33.効果のある日常
「おはよー! おはよー! おはよー!」
登校中、生徒と思われる子供に朝の挨拶をする。すると、みんな慣れたのか普通に返事が返ってきた。
「まーた、リオの挨拶走りだよ。おはよー」
「ちょっとは落ち着いて歩いて行けばいいのに。おはよー」
「リオは朝から元気だな……。はよー」
やり始めは挨拶しか返ってこなかったけど、今では一言ついて挨拶が返ってくる。それが、地味に嬉しい。
そして、その後はやっぱり通知音がなった。それから、ウィンドウが開き、好感度が上がったことを知らせてくれる。それと……その人物の後ろにはキラキラとした光と小さな花が舞っていて、とても綺麗だ。
うんうん、なんかこう……アクションがあるだけでやりがいを感じる。上がった感が強くて、嬉しくなるようだ。
ふっふっふっ、このまま学校の生徒全員の好感度をマックスにして、私の言うことを聞いてもらうことにしよう。何を言い聞かせるのかは分からないけれど、覚悟しておけ!
ルンルン気分で通りを駆け抜け、学校に入っていく。すれ違う生徒に挨拶攻撃を仕掛け、通知音の心地よさと効果の目新しさに朝から良い気分だ。
「おはよー!」
教室に入りみんなに向けて挨拶をすると、みんなが挨拶を返してくる。
「おはよ、リオ! やっぱり、リオの声はいいね。元気が出る」
「そうなん? ありがと!」
「リオ、おはよー。今日も学校だるいなー」
「だるだるだよー。でも、元気だしてこ」
「リオー! 朝から親に怒られたー。おはよ」
「おー、よしよし。元気だしな」
やっぱり、みんなの好感度が上がってきているせいか、距離が以前よりも近くなっているような気がする。仲良くなってきたようで何よりだ。くっくっくっ、好感度の僕にしてやろう。
友達に囲まれた後、すぐに席に行った。すると、先に席の隣にいたルメルが明るい声をかけてくれる。
「リオ、おはよ!」
「うん。ルメル、おはよ!」
「最近、リオって色んな子に話しかけられるよね。やっぱり、挨拶の力?」
「うーん、そうかも?」
「ふふっ。リオは仲良くなるの上手だね」
「そういう、ルメルこそ!」
私は勢いよく身を乗り出した。
「王都一の美少女で! 気品もあって、優しくて、話すだけで周りがぱぁって明るくなるし! 笑ったら一瞬で十人くらい惚れるし! あれ絶対、光属性の魔法か何かだよね!? もう、人気が出ないほうが異常だよ!」
「ちょ、ちょっとリオ!? 褒めすぎだからぁ!」
ルメルの耳まで真っ赤になり、私の肩を軽く叩いてくる。でも、その表情は嬉しそうだった。
その時、いつものように通知音が鳴り、『ルメル・エリアミル 愛情度1アップ』とウィンドウが現れた。
こ、これは……! 愛情度アップの効果が見られる? 内心ドキドキしていると、その効果が現れた。
ルメルの背後に光の柱が立ち上がり、ふわふわと大量のハートが舞い上がる。同時にちっちゃい天使たちが祝福の合唱を始め、彼女の頭上には光輪まで浮かび上がった。まるで女神の降臨シーンのような幻想が、教室の一角に広がった。
いやいや、神様! これ、大げさすぎ! そんなん、愛情度が上がった感動が薄れていってしまう!
「ど、どうしたの?」
「えっ、まぁ――えぇっ!?」
不思議そうにこちらを見てくるルメルの目の中にハートのリングが表示されていた。まさか、効果を目に入れてくるとは! 目の中にハートを入れると卑猥な表現になって、ちょっとエロいから! 私、まだ、十歳だから!
くっ……神様め。とんだ効果を入れてきた。面白いけれど、ちょっと私の趣向には合わないというか、いや、面白いんだけど……。
「なんか、私の目をじっと見ている気がするんだけど……。何か、ついている?」
「えっ、あぁっ! ちょっと、まつ毛が一本ついているだけだよ! 気になってみてたんだよ!」
「そうなの? じゃあ、取ってくれない?」
ハートのリングが浮かんだ目で首を傾げてお願いされた。ぐっ……! なんで、目の中にハートのリングがあるだけで、卑猥な気持ちになるんだ!
落ち着け……これはただまつ毛を取るフリをするだけ! 大丈夫、大丈夫! 何もないから!
恐る恐る、ルメルの顔に手を伸ばす。その間もハートのリングをつけた目が見てきて、気持ちが動揺する。そっと、目の上に指を乗せると、まつ毛を取るフリをした。
「はい! もう大丈夫だよ! いつもの美少女大天使ルメルちゃんになったよ!」
「もう、だから褒めすぎ。でも、ありがとう」
ふー、何事もなくてよかった。良く見ると、ルメルの目からハートのリングも消えたようだ。これで、平常心に戻れる。
しかし、あの神様……余計な効果をつけて。動揺したじゃない! これはすぐに要望を送らなければ!
ウィンドウのシステム欄を開き、速攻で文字を入力して送信した。これで、要望が通っていれば、愛情度が上がった時の効果が変わるはずだ。
……確認したい。だが、そのためには愛情度を上げるしかない。現状、この場で愛情度が上がるのはルメルしかいないのだ。
ルメル、確認の犠牲になってくれ! 私は意を決して、ルメルのほうへ勢いよく振り返った。
「ルメル!」
「えっ、な、なに?」
突然呼ばれたルメルが、ぱちくりと瞬きをする。よし……いける。私は前のめりになり、手をぎゅっと握りしめる。
「ルメルってさほんっとうに、世界一可愛いよね!」
「へっ!?」
「いつ見ても可愛いし、どの角度から見ても可愛いし、ていうかもう、空気に触れただけで輝いてて、その輝きでみんなの人生を明るくしてるし! もし私が神様だったら、絶対に美の象徴って称号をあげてるよ!? いやむしろ、もうそのレベルで尊い!」
「ちょ、ちょっとリオ!? え、え? そんな、あの……」
ルメルが耳まで真っ赤になり、手をばたばたさせる。しかし私は止まらない。効果確認のためにも、ここは攻めるのみだ!
「それにね、ルメルが笑うとさ、胸の奥がぽわって温かくなるんだよ? なんか……見てるだけで幸せになるっていうか! たぶん私、ルメルの笑顔が好物なんだと思う!」
「こ、好物!?」
ルメルの顔が一気に赤一色になった。さらに私は手を伸ばし、そっとルメルの手に触れる。
「それにさ……もしルメルが悲しかったり困ってたら、私、なんでもしてあげたいって思うよ。ルメルのこと、すっごく大事だから。ほんとに誰よりも」
「~~~~っっ!!」
ルメルは真っ赤になり、俯いて耳まで覆ってしまった。
「り、リオ……い、今の……ずるい……。そんなこと急に言われたら……」
声が小さく震えていて、少し涙まで滲んでる。や、やばい……可愛すぎる……!
そして――ピロン!
『ルメル・エリアミル 愛情度1アップ』
よしっ! 効果くるか!?
すると、ルメルの後ろでハートが現れたと思うと、そのハートが弾けてそこからまた小さなハートが沢山生まれた。そして、キラキラと消えていく。
……ほう、効果が変わっている。じゃあ、ハートの目は?
「ルメル、こっちを見て」
「えっ、そ、そんな……」
「お願い」
真剣にお願いをすると、ルメルは動揺しながらもこちらに目を向けてくれる。すると、その目にはハートのリングが表示されていなかった。
よ、良かったー! こんな感じで普通でいいんだよ、普通で! まぁ、でも、面白かったかな。時々ならハートのリングもあってもいいかもしれない。本当に時々なら。
そう思っていた時――。
ピロロロロンッ!
いつもとは違う通知音が鳴り響き、ウィンドウが強制的に開いた。
『ルメル・エリアミル 愛情度ランクアップのイベント開始』
なんか、始まった!




