41.楽しい帰り道(1)
「それにしても、本当にセリスさんから会いに来てくれるなんて嬉しい!」
「騎士は約束を守るものだからな。当然だ」
さらっと言われた一言に、私は内心で「出た、騎士ムーブ……!」と震えていた。
通りをゆっくり歩きながら、セリスさんと並んで話す。騎士と子供という珍しい組み合わせのせいか、すれ違う人たちがちらちらとこちらを見てくるけれど、当の本人はまったく気にしていない。
「あれから、何か変わったことはあったか?」
「あの後は冒険者の職業体験をしたよ。それで、ダンジョンの中にも入らせてもらったの」
「ほう。ずいぶん思い切ったな。ダンジョンの中はどうだった?」
「凄かったよ! もう一つの世界があるみたいだった!」
冒険者の話をしたのに、セリスさんは眉ひとつ動かさない。嫌な顔どころか、少し楽しそうに頷いている。
「それは良い経験だ。若いうちに世界を知るのは大切だからな」
……え、止めないの? 騎士になれとか、安全第一とか、そういう話は?
てっきり騎士の話をされると思って身構えていた私は、拍子抜けしつつも心の中で盛大に動揺していた。
セリスさん……大人すぎない? 本当は騎士の話をしたいはずなのに、それを押し付けない。子供の選択をちゃんと尊重してくれる。
そんな態度を見せられると、私の好感度と愛情度が上がってしまうやろー!
私は必死に顔に出ないようにしながら、セリスさんの横を歩き続けた。騎士って強いだけじゃなくて、こんなにも格好いいものなんだと、改めて思わされたのだった。
その時――ピロン、と軽い音が鳴って、見慣れたウィンドウが出現した。
『トートバッグを作ったことを褒めてもらう』
『トートバッグで母さんと口論したことをいう』
こ、これは……選択肢くんじゃないか!
久しぶりの登場に、私は思わず背筋を伸ばす。これはもう間違いない。この話題を出すと、何かしらイベントが起こるやつだ。
え、どっち!?
「褒めてもらう」は分かりやすい。たぶん、優しく頭を撫でられて、「よく頑張ったな」なんて言われるに決まっている。危険だ。それは危険すぎる。心臓に悪い。
でも、「口論したことを言う」ってなんだ? 母さんと揉めた話をしたら、どう転ぶんだ?
説教? いや、セリスさんはそんな人じゃない……はず。
むしろ、落ち着いた声で「それでも自分の考えを伝えたのは立派だ」とか言われる可能性が高い。……いや待って、それも普通に惚れるやつじゃない?
どっちを選んでも、私の中でセリスさんの評価が上がる未来しか見えない。選択肢くん、容赦なさすぎない?
……これ、どう考えてもイベントだ。しかも、私がセリスさんへの好感度とか愛情度を上げるやつでは?
おかしい。おかしいぞ。いつの間にか、攻略される側が私になっていないか?
いや待て、冷静になれ私。こういう時は、予想できる選択肢を選ぶのが安全だ。でも、「口論したことを言う」?
なにが起きるんだこれ……。説教? 忠告? それとも騎士的な「家族とは云々」講義? 一瞬、最悪の未来が脳裏をよぎる。
……その瞬間、閃いた。
はっ! そうだ! この流れで口論イベントが出来るのでは!?
口論イベントが発生するってことは、イベントポイントが入る可能性がある! つまりこれは、ボーナスルート!
選択肢くん、そういうことだな?
だったら答えは一つだ。私は迷いを振り切り、下の選択肢を選んだ。
「そういえばこの間、トートバッグを作ったんだよね」
「ほう」
「それを母さんが気に入って、頂戴って言ってきてさ。奪われるのは嫌だったから、ちょっと口論になっちゃって」
言い終えた瞬間、内心で身構える。来るか? 説教。
「それは……よほど良くできたトートバッグだったんだな」
……え、そこ?
「口論したと言っていたが、大丈夫だったのか?」
「うん! トートバッグは渡せないけど、一緒に作ろうって話になったよ」
「なるほど。それは嬉しい展開だな」
穏やかに、しかも心からそう言うセリスさん。……え、優しすぎない?
責めない。否定しない。家族のやり取りを、ちゃんと前向きな結果として受け止めてくれる。
でも、私が望んでいる展開はこれからだ。
「それでね、その口論のおかげで、スキルが発動したんだよ」
「……口論で、スキル?」
セリスさんの眉が、ほんのわずかに動いた。よし、引っかかった。
「うん! 言い合いになった瞬間にピロンって鳴ってさ。結果的に、すごく良い効果が出たんだよ!」
「……なるほど。口論が、きっかけになったわけか」
真面目に納得しようとしているのが、逆に面白い。そして、私はひとつの結論に至った。
「というわけでさ」
「?」
「セリスさんとも、口論してみよう!」
「……は?」
完全に予想外だったのか、セリスさんが目を見開いた。
「えっと、ほら! イベント的に!」
「い、イベント……?」
まずい、通じていない。でも引くわけにはいかない。
「つまり!」
私は拳をぎゅっと握り、勢いよく宣言した。
「バトルしようぜ!」
一瞬の沈黙。――次の瞬間。
「……ふっ」
セリスさんの口元が、ゆっくりと吊り上がった。
「面白いことを言うな、リオ」
「え」
「私に勝負を仕掛けたな。だったら、騎士として正々堂々と受けてたとう」
その目は、完全に騎士のものだった。
クラスメイトはあんなに、バトルを受けてくれたなかったのに! セリスさんは簡単に引き受けてくれた!
そんな態度されたら、惚れてまうやろ!
その時、私の目の前にウィンドウが現れた。
『セリス・アルディアと討論』
『正論をぶつける』
『感情に訴える』
『代替案を提示する』
『子どもムーブ』
『話をずらす』
『相手の立場を肯定する』
『将来性を語る』
『損得勘定を提示する』
『運に任せる』
『沈黙する』
『必殺・価値観直撃』
『必殺・本音暴露』
『必殺・大人を信じる』
口論じゃなくて、討論のイベントがキターッ!




