7.朝の時間
「んー……朝か……。朝っ!?」
眩しい朝日に起こされて、体を勢いよく起き上がらせる。すぐにウィンドウを開き、日常クエストを確認した。
「えーっと、今日の日常クエストはどんな感じかな?」
わくわくしながら、日常クエストの欄を確認してみる。
腕立て伏せ五十回【筋力+1】
スクワット五十回【耐久+1】
工作一時間【器用+1】
読書一時間【知力+1】
自室の掃除【ポイント+10】
「ふむ、新しい物と昨日と同じものがある」
一時間必要なのは地味に辛い。だけど、他のものならすぐにでも出来そうだ。とにかく、これを終えれば能力が上がり、ポイントが貰える。やらない手はない。
「まずは自分の部屋の掃除から始めようかな……」
そう思いながら着替えていると、扉がノックされた。
「おーい。今日は学校だろう? 早く、飯を食べろってさ」
聞こえてきたのはレオンの声だ
「あっ! そうだった!」
「おいおい、しっかりしろよ。スキルばかりに気を取られているんじゃないぞ」
「はーい」
しまった、今日は一日おきにある学校の日。服に着替えると、急いで部屋を出る。すると、そこにはレオンが待っていた。
「学校を忘れる馬鹿がいるか」
「えへへ、ごめん。つい、スキルに夢中になっちゃって。それにしても、もう学校行かなくていい人はいいなー」
「何を言っているんだ。学校を卒業したら見習いになったんだからな。それなりに大変だぞ」
「そう? あんまり、仕事してないじゃん。外に遊びに行ってばかりだし」
「それは、ちゃんとやる事をやったから行っているんだぞ。だから、リオはちゃんと今できることをやるんだ」
「はーい」
兄は軽口をいうし、母みたいに口うるさい。思わず耳を塞ぎたくなるが、耳を塞いだら軽口が飛んでくるからそれはしない。
二人で階段を降り、食堂に入っていく。すると、いい匂いが漂ってきた。
「二人とも、おはよう」
「「おはよう」」
ダイニングテーブルに父が座って待っていてくれた。私達が座ると、母がテーブルに皿を並べる。
「おはよう。二人とも、二階で何か喋ってなかった?」
「リオが今日の学校忘れてたんだぜー。スキルに夢中で」
「あー、言わないでよ!」
「もう! スキルの事が気になるのは分かるけど、学校は忘れないでよね!」
「うぅ、だってぇ!」
「まぁまぁ、昨日授かったばかりなんだから」
「もう! お父さんはそうやってリオを甘やかすんだから!」
朝からウチの家族は元気一杯だ。兄の軽口から始まり、母のお小言が飛んできて、それを窘める父。そして、私は小言に反抗したくなる。
普通の家族の元気な朝の風景だ。決して前世のように疲れが抜けずに、死んだ目をしていていない。騒がしいけれど、尊い時間が地味に心地いい。
「はい、食べるよ。いただきます」
「「「いただきます」」」
母の合図に私達は手を合わせて挨拶をする。目の前にはパン、スープ、目玉焼き、二本のソーセージ、ちょっとしたサラダがある。ウチの朝の定番だ。
まずは、スープから手を付ける。スプーンですくって、口の中に入れる。朝一番の水分と塩気に体が喜ぶ。
「はー……スープが染みるー。同じ味だけどー」
「同じ味で悪かったわね!」
「いやいや、それが良いって言っているの!」
「本当にー? そうは聞こえなかったけどー?」
「母さんの料理、王都一!」
「おだてても何もでないわよ」
朝から本当に賑やかだ。それが、とても心地いい。会話をするだけで食事が何倍も美味しく感じる。前世とは大違いだ。
「しかし、もうリオは十歳か。こんなに小さかったのに」
「ちょっ! 私は小石みたいに小さくないよ!」
「じゃあ、こんくらいだな」
「私はアリかい!」
父も兄も人をからかってくる。お陰で前世ではつまらなかった朝食の時間が楽しくてしょうがない。
「十歳って言えば、見習いになるまで後二年じゃない。もう、なんの見習いになるか決まったの?」
そこに、ちょっと真剣な母の声が聞こえる。王都では七歳から十二歳まで学校に通い、十二歳から十五歳までが見習いとして働き、十五歳になったら成人として一人前に働くことになっている。
兄のレオンは十四歳でウチの店を継ぐために店主の見習いをやっている。兄は進路が決まっていたが、私はというと――。
「んー。スキルで可能性広がっちゃったからなー。全然決まってないよ」
「全然決まってないってあんた……。職業体験も学校であるんじゃない? 何を受けるか決まったの?」
「あー、そういえばそんなものあったねー」
「ちょっと、しっかりしなさいよ」
そういえば、職業体験というものをしないといけないんだった。確か、近々皆から希望を聞くって先生が言ってたような……。
「前に言ってた、冒険者とかギルド職員とか料理人はいいのか?」
「冒険者にはなりたい! ギルド職員と料理人もいいけどー、物を売るのもいいかなーって思っている」
「ん? リオはウチを継ぎたかったのか?」
「えっ、今更そんなこと言われても困るぜ!」
「いやいや、ウチは兄さんが継ぎなよ。私は私で新しい店を建てる!」
私の言葉に父は不思議そうにし、兄は焦ったように抗議した。いやいや、もう兄がこの店を継ぐために見習いになっているんだから、それを乗っ取るような真似はしないよ。
自分の店を持つのもいいよね。スキルで色んな物を出して、それを売って儲ける……。うんうん、未来の大金持ちになれそうな気がする!
その時、母のため息が聞こえてきた。
「はぁ……聞くだけ無駄ね。どんどん、やりたいものが出てきて、絞れないじゃない」
「ふふん、私のスキルは万能だからね。職業体験は適当にやっておくよ」
「もう、あんたって子はー。先生に失礼がないように、ちゃんとやるのよ」
「はーい」
ふふっ、将来何になるか今から考えるのが楽しみだ。異世界だから冒険者は捨てがたい。異世界ならではのギルド職員っていうのもいい。前世の知識を活用して料理人になるものいい。スキルの物を売る商人でもいい。
まずは、手当たり次第に試してみて、それで自分の道を決めていけばいいや。とにかく、今はスキル! スキルで色んな事をする!
「ごちそうさま! じゃあ、学校に行ってきます!」
「昼食のサンドイッチを持っていくのよ」
「はーい」
朝食を食べ終え、台所にあった袋を持つと、食堂を飛び出していった。




