75.第二段階目の恋愛イベント(1)
「クッキー、美味しかったね」
「うん。それに、一緒に作るのも楽しかった」
お互いに笑い合った。クッキーを一緒に作るミッションは無事に終了して、その後のおやつタイムも楽しい時間を過ごせた。
ルメルの本当にやりたいことをやった。これで、好感度や愛情度が大幅に変わってくれると嬉しいんだけど……。
「今日は付き合ってくれてありがとう。友達と一緒に料理をする夢が叶ったよ」
考え事をしていると、そんな声が聞こえてきた。視線を向けると、ルメルがこれ以上にないってくらいに美少女な笑顔を見せていた。
「リオが友達で良かった」
その時、通知音が鳴り響き、ウィンドウが開く。
『ルメル・エリアミル 好感度3アップ、愛情度5アップ』
き、キターッ! 大当たりの結果だ! ふっふっふっ。これでルメルの攻略法が分かった。他人と仲良くすることも良いけれど、料理で攻めていけば、パラメーターが大幅にアップするんだ。
よしよし、これからは料理関係で――。
ピロロロロンッ!
いつもとは違う通知音が鳴り響き、ウィンドウが強制的に開く。
『ルメル・エリアミル 愛情度ランクアップのイベント開始』
あっ! 今ので愛情度が貯まったんだ!
『ルメル・エリアミルの愛情度ランクアップのイベント開始を開始しますか? ▼はい いいえ』
心の準備が出来ていなかったけれど、これはやるっきゃないよね。私は遠慮なく「はい」をタップした。
すると、ウィンドウが閉じる。一体、今回は何が起こるんだ。ここは私の家だから、他人が干渉することはないけれど……。
前回みたいな事件は嫌だなぁ……。なんか、もっと違う感じになれば……。
そう思っていると、またウィンドウが開く。
『私もルメルが友達で良かった』
『私はルメルと恋人の方が良かった』
……おいおいおい。この場の空気を読まない選択肢は何だ! 思わず選択しちゃいそうになるでしょ!
もっと、悩む選択肢をくれないと楽しくない! まぁ、恋愛イベントだからふざけるのはなしにして。問答無用で上を選択する。
「私もルメルが友達で良かった」
そう言うと、ルメルは目を見開いて驚いた顔をした。なぜ、そこで驚いた顔をする。これは、私の言葉が足りなかったということかな?
「……言葉、足りなかったかな」
そう前置きしてから、私は少しだけ息を整えた。
「最初はさ、ルメルとほとんど話したことなかったよね。挨拶とか、授業でちょっと言葉を交わすくらいで」
視線を逸らしつつ、思い返す。同じ教室にいても、距離はちゃんとあった。
「でも、席が隣になってから……本当に、たくさん話すようになった」
何気ない雑談。授業の愚痴。些細な出来事。
「それで、ルメルのこと、少しずつ分かってきたんだ」
顔を上げて、ルメルを見る。
「すごく優しいってことも。人の話をちゃんと聞いてくれるところも」
ちょっとしたことで頬を赤くすること。褒められると、どう反応していいか分からなくなるところ。
「どんなことで照れるのかも知ったし、甘いものが好きなことも、料理の話になると楽しそうにすることも」
言葉にするたび、胸の奥があたたかくなる。
「毎日、少しずつだけど……何かを知るたびに、ルメルが近くなってきた気がして」
最初はクラスメイトだった。次に、話せる相手になって。気づけば、もっと知りたい存在になっていた。
「もっと仲良くなりたいなって、自然に思うようになってた」
だから――。
「今回のクッキー作り、すごく嬉しかった」
素直な気持ちを、そのまま口にする。
「一緒に何かを作って、笑って、楽しい時間を過ごせて……今までより、ずっと仲良くなれた気がするから」
そう言って、私は小さく微笑んだ。
「だからね。ルメルと友達になれて、本当に良かったって思ってるよ」
飾らない、本心だった。始めは愛情度が上がる唯一の人物として近づいたけど、今ではなくてはならない存在だ。傍にいて当たり前だと勘違いしてしまうほどに。
気持ちを伝えると、ルメルは照れたように少しだけ俯いた。
しばらくの沈黙のあと、ルメルはぎゅっと指先を握りしめ、小さく息を吸った。
「……私もね」
俯いたまま、ぽつりと声を落とす。
「最初は、リオのこと……ただのクラスメイトだと思ってた」
少しだけ顔を上げ、困ったように笑う。
「ちょっとおかしくて、明るくて、周りを振り回す子、って。正直、それくらいの印象だったよ」
でも、と言葉を区切って、ルメルは続けた。
「席が隣になってから……そのイメージ、少しずつ変わっていったの」
視線が、床に落ちる。
「最初はね、ちょっととっつきにくい、変わった子なのかなって思ってた。距離の詰め方も独特だし、考えてることも読めなくて」
小さく、くすっと笑う。
「でも、違った」
今度は、はっきりと。
「ちゃんと人のことを見てて、思いやってて……踏み込みすぎないし、離れすぎもしない」
胸元に手を当てる。
「一緒にいると、居心地がよかった。気を使いすぎなくていい距離で、ちゃんと安心できる距離だった」
少し照れたように、頬が赤くなる。
「毎日、少しずつ話してたら……いつの間にかね」
声が、わずかに震えた。
「もっと話したいな、とか。もっと一緒にいたいな、とか……そう思うようになって」
顔を上げる。真っ直ぐに、リオを見る。
「気づいたら、リオがいるのが当たり前になってた」
ぎゅっと、唇を噛む。
「……いないと、落ち着かなくなってきてた」
照れ隠しのように視線を逸らしながら、それでも言葉を止めない。
「だから、今日のクッキー作りも……すごく、嬉しかった」
一緒に過ごした時間を思い返すように、微笑む。
「友達と料理するのが夢だって言ったけど……その友達がリオでよかったって、心から思ってる」
最後に、小さく、でも確かに告げた。
「私も……リオが友達で、良かった」
その言葉は、静かな部屋の中で、あたたかく響いていた。
でも、これが恋愛イベント? なんか、ちょっと違う気が……。
そう思った時、ルメルの表情が曇った。
「だから、そんなリオだから……聞いて欲しい話しがあるの」




