35.恋愛イベント(2)
「はぁ……話は分かったわ。でもね、暴力はいけないの。まずは話し合いで解決する方法を考えなさい」
「えー! だって、先に手を出してきたのはあっちなんだよ!」
「相手が手を出したからって、同じことを返していいわけじゃないのよ。他にも方法はあるでしょう?」
「ぶーっ、ぶーーっ!」
くっそ、先生め! 本当にブレないお堅い頭してるんだから!
私と先生は、廊下に出て今回の騒ぎについて話していた。事情はぜんぶ説明した。でも先生はいつも通り「暴力ダメ絶対」の一点張り。なんだか私が全面的に悪いみたいな空気にされてしまった。
でも、あれはどう考えても正当防衛だ。あっちは突撃してきて、言ってもやめない。ああいう時は、ちょっと痛い目を見せないと分からないってあるじゃん!?
……ま、前世の私なら先生の言うことの方がよく理解できたと思う。理屈では分かる。分かるんだけど。
私は今、リオとして生きてる。そして、この身体で感じること、この世界の中での私の正しさも大事にしたい。
だから、簡単に「はい、そうですね」なんて納得できないんだよなぁ。
先生は私に十分に注意をすると、教室の中に入っていった。私もその後を追い、教室の中に入ると――みんなが心配そうに私を見ていた。
「はい、ごめんなさいね。少し遅れたけれど、授業を始めます。私語は謹んでね」
みんなが私に話しかけたい雰囲気を察してか、先生は自分の仕事を優先した。すると、みんなは口をつぐんで視線だけを寄こしてくる。
この状況で授業を開始するとは、先生はやっぱりお堅い。仕方なしに私は自分の席に戻っていった。
「……」
すると、無言のルメルが心配そうに視線を向けてくる。何か言いだしたい雰囲気だけど、先生から喋るなと言われているため、口を開けない。
話したい気持ちは分かるけれど、先生に反抗したら、また小言を言われる。私はとりあえず笑って見せると、先生の方を指さした。
ルメルは切なそうに顔を歪めた後、ゆっくりと先生に視線を向けた。
「じゃあ、王国史の教科書の四十二ページを開いて」
そして、微妙な空気で授業が始まった。
◇
ガラン、ガラーン
「あっ、鐘が鳴ったわね。じゃあ、一時間目は終わりよ。十分の休憩ね」
先生がそう言った、瞬間――。
「「「リオッ!」」」
「わっ!」
クラスのみんなが私に殺到した。
「リオ、なんでもなかった!? 大丈夫だった!?」
「リオがやってくれたから、スカッとしたぜ!」
「先生になんて言われた!?」
近づいてきたクラスメイトは口を開き、色んな事を聞いてきた。だけど、みんながワーッというので、どれに返答していいか分からない。
というか、先にルメルと話をしたいんだけど……。そう思って見てみると、ルメルも話をしたいような視線を向けてくる。だけど、みんなに阻まれているみたいだ。
「リオってあんなに力持ちだなんて知らなかった!」
「あいつら、隣のクラスで偉そうにしてたやつなんだよ。ざまぁみろってんだ!」
「先生に注意されたと思うけど、私はリオのやったことは悪くないと思う!」
「ま、まぁまぁ……みんな落ち着いて。私なんかよりもルメルのことが心配だよ」
「そうだ! ルメル、平気!? あいつらに嫌なことをされたんでしょ!?」
「あいつらに嫌な目にあっていたのに、なんで言ってくれなかったんだ!」
「ルメル、大丈夫? 嫌な目にあって、大変だったよね?」
私の言葉に今度はルメルに注目がいった。突然注目されたルメルは焦ったように口を開いた。
「う、うん。何も言わなくてごめんね。自分で解決出来ると思っていて、何も言えなかったの」
「あいつら強引だったよね! 本当に失礼しちゃう! リオがもっと投げ飛ばしてやればよかったのに!」
「く~、俺も参戦したかったぜ!」
「あいつらに酷いことされなかった? 私もやり返したかった!」
ワーッとなってルメルに話しかける。その数の多さに二人で圧倒されていると――。
「こらこら、今、聞き捨てならない言葉を聞いたわ。喧嘩に加わるとか、やり返したいとか、そういうのはダメよ!」
先生が怒ったように輪に入ってきた。
「でも、先生! 向こうから手を出してきたんだぜ! やり返さないと、ルメルがやられてた!」
「そうだよ! 話を聞かなかったのは向こうなんだから! 向こうが痛い目に合うべき!」
「酷いのはあいつだったぞ! リオは正しいことをした!」
みんなが声を上げて私たちを守ろうとしてくれた。それでも、先生は――。
「だからって、暴力を正当化したらダメよ。他に手段があったはずよ」
あくまでも、暴力は反対してきた。それには、クラスメイトは抗議の声を上げる。
さて……こんな状況だけど、一つ気になることがある。まだ恋愛イベントが終わったという合図がないことだ。
だから、まだこれは恋愛イベントの最中だと言える。ルメルに直接関係がないように見えて、きっとここでの選択肢が恋愛イベントの成功を分けるものだと思う。
私の経験だと、そろそろ選択肢が――。
ピロン!
ほら、来た!
『暴力を止めるには暴力しかない』
『他の手段を提案する』
……ほう、そういう選択肢が出てきますか。今のクラスの雰囲気とか、私の気持ちを考えると、上を選びたい。もう、暴力には暴力しかないだろ!
だけど、これはイベントだ。イベントにふさわしい選択肢を選ばないといけない。だから、ルメルの気持ちが一番大事だ。
クラスのみんながやり返してもいい、と声を上げているのを、ルメルは心配そうに見ている。その様子を見る限り、あまり好感触じゃない。
だから、ここは下を選択するのが正解だ。だけど、それだとみんなの気持ちを無視することになる。だからここは、下を選びつつ、みんなの気持ちをまとめる言葉が必要だ。
「分かった。……やり返したりは、しない」
「リオッ!?」
「まじかよ!?」
「え、どうしたんだ……!? 熱でもあるのか!?」
クラス全員が、私の言葉に口をポカンと開けた。そりゃそうだ。いつもの私なら、倍返しがデフォだと思われてる。いや、実際そうなんだけど……今日だけはちょっと格好つけたい。
「でも、代わりにみんなでルメルを守る!悪い奴が来ても、殴ったり蹴ったりはしない。やり返さない。けど! クラス全員で前に出て、圧だけで追い返す!」
私は胸を張って宣言した。
「つまり……物理的じゃなくて精神的な総攻撃をするってことだな?」
「数の暴力……だけど合法!」
「うん、リオらしい!」
うるさいわ、誰よリオらしいって。でも、暴力がダメなら、合法的な圧で対抗するしかない。三十対一なら、そりゃ誰でも逃げるでしょ。
「……まぁ、暴力を振るわないのであれば、いいわ」
先生が渋々うなずいた。
よし、妥協成功。ふふん、どうよ先生。私だってやるときはやるんだから!
「じゃあ、みんな! 今度から数の力で追い返すよ!」
「やってやろうぜ!」
「私もやる!」
「みんなでルメルを守るぞー!」
私の言葉でクラスが一致団結した。これなら、みんな納得してくれた。我ながら、良い考えだった。
ふと、気になって隣のルメルを見てみると――どことなくホッとした様子だった。どうやら、この選択肢は間違いじゃなかったらしい。
だけど、まだイベント終了の合図はない。どうやら、まだ何かあるみたいだ。




