69.攻略法を探る(2)
さっきの方法ではダメだった。だから、違う方法を模索しないといけない。
冒険者っぽいことでは反応はあったけど、劇的に変化するってことはなかった。冒険者っぽいことでも上がりそうだけど、シグナさんは別の角度から攻めていった方がいいと思った。
でも、どうやって……。
「リオ、どうした?」
「えっ? いや、ちょっと考え事を……」
「こういうのは考えずに動いた方がいい。動いただけ、報酬が変わる」
おっと、そうだった。今は食料の調達をしているんだった。それをやりながら、考えを巡らせないと。
「じゃあ、次は……」
マップを見て、どこに何があるか確かめる。すると、川の方で反応があった。これは……川ガニ?
私は川に近づき、覗いてみる。だけど、見えるのは石ばかりで食料になりそうなものはなかった。
「もしかして、川ガニを探している?」
「えっ? 分かるの?」
「あぁ。昔、良く捕まえていたから」
どうやら、本当にここには川ガニというものが生息しているらしい。
「焼いて食べたり、汁物にして食べたり……美味しい食材だ。冒険者ギルドでもそこそこの値で取引されている」
「へぇ、そうなんだ。だったら、捕まえてみようかな」
「捕まえてみるといい。だけど、探すのは一苦労」
確かに、一見したらどこにいるか分からない。だけど、私にはマップ機能に備わった詳細表示機能がある。これを使えば、どこに潜んでいても一目瞭然なはずだ。
「見てて、沢山捕まえてくるから」
私は靴と靴下を脱ぎ、川の中に入った。
「冷たい! でも、気持ちいい! シグナさんも入る?」
「リオの邪魔をしたくないから、ここで待ってる」
川に一緒に入ってキャッキャウフフをしたかったが、今回はお預けのようだ。だったら、川ガニを探しに専念しよう。
マップを表示させると、拡大させる。すると、5m範囲にまで拡大することが出来た。えーっと、ここで反応があるのは……あっちか。
マップで川ガニの反応を調べ、そちらに近づく。印の前にたどり着くと、川を覗き見る。
「うーん。この辺にいるんだけどなぁ……」
上から眺めるが、中々見当たらない。だけど、この辺りにいるのは確かだ。もっと良く目を凝らしてみると……違った形をした石を見つけた。
「これは?」
恐る恐る手を入れて突いてみる。すると、石が動いた。もしかして、これが川ガニ?
もう一度突いてみると、石が動いてハサミになった。間違いない、これが川ガニだ。
「大きいなぁ……」
甲羅の直径でも10cmはありそうだ。これだけ大きいと、ハサミの力も強そうだ。このまま手を伸ばせば、ハサミで挟まれて大惨事になる。
「えっと、確か……後ろの方から……」
手を入れるのならば、絶対後ろの方からだ。そっと、川に手を付けて、後ろの方を掴む。持ち上げようとすると、川ガニがハサミをむき出しにしてきた。
「うわっ、怖い!」
ハサミに挟まれないように慎重に持ち上げる。すると、川ガニが川から持ち上がった。
「捕まえた!」
両手で持ち上げると、元気の良い川ガニがハサミをチョキチョキと動かしていた。
「シグナさん、見て! 捕まえた!」
「もう見つけたのか? 早いな」
「凄く大きくて、ビックリした」
「それくらいが標準サイズだ。もう少し大きな川ガニもいる」
「へぇ、そうなんだ」
川ガニを持って、川岸に近づいていく。とりあえず、近くてシグナさんに見てもらおう。そう思って、川岸に上がろうとすると――。
「あっ」
ずるりと滑りそうになり、体勢が崩れる。
「リオッ!」
すると、シグナさんの手が伸びてきた。が、それは必要なかった。なんとか、踏ん張れたからだ。
だけど、その代わりに――。
「……」
シグナさんの伸ばした手が川ガニの前で止まり、川ガニが思いっきりその手をハサミで挟んでいた。
「シグナさん、手! 手!」
「あぁ……。痛いな」
「痛いな、じゃないよ! すごく痛そうだよ!」
めちゃくちゃ痛そう! 慌てて川岸に上がり、そのハサミを掴んで外そうとする。だけど、思いの外力が強くで外せない。
「大丈夫」
シグナさんは落ち着いた様子でそういうと、片手でハサミを取ってしまった。
「ほら、ね」
そう言って、手を見せてくるが――血が出ている。
「ほらね、じゃないよ! 血が出ているよ! 止血しなくっちゃ!」
やっぱり、凄く痛そうだ! 血を止めることを考えると、とっさに体が動いた。
「じっとしてて!」
私はシグナさんの手を両手で掴み、傷口を確かめる。川ガニのハサミの跡はくっきり残り、じわじわと血が滲んでいた。
「リオ?」
その声を聞く前に、私は顔を近づけていた。
ぺろり。
舌に、ほんのり鉄の味が広がる。血の味だ。
「……っ」
構わず、もう一度。傷口に沿って、ゆっくりと舐める。血を吸い取るように、丁寧に。
「これで……」
もう一度、最後に軽く舐めてから、口を離した。血は、止まっている。ちゃんと止血できた。
「よし。止まった」
満足げにそう言って顔を上げると――。
「…………」
シグナさんが、完全に固まっていた。
口はわずかに開き、目は瞬きを忘れたように見開かれている。まるで、時間が止まったみたいだ。
「……シグナさん?」
返事がない。
「あ、あれ?」
嫌な予感が、背中をぞわっと走る。もしかして……。もしかして、やり方がまずかった?
「ご、ごめん! とっさで! 血が出てたから、その……!」
慌てて弁解しようとした、その瞬間。
ピロン。
軽い通知音が鳴り響いた。視界の端に、見慣れたウィンドウが浮かぶ。
『シグナ・ヴォルグ 好感度 3アップ、愛情度 5アップ』
「……え?」
思わず、声が漏れる。
慌ててシグナさんを見ると、ようやく我に返ったように、こくりと喉を鳴らした。
「……リオ」
「な、なに?」
低い声。でも、怒っている感じではない。
「……次からは」
一拍、間が空く。
「……一言、言ってくれ」
そう言って、目を逸らされた。顔が赤いような……
何かやっちゃいました?




