4.ガチャ
「次は他の日常クエストを達成してこよう!」
まずは簡単そうなのからやってみよう。えっと、この中で簡単そうなのは……。
「百メートル全力疾走が一番早く終わりそう。じゃあ、外に出ようっと」
部屋を飛び出し、外に出る。通りには人が疎らに歩いており、走るのにはもってこいだ。
「じゃあ、よーい……ドン!」
自分で合図をすると、力強く地面を蹴る。精一杯腕を振り、足を動かし、前へ前へと走って行く。すぐに息が上がり、止まりそうになるのをグッと堪える。
とにかく、最後まで全力だ。そう思って、力の限りを尽くした。そして――。
ピロン
また、あの音が鳴った。私はすぐに立ち止まり、ウィンドウを確認する。すると、日常クエストの項目が赤く点滅していた。
すぐにその項目を選択すると、一番上の空欄に「百メートル全力疾走、達成! 敏捷+1」
「はぁはぁ、やった!」
ついでに自分のステータスを確認してみると、敏捷が一つ上がっていた。どうやら、本当に日常クエストをクリアすると、ステータスが上がるらしい。
「じゃあ、この調子で他のも終わらせよう! 次は一時間歩くだ!」
私はそのまま通りを歩き、クエストを進行させる。一人で歩いていくと、目の前から学校の友達たちの姿が見えた。
「あ、リオじゃん! 誕生日おめでとう!」
「ん、ありがとう! じゃ、そう言う事で!」
そう言って、近づいてくる友達たちに軽く挨拶をして、私は通り過ぎる。
「ちょっ、リオ! どうして、止まらないの?」
「今、スキルに連動しているクエストを消化中なの」
「えっ? スキルを使っているってこと?」
「まぁ、そう言う事。だから、止まれないんだ」
「……変なスキル貰ったんだね」
「まるで、リオみたい」
「なんだとー!」
説明すると、友達たちは渋い顔をしておちょくってきた。酷い言葉に怒って見せると、友達はからかうように笑う。
「リオのスキルはリオみたいに面白そうだね。楽しいことになりそう」
「もうすでに楽しい!」
「歩いているだけで? 変なリオ。じゃあ、私たちは行くね」
「スキルの事は、あんまり言いふらさない方が良いよ。明日、学校で会おうね」
「うん、分かっている! じゃあね!」
友達たちはそう言い残して、私の傍から離れていった。スキルはその人に与えられた特別な力。あまり言いふらさない方がマナーとされていて、重要な場面でしか言わないようにするのが当たり前だった。
まだ、ウィンドウの事は少ししか知らない。だけど、今の時点でとても期待が持てるスキルなのは分かった。
使いようによっては、とんでもないことも出来そうだから、しっかりと色々と考えてから使った方がいいだろう。
「歩きながら、色々と考えよう」
丁度、歩くだけのクエストだから、考える時間がある。のんびりと歩きながら、今後の事を色々と考えた。
◇
「四十八……四十九ッ……五十ッ! くはー、疲れたー!」
ピロン ピロン
最後の日常クエストを終わらせると、二回機械音が鳴った。いつもは一回だけなるのに、一体どうしたのだろうか?
息を整えると、早速ウィンドウを開いた。すると、通常のウィンドウに重なるように新しいウィンドウが開く。
そのウィンドウには「日常クエスト全部達成! 実績解除! ガチャ機能解放!」
「実績解除? ガチャ機能解放? まるでゲームみたい……」
多分、これは日常クエストを全部終わらせたことで実績が解除されたのだろう。そして、その報酬がガチャ機能というものだ。
「ほほう、今度はガチャか。どんなものなんだろう?」
まずは、クリアした日常クエストの確認。うん、ちゃんと筋力が一つ上がっている。
それが終われば、本命のガチャ機能の確認。ドキドキしながら項目を押すと、青い水晶の絵が表示された。
なぜ、水晶の絵が表示させられたのかは分からない。だけど、その水晶の下には「回数」と書かれていて、その隣には「1」という表示があった。
「ガチャが一回引けるってことかな? 引いてみたいけれど、その前に色々と確認しよう」
まず、回数はどうやって増えるのか。回数の所に指を乗せると、説明文が出てきた。
「えーっと、日常クエストの報酬、日常クエスト全部達成時の報酬、依頼クエストの報酬、臨時クエストの報酬、実績解除の報酬、ガチャなどで回数を得られる、と」
ここで、まだ出てきていない言葉が出てきた。依頼クエスト、臨時クエスト、実績解除だ。どういう時に発生するのかは分からないけれど、事前に何があるのか知れたのは良かった。
きっと、クエストはその時に出てくるものだろう。だったら、実績というのは? もう一度、ウィンドウを確認してみると、実績の項目が追加されていた。
それを表示されると、一番上の一行に文章が書かれていて、他は全部ハテナマークだった。
「実績が解除されたのは、日常クエスト全部達成の件みたいだね。この実績解除の報酬はガチャ一回か。なるほど、だからガチャ機能が解放されたのか」
どうせなら、始めから解放して欲しいけれど、これがチュートリアルだとしたらこういう風な機能が解放されるのもありだろう。そんなゲームもあった事だし、前世のゲームシステムに近い感じだ。
「ガチャの回数を増やす方法は分かった。あとは、貯めてから引くか、その都度引いて行くか悩むな……。必要な時まで貯めておくのが良いと思うけど、一回くらいなら試しに引くのもありだよね」
きっと、今後クエストをクリアしたり、実績を解除していけばガチャの回数は貯まっていく。だったら、ここは一度経験することにしよう。
「えーっと、ガチャはどんなものが引けるのかな……」
ガチャの項目に移動をして、詳しく調べる。すると、ハテナマークを見つけた。それをタッチしてみると、ガチャの内容が書かれたウィンドウが出てきた。
「えっと、中身は……Nのノーマル、HNのハイノーマル、Rのレア、HRのハイパーレア、SRのスーパーレア、SSRのダブルスーパーレア、URのアルティメットレアにランク分けされてる。貰えるものも色々あるなぁ……」
貰えるものはポイント、能力値、魔法、スキル、特技などだ。
「とりあえず、一回引いてみよう。まぁ、普通の運だから良いものは当たらなそうだけど」
物は試し。私は青い水晶をタップする。すると、青い水晶が光だし、その先から光が生まれて、グルグルと回り出す。そして、画面の前に来ると、光が弾けた。
光が収束すると「N」と書かれたカードが表示された。
「あー、まー、そんなもんだよねー」
そのカードがクルリと表を表示すると、そこには「ポイント+50」の文字が書かれていた。そして、そのカードが消失すると「ピコン」と機械音がなり、ポイントの項目が赤く光る。
「どれどれ……あ! ポイントが50換算されて、59ポイントになってる! まー、いいんじゃない。今日の五倍のポイントが入ったんだから」
始めのポイント50はありがたい。これで、貰える物が増えたも当然。
「じゃあ、このポイントで何を取るか……」
始めが肝心だ。よく考えて、物と交換しないと。
腕組をして考えていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「リオー、外に食べに行くぞー!」
「今、行くー!」
兄の声が聞こえてきて、考えが中断されてしまった。仕方がない、考えるのは後にして、今は食事を食べに行こう。
私は部屋を出て、兄と合流した。




