66.ものすごい上がった
「お母さん! お父さん!」
誘拐されていた子供の家を訪ね、玄関先に姿を現した両親の顔を見た瞬間、ザムズは弾かれたように駆け出した。そのまま勢いよく抱きつく。
「おぉ……ザムズ! よく無事で……!」
「本当に……どれだけ心配したことか……!」
両親は声を震わせながら、我が子を強く抱きしめ返した。失われていた時間を埋めるように、三人はしばらく離れようとしない。玄関先には、言葉よりも雄弁な安堵と喜びが満ちていた。
感動の再会がひと段落した頃、父親がそっと視線をこちらへ向ける。
「あの……失礼ですが、どうして皆さんがこの子を? 誘拐されたと聞いていたのですが……」
「実はな。誘拐の現場をこの子が目撃して、すぐに知らせてくれたんだ」
セリスさんが簡潔に事情を説明すると、父親は驚いたように目を見開き、すぐに深く頭を下げた。
「そうだったんですか……! 君が知らせてくれたおかげで、息子は無事に戻ってきました。本当にありがとう」
「ありがとうございます……心から感謝します……」
母親もまた、涙ぐみながら何度も礼を述べる。その言葉一つ一つが、胸に温かく染み込んできた。
助けられて、本当によかった。そう思わずにはいられない、穏やかな帰還のひと幕だった。
「犯人はどうなったんですか?」
「犯人はこちらで確保している。すでに王都警備隊へ引き渡した」
セリスさんの言葉に合わせるように、私たちの背後で控えていた数名の人物が一歩前に出た。統一された装備に、引き締まった佇まい。事前に連絡を入れていた、王都警備隊の面々だ。
その中から、一人の男性が代表として前へ進み出る。年若くはないが、落ち着いた雰囲気をまとった人物だった。
「王都警備隊を代表して、ご挨拶いたします。今回の件で多大なご心配をおかけしました」
そう言って、彼は深々と頭を下げる。
「お子様は無事に保護され、犯人は身柄を確保しております。現在、詳しい事情を確認している最中です」
「……そうですか……」
父親は胸をなで下ろすように息を吐き、母親はザムズを抱き寄せたまま、何度も頷いていた。
「つきましては、誘拐の経緯や保護に至るまでの状況を、改めて詳しくお伺いしたく思います」
「よろしければ、一度、王都警備隊の詰所までお越しいただけますでしょうか」
丁寧だが、職務としての確かな重みを含んだ言葉だった。両親は顔を見合わせ、短く言葉を交わすと、揃って頷く。
「分かりました。必要なことでしたら、何でもお話しします」
「この子のためにも……お願いします」
そう答える夫妻の表情には、不安よりも、ようやく事態が収束へ向かうことへの安堵が浮かんでいた。
こうして、事件は終息へと向かっていった。
◇
「セリスさん、今日はありがとうございました」
帰り道。通りを歩きながら、私は隣を歩くセリスさんにそう告げた。
「私の話を信じてくれて、嬉しかった」
子供が誘拐された、という突拍子もない話。それを疑うことなく受け止め、迷いなく行動してくれた。言葉だけじゃない、その誠実な背中が、何より心強かった。
「いや、こちらこそ礼を言わせてほしい」
セリスさんは足を緩め、穏やかな笑みを浮かべる。
「正直に話してくれて、ありがとう。君のおかげで事件は解決し、市民に平和が戻った」
逆に感謝されて、胸がきゅっとなる。その横顔は優しくて、それでいて凛としていて。一瞬、騎士としての顔が垣間見えた。
「私はね、騎士は剣を振るうだけの存在じゃないと思っている。市民の暮らしを守り、声なき不安に耳を傾ける。それもまた、騎士の役目だ」
真っ直ぐな言葉だった。誇りと信念が、静かに滲んでいる。
「今回の件で……少しだけ、目指していた騎士に近づけた気がする。こうして平和が守られたことが、本当に嬉しいんだ」
どこまでも騎士。その在り方が、眩しくて、少しだけ胸が熱くなる。
「それに……何より嬉しかったのは」
セリスさんは、ふと私の方を見た。
「リオが、正直に話してくれたことだ」
「……私が?」
「ああ。自分のスキルのことまで明かして、必死に信じてもらおうとしただろう。その心意気は、とても立派だ」
「そ、そんな……」
思いがけない言葉に、顔が熱くなる。褒められるなんて、考えてもいなかった。思わず視線を落としてしまう。
すると、歩みが止まった。
「リオ」
名を呼ばれて、はっと顔を上げる。
すぐ近くに、セリスさんがいた。柔らかく、それでいて真剣な眼差しが、まっすぐ私を映している。
「顔を上げて。君は、本当に立派なことをしたんだ」
その言葉は、剣よりも強く、胸の奥に届いた。
守られているのに、同時に認められている。そんな不思議な温もりが、心に静かに広がっていった。
「私はそんなリオが、誇らしい」
その言葉を口にした瞬間、セリスさんの表情がふっと緩んだ。いつも見せる穏やかな微笑みとも、騎士としての凛とした顔とも違う。心からの、まぶしいほどの笑顔だった。
「恐怖も、不安もあったはずだ。それでも逃げずに、真っ直ぐ向き合った。誰かを救うために、自分に出来ることを考え、行動した……それは、立派な勇気だ」
セリスさんの声は柔らかいのに、芯があった。一言一言が、私の胸に静かに積み重なっていく。
「剣を持たずとも、鎧を纏わずとも。今日のリオは、騎士みたいに強い心で、この事件に挑んでいた」
その言葉と同時に、また一歩、距離が近づく。なんだか恥ずかしい……。視線が絡み、逃げ場がなくなる。
……ずるい。
そんな顔で、そんなふうに言われたら。胸の奥が、熱くなって、落ち着かなくなる。
「……セ、セリスさん……」
うまく言葉が出てこない。視線を逸らそうとするのに、なぜか目が離せなかった。
「ふふ」
小さく笑う声が、やけに近い。
「その顔だ。そうやって戸惑いながらも、真剣に向き合うところが私は好きだよ」
不意打ちの言葉に、思考が一瞬、止まる。
「え……?」
意味を理解するより早く、頬が熱を帯びていくのが分かった。
「……あ」
しまった、と言うように、セリスさんは少しだけ視線を逸らし、咳払いを一つ。
「こ、これは……騎士としての評価、だからな? だが……今日のことは、きっと忘れない。リオがその強い心を見せてくれた大事な日だからな」
そう言って、もう一度だけ、優しく微笑む。
……騎士様、その笑顔は反則です。
意識が奪われていた、その時。
ピロン
いつものように通知音が鳴り、ウィンドウが開く。
『セリス・アルディア 好感度3アップ、愛情度5アップ』
ありえないくらいにパラメーターが上がって、思わず息を呑んだ。なんか、凄い上がった!?




