53.セリスさんの目標
『セリス・アルディアの愛情度ランクアップイベントを開始しますか? ▼はい いいえ』
来た来た来た! イベント告知ウィンドウ! もちろん選ぶのは、はい、だ!
タップして選択すると、ウィンドウはすっと閉じた。さてさて、どんな事件が起こるんだろう。護衛任務? トラブル? それとも二人きりでの外出イベント?
胸を高鳴らせながら待っていると、唐突にセリスさんがこちらを見て口を開いた。
「リオは、何か目標とかあるのか?」
……あれ? 事件らしい事件は起きない。どうやらこれは、会話を重ねて進行するタイプのイベントらしい。
そう考えた瞬間、視界の中央にウィンドウが浮かび上がった。
『目標はある』
『目標はない』
なるほど。選択肢形式か。ということは、この一つ一つの選択で愛情度の行方が決まる……つまり、ここは重要な分岐点だ。
ここは話を広げるためにも、上だろう。……というか、実際に目標はあるし、嘘でもない。
「目標ならあるよ。今はスキルに関係することを続けていくこと。やり始めると楽しくて、つい夢中になっちゃうんだ」
「そういえば、リオはスキルのことで色々やっていたな」
セリスさんは顎に手を当て、少し考えるようにしてから頷いた。
「身近で、しかも継続できる目標があるということか。それは良いことだ」
「毎日、目標を達成するために色々頑張ってるんだから」
「へぇ……毎日か。それは意外だな」
スキルは日常的に使っているし、日々の小さな目標を積み重ねている。そのことを伝えると、セリスさんはどこか満足そうな表情を浮かべた。
……これ、もしかして。ただの雑談じゃない。目標を持っているか、努力を継続できるか。人となりを、ちゃんと見られている気がする。
なるほど。セリスさんのイベント、思った以上に真面目だ。だったら、私も真面目に受け答えをした方がいいだろう。
『セリスさんも目標がある?』
『今度またスキルのイベントに付き合ってよ』
また、選択肢だ。この二択なら、なんとなく想像がつく。上は話しが発展して、下は話しが逸れる感じだ。
どうやら、このイベントは目標が一種のキーワードになっている気がする。だから、ここは目標を推していくのがいいだろう。
「そういうセリスさんには目標があるの?」
「私は……」
選択肢を選択して尋ねると、セリスさんが顔を伏せて口ごもった。おっ? なんか、言いづらい感じ?
「……笑わないか?」
「笑わないよ!」
「……本当か?」
「うん、本当!」
中々に用心深いな。それだけ、目標が言い辛いのだろう。でも、セリスさんが言い辛い目標っていうのは気になる。
私は黙って待っていると、セリスさんは意を決した顔になった。
「私の目標は――女性だけの騎士団を作ることだ」
「女性だけの騎士団?」
それがセリスさんの目標か。別に思ったよりも恥ずかしい目標じゃなかった。
「騎士団には男性が多く、女性が少ない」
セリスさんはそう言って、一度言葉を切った。まるで、ずっと胸の奥に溜め込んできた思いを、どう言葉にすればいいのか探しているみたいに。
「力仕事だ、危険だ、前線に立つ仕事だ……そういう理由で、最初から選択肢にすら入らない女性が多い」
「……」
「家族に反対される者も多い。『女の子なんだから、もっと安全な道を』ってな。理解されているとは言い難い」
静かな声だけど、そこには諦めと悔しさが滲んでいた。
「実際、訓練も任務も厳しい。命の危険だってある。だから、途中で辞めていく者もいるし、最初から志願しない者も多い。それでも……」
セリスさんは拳を、ぎゅっと握った。
「それでも、騎士という道を選んだ女性たちは、皆強い。身体的な強さだけじゃない。覚悟も、責任も、誇りもだ」
顔を上げたセリスさんの瞳は、まっすぐで、揺るぎがなかった。
「騎士は、誰かを守る仕事だ。弱い者を、理不尽から守るために剣を取る」
「うん……」
「危険だからこそ、価値がある。怖いからこそ、それでも前に立つ意味がある」
その言葉は、誰かに聞かせるためというより、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「私は、その誇りを、同じ志を持つ女性たちと分かち合いたい」
「だから……女性だけの騎士団?」
「ああ。守られる側じゃなく、守る側として立ちたい女性が、胸を張って集まれる場所を作りたいんだ」
セリスさんは、少し照れたように視線を逸らした。
「……理想論だと思われるのは分かっている。だから、笑われるかと思った」
でも、その表情は、どこか晴れやかだった。
切ない現実を知っていて、それでも諦めない。危険を理解した上で、それでも騎士という道の素晴らしさを信じている。
これは、ただの夢じゃない。セリス・アルディアが、騎士として生きてきたからこそ辿り着いた目標なんだ。
なんだ、全然恥ずかしくない目標だ。
「セリスさんらしい目標だね」
「……そうか? こんなこと、口に出したの初めてで……とても緊張した」
「恥ずかしいことなんてないよ。とても立派な目標だと思う」
「……そうか」
素直な気持ちを伝えると、セリスさんは照れたように頬をかいた。
ん、待てよ? じゃあ、セリスさんはその目標のために、私を騎士の道に引き込もうとしているってこと?
なるほど……。だから、熱心になるわけだ。近くに騎士になりそうな子がいれば、手をかけたくなるだろう。セリスさんが私に執着する理由が分かった。
「だから、セリスさんは私を騎士の道に進ませようとしているんだね」
「目標のためもあるが、私は純粋にリオが騎士の道も合うと思っているんだ」
そう言って、セリスさんは私を真っ直ぐに見た。
「リオは、自分の力をどう使うかを考えている。強くなること自体が目的じゃない」
「……」
「力を使って何かを達成しようとしている。その姿勢は、騎士にとって何より大切だ」
淡々とした口調だけど、その言葉一つ一つには確信があった。
「それに、日々の努力を怠らない。派手な成果がなくても、積み重ねを続けられる。スキルの訓練も、基礎も、誰に言われなくてもやっているだろう?」
……確かに、言われてみればそうかもしれない。
「騎士の適性は、剣の腕や体格だけで決まるものじゃない。恐怖を知った上で、それでも立ち上がれるか。自分より弱い者のために動けるか……そこだ」
セリスさんは、少しだけ目を細めた。
「リオは冷静だ。無謀なことはしないが、逃げるだけでもない。判断力があり、周囲をよく見ている。それは訓練では教えにくい資質だ」
まるで、ずっと前から観察していたみたいな言い方だ。
「……そんなに、見てたの?」
「ああ。騎士の目でな」
即答だった。
「だから言っただろう。私は無理に押し付けるつもりはない。だが、素質のある者に道を示さないのは、それはそれで怠慢だ」
セリスさんは、少しだけ困ったように笑った。
「女性だから、年若いから――そういう理由で可能性を閉ざすつもりはない。私は、リオに選択肢を渡したいだけだ」
その言葉は、勧誘というよりも、信頼に近かった。
……なるほど。
セリスさんは、私を「将来の戦力」として見ているだけじゃない。一人の人間として、可能性を見てくれているんだ。
「だから、騎士の道を勧めている。断っても構わない。それでも、私は……リオには騎士として生きる資質があると、本気で思っている」
そう言い切ったセリスさんの表情は、驚くほど穏やかだった。その信頼がとても心地よく感じるのは、きっとセリスさんの人となりがなせる業だろう。
その時、通知音が鳴った。
ピロロンッ!
『セリス・アルディアの愛情度ランクアップのイベントクリア』
どうやら、イベントをクリアしたみたいだ。どうやら、このイベントはセリスさんの気持ちを聞くイベントだったみたい。
お陰でセリスさんの事が知れて、また距離がぐっと縮まったような気がした。このイベントをきっかけに、どんな風に関係が変わっていくのか……楽しみで仕方がない。




