちゃんに見える』と言って欲しかったように。


「ルメルはね、『良い子ちゃん』じゃなくて――『良い子』なんだよ」

「……『良い子ちゃん』じゃなくて、『良い子』?」

「うん」


 私は頷いて、続けた。


「良い子を演じてる、って言ってたよね。でもね、それが出来る時点で、ちゃんと他人を思いやる気持ちがあるってことなんだよ」


 傷つけないように、そっと笑う。


「自分のためだけに好かれようとしてたら、そこまで出来ない。ルメルは、相手がどう感じるかを考えて、傷つかないように振る舞ってきた。だから良い子でいようって選んだんだと思う」


 言葉を区切りながら、確かめるように続ける。


「そこには、独りよがりな気持ちなんてないよ。相手の立場に立とうとする思いやりがあって、優しさがあって……ちゃんと、人を大切にする気持ちがある」


 ルメルは、信じられないものを見るみたいに、じっと私を見ていた。だから、私は迷わず言い切る。


「確かに、演じてる部分はあるかもしれない。でもね、ルメルは優しくすること自体が好きなんだと思う」


 少しだけ声を和らげる。


「だって、誰かに優しくしてる時のルメル……すごく幸せそうな顔してるもん」

「……そう、なんだ」

「うん。その優しさは、きっと天性のものだよ。今まで見てきたのは、嘘でも作り物でもない。全部、ルメルそのものだ」


 そう言うと、ルメルは静かに俯いた。表情は見えないけれど、私の言葉を、胸の奥でゆっくり噛みしめているのが伝わってくる。


「……両親からね。他人に優しくしなさいって、ずっと言われてたの」


 ぽつり、ぽつりと、ルメルは言葉を落とす。


「その優しさは、いつか自分に返ってくるからって。うんと優しくしなさい、そうしたら幸せになれるからって……だから、私は……出来る限り、優しくしようって」


 私は、すぐに首を振った。


「ルメル、全部に優しかったわけじゃないよ。隣のクラスの子が乱入した時、ちゃんと断ってたでしょ」

「……」

「嫌なことは嫌って言える。それって、ちゃんと自分を大事にしてる証拠だよ。演じてるなんて言わない」


 そっと、ルメルの手を握る。驚いたように指がわずかに震えたけれど、振り払われることはなかった。


 私は真っすぐに、その目を見る。


「ルメルはね、演じてたんじゃない。本当の気持ちで、人と向き合ってただけなんだよ」

「……私、ずっと思ってた。自分は、嘘つきで……良い子のふりをしてる、悪い子なんだって……」

「違うよ」


 はっきりと、否定する。


「少しくらいなら、誰だって演じる。でもね、それが演技かどうかなんて、すぐに分かる」

「……」

「ルメルのは、そういうのじゃなかった。ちゃんと人を見て、考えて、向き合ってた。私はずっと、自然な優しさだって思ってたよ」


 本人は気づいていなかっただけだ。ルメルは、最初から無理をしていたわけじゃない。ただ、優しいまま、必死に生きていただけ。


 私はそのまま、そっとルメルの頭に手を置く。逃げないことを確かめてから、優しく撫でた。


「ルメルはね、良い子だよ」

「……」

「良い子ちゃんじゃない。本当に、良い子」


 その瞬間、ルメルの顔がくしゃりと歪んだ。


「……っ……ひどいよ、リオ……」


 震える声。


「そんなふうに言われたら……今まで、我慢してたの……全部……」


 ぽろり、と雫が落ちる。それを合図にしたみたいに、涙が止まらなくなった。


「私……私……ずっと、誰かに認めてほしかった……」

「……うん」


 私は何も言わず、ただ距離を詰める。肩が触れて、ルメルがそっと寄りかかってきた。


「ありがとう……リオ……」

「どういたしまして」


 小さく、耳元で囁く。


「ちゃんと見てたよ。ずっと」


 ルメルは、涙に濡れたまま、ぎゅっと私の服の裾を掴んだ。その仕草が、何よりの答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ