74.クッキー作り(2)
「小麦粉を振るって……」
「じゃあ、混ぜるのは私がやるね」
私がボウルの上で丁寧に小麦粉を振るっていると、ヘラを手にしたルメルが気合の入った声を上げた。
ボウルを手渡すと、ルメルは迷いのない手つきで材料を混ぜ始める。さすが料理店の娘だ。このあたりは、正直私よりもずっと手慣れている。
「この後は、形を棒状に整えてから切るんだよね?」
「うん、そうだよ」
……だけど、クッキーといえば型抜きだ。せっかくなら、あの可愛らしい形で食べてみたい。それが、転生者としてのささやかなこだわりでもある。
ここはこっそり、ウィンドウを操作して――クッキーの型を取り寄せる。ポイントは1。全然問題ないし、二つ頼んでおこう。
次の瞬間、手の中に銀色の型が現れた。ハートと星の形だ。……まぁ、無難だけど十分だろう。
「はい、混ぜ終わったよ」
「じゃあ、麺棒で伸ばそうか」
「えっ、どうして?」
「ほら、見て。この型で抜くんだよ」
「わっ……! なにこれ、可愛い!」
型を見せると、ルメルはぱぁっと表情を輝かせた。嬉しそうに型を手に取り、指先で縁をなぞりながら、しげしげと眺めている。
「まるで、貴族が食べているお菓子みたいな形に出来そう。流石、道具屋の娘だね。こういうのも手に入っちゃうんだ」
「まぁね。じゃあ、これを使ってクッキーを作ろうか」
まな板の上に生地を乗せ、棚から麺棒を取り出して転がしていく。生地は素直で、あっという間にちょうどいい薄さに伸びた。
「じゃあ、型を取っていこう」
「うん」
ルメルはハートを、私は星を手に取って、生地に押し当てていく。単純な作業なのに、不思議と楽しい。隣で同じことをしているだけなのに、心が落ち着いていく。
型を押すたびに、生地がきれいに抜けていく。ルメルが「次はここ!」なんて無邪気に声を上げるたび、自然と笑ってしまう自分がいる。
時々、ルメルの手元を見て、ハートの形が少し歪んでいるのに気づいて。そっと位置を直してあげると、指先が触れて、ドキッとした。
でも、どちらも何も言わなかった。ただ、顔を見合わせて、照れたように笑っただけ。
星とハートが並んで増えていく光景は、思った以上に可愛くて。まるで、私たちそのものを並べているみたいで、頭が浮かされていくようだ。
そして、型が抜き終わり、窯に入れて焼く。二人で窯の前でワクワクしながら待つ。すると、良い匂いが漂ってきて、二人でテンションを上げて焼き上がるのを待った。
しばらくすると、時間が来た。
「開けるよ」
「どうかな? ちゃんと、出来ているかな?」
二人でドキドキしながら、窯の扉を開ける。鉄板を掴んで外に出すと――。
「「わぁ!」」
こんがりと焼けたクッキーが現れた。
「よし! 成功だね!」
「うん! これは上出来だよ」
「「イェイッ!」」
鉄板をテーブルの上に置いて、二人で喜びのハイタッチをする。
「じゃあ、冷ましている間に紅茶でも入れようか」
「えっ、いいの?」
「もちろんだよ。クッキーには紅茶がなくっちゃね。ルメルのために、美味しい紅茶を入れてあげる」
「ふふっ、ありがと」
そう言って、私はヤカンでお湯を沸かし、ティーポットを用意した。母さんが隠していた紅茶を拝借して、紅茶を入れる。その頃にはクッキーも冷めていて、皿に移し替えた。
「準備出来たよ。じゃあ、食べようか」
「うん! いただきます」
「いただきます」
お互いに自分が作ったクッキーを手に取って食べる。サクッとした感触がしたあと、口の中でホロホロと崩れていく。
「うん、上手に出来てるね」
「美味しいね!」
「きっと、ルメルが上手に混ぜてくれたからだよ」
「そういうリオだって、丁寧に作業してくれたでしょ? だから、美味しいクッキーが出来たんだよ」
美味しさにつられて、お互いにお互いを褒める。それだけで、気分は爆上がりして楽しい気分になる。だから、ちょっと調子に乗ってしまう。
「はい、ルメル。私のクッキー食べて。あーん」
「えっ?」
意地悪な笑顔を向けて、星型のクッキーをルメルの口元に寄せた。すると、始めは良く分かっていなかったルメルだけど、事情が飲み込めて恥ずかしそうに頬を染めた。
「……自分で食べれるよ?」
「こういうのは、食べさせ合うのが美味しいじゃん。だから、あーん」
「……あーん」
照れ臭そうに口を開けた。その中にクッキーを放り込むと、ルメルが照れた様子で食べる。その光景だけで、ごちそうさまでした! と、声を大にして言いたい。
「どう? 普通に食べるよりも美味しく感じるでしょ?」
「うぅ、こういう時ってどう答えればいいの?」
「素直な気持ちでいいと思うよ? で、どう?」
「お、美味しいよ……」
ちょっと崩れた精一杯の笑顔を見せてくれる。ふっふっふっ、少しは感情を揺さぶることが出来たかな? あー、困っているルメルも可愛いなー!
「もう、リオばっかり……ずるい。わ、私もっ! はい、あーん!」
少し頬を膨らませて、私と同じように食べさせようとする。目の前に差し出されたハート型のクッキー。それを見た後、すぐに口の中に入れた。
「あっ……」
「うん、美味しいよ! ありがとね、ルメル」
「ぜ、全然照れてない!」
「そりゃあ、こうくると思っていたからね。事前に心の準備が出来ていたのだよ」
「……リオ、ずるい」
そう言って膨れるルメルを見て、可笑しくなって笑ってしまった。




