5.選択肢
「外食楽しみ! 金麦亭に行くんだよね?」
「そうよ。あそこはレストランよりも高くないのに、特別に美味しいからね」
「レオンの誕生日以来だなー」
「誕生日以外にも行きたいんだけどなー」
家族で並んで、夕日が照らし出す表通りを歩いていく。久しぶりの外食で私も兄のテンションが上がっている。
ウキウキで通りを進んでいくと、金麦亭の看板が見えてきた。私は駆け足になって扉に近づき、扉を開ける。すると、広いホールにはお客さんがいっぱいいた。
すると、店員がこちらに気づく。
「いらっしゃいませ! 空いているお席にどうぞ!」
そう言われた私たちは、空いている席に座った。
「さて、何を食べるかなー」
「俺は肉がいいな!」
「私は高いヤツ!」
「あんまり、高いのにしないでね……」
私たちは嬉しそうにメニューを見た。どれも美味しそうで、目移りしちゃう。
「リオ!」
その時、私を呼ぶ声がした。振り向くと、そこには学校の友達が立っていた。
「ルメル! お邪魔してるよー」
「いらっしゃい! はい、これお水ね!」
ルメルは満面の笑みを浮かべて、私たちに水を配った。
この子は、私の通っている学校でも知らない人はいないくらい有名な女の子だ。
まず、見た目がとにかく完璧。金色の髪がさらさらで、夕陽に照らされると本当に光って見えるくらい綺麗。長い睫毛の下にある瞳は透き通るような青で、笑うとキラキラと輝く。まるで、絵本の中のお姫様みたい。
でも、ルメルがすごいのは外見だけじゃない。性格も驚くほど良い。
誰にでも優しくて、先生からも同級生からも信頼されている。困っている人を放っておけないし、何より努力家だ。勉強も運動も完璧で、なのに自慢なんて一度もしない。
……つまり、完璧超人。学校一の美少女って言われてるけど、たぶん王都一でも通用すると思う。変人扱いの私なんて、よく一緒に話してもらってるなって不思議になるくらい。
「いやー、ルメルが可愛いから、今日もルメルを見にお客さんがわんさかだよ。よっ、王都一!」
「違うよー! 料理人さんの料理が美味しすぎるからだよ! あっ、誕生日おめでとう!」
「ありがとう!」
「良いスキルだった?」
「うん! 熱く語りたいくらいには良いスキルだったよ」
「ふふっ、無暗に語っちゃダメだからね。リオは可愛いから、スキルが良いと悪い人に狙われちゃう」
はー、私の事を可愛いって言ってくれるのはルメルだけだよ。本当にこの子はいい子……爪の垢を煎じて飲みたいくらいだよ。
「それで、何を食べるか決まった?」
「あっ、ちょっと待っ――」
ピロン
言葉を遮るように機械音が鳴った。私とルメルの間にウィンドウが出現したせいだ。だけど、私はウィンドウを起動していないのにどうして?
不思議に思い、ウィンドウを見て見る。そこには、文字が書かれていた。「メニュー表を見て決める」「オススメを聞く」と。
これは……選択肢? どうして、急にこんなものが出てきたんだろうか? もしかして、運命を左右する感じの選択ってやつ?
どうしよう……。普通ならメニューを選ぶんだけど、選択する気がなかった選択肢があると、そっちが気になる。
「……オススメってある?」
「オススメ、聞いちゃう? 実はね、今日は良いオーク肉が入ったの。だから、オーク肉のソテーがオススメだよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、それ一つ下さい」
「はい、ありがとうございます!」
ピロン
また機械音? ウィンドウを開くと、好感度の項目が赤く点滅をしていた。開いてみると、「ルメル・エリアミル 好感度1アップ」と表示されていた。
へー、好感度を左右する時って選択肢が表示されるんだ。なんだか、恋愛シュミレーションゲームをしているみたいで、凄くワクワクする。
でも、母の時のように選択肢がなかった場合もある。選択肢があったほうがゲームをしているみたいで楽しい。また、選択肢でないかなー。
そんな事を考えていると、ルメルは家族の注文を聞いて引き下がっていった。
◇
料理が来るまで、家族との会話を楽しんだ。だけど、選択肢は全く出てこなかった。うーん、どういう条件で選択肢が出てくるんだろうか? 気まぐれって事なんだろうか?
選択肢の検証をしていた時――。
「おまたせしました!」
ルメルの声がした。ルメルと他の店員が料理を持ってきてくれたのだ。すぐに私たちの前に出来立ての料理が並ぶ。
「美味しそう! いただき――」
ピロン
私と料理の前にまたウィンドウが現れた。今度は一体なんなんだ?
すると、ウィンドウには「そのまま食べる」「『もしかして、盛り付けした?』と聞く」と書かれてあった。
まぁ、普通ならすぐ食べるんだけど……。普通なら聞かない事が表示されているのが気になる。というか、この情報はどこから手に入れてきたんだ。
これを言ったら、何かが起こるのだろう。……凄く、気になる。
「えっと……、もしかして盛り付けした?」
「あっ、気づいた? 友達の誕生日だから、自分で盛り付けしてみたかったんだ。ど、どうかな?」
ルメルが恥ずかしそうにもじもじしながら聞いてきた。なんだか、恋愛シュミレーションゲームをしているみたいな気分になって、テンションが上がる。
新たな選択肢は出てこない。だったら、ここは前世の経験を活かした台詞を……。
「すっごく嬉しいよ! なんか、特別な料理って感じがして、誕生日にピッタリ! ルメル、ありがとう!」
「ふふっ、そう言ってくれると、頑張ったかいがあったよ。こちらこそ、ありがとう!」
ピロン
よし、反応があった。すぐにウィンドウを開き、確認する。そして、表示には――「ルメル・エリアミル 愛情度1アップ」と書かれてあった。
「いや、そっちかーい!」
「えっ、ど、どうしたの!?」
「ご、ごめん……こっちの話!」
「そ、そう? じゃあ、ごゆっくり」
思わず口に出してしまった。何でもないことを装うと、ルメルは不思議に思いながらも離れていった。
ふー、なんとかなった。っていうか、愛情度って恋愛感情のパラメーターじゃなかった? 同性でもその数値は上がるの?
「リオ、何しているの。料理が冷めちゃうよ」
「あ、ごめん。食べる、食べる!」
いかん。折角の誕生日の外食、楽しまなきゃ損だ。
一旦、考えるのは止めて、私は目の前の料理を食べ始めた。




