30.冒険者の職業体験(6)
「みんな、ダンジョンはどうだった?」
通りを歩いていると、お姉さんが尋ねてきた。
「想像以上に凄いところでした!」
「感動しました!」
「早く冒険したいってなりました!」
私たちはその質問に元気よく答える。とにかく、ダンジョンは凄かった。どこまでも広がる空と大地、まるで現実世界と変わらない世界が広がっていて感動した。
「じゃあ、将来は冒険者になってくれるかな?」
「いやー、それはちょっとまだ分からないです」
「冒険者はなってみたいけど、まだ決められないし」
「俺も、俺もー」
「くっ……。子供は正直っ」
冒険者になりたいけれど、それを将来の夢にするのはまだ早い。とにかく、今はやりたいことが多すぎて決められないのだから。
「もう冒険者に登録出来る年齢なのよ。もっと、前のめりになって!」
「だけどねー、親が許してくれないんですよー」
「そうそう。出来れば、見習いの年齢になってからだって」
「今すぐにでも登録したいけど、親がなー」
冒険者に登録できる年齢になったけれど、私たちはまだ子供。親の保護下にあるため、簡単には登録出来ない。やっぱり、どこも見習いになる年齢まではやらせたくないのだ。
「そうよねぇ……。見習いになる時期があるから、その時期に登録させたいっていう気も分かるわ。でも、今の時期でも十分に出来ることはあるわけだし……。何かいい手は……」
お姉さんが難しい顔をして考える。すると、ハッとした表情になって、隣のシグナさんを見た。
「そうよ! シグナが付き添うっていうことにしたら、親御さんも許してくれるんじゃないかしら?」
「シグナさんが?」
「「ヒッ!」」
それは名案じゃないか! Aランクの冒険者が付き添ってくれるのなら、きっと父さんも母さんも許してくれるに違いない!
「見習いになる準備っていうことで、シグナが面倒を見ることにすればいいのよ!」
「……何故、私が……」
「いいじゃない! 依頼がなければ暇しているんでしょ? 後続のためだと思って、ここは子供たちの面倒を見るべきよ!」
「い、いや……俺たちはこ、怖いから遠慮したいんですが……」
「同感、同感!」
お姉さんだけが張り切って、男子たちは引き気味だ。シグナさんはというと、感情の読めない無表情になっている。
「じゃあ、決定っていうことで! シグナ、あなたが未来の冒険者を育てるのよ!」
「……だから、何故私?」
「「お、俺たちは遠慮します~! じゃ、じゃあ! そういうことで!」」
シグナさんが私たちの面倒を見ることを強引に決定すると、男子たちはシグナを怖がってさっさと帰ってしまった。いや、このチャンスを棒に振るとは何事か!
「くっ、二人が逃げてしまったわ。シグナが怖い顔をするから!」
「……私はいつも通り」
「もっと、笑ってくれたら良かったのに。シグナの馬鹿!」
「……そんなこと言われても」
お姉さんは悔しそうにするが、シグナさんは無表情のままだ。ふむ、やっぱり何を考えているのか分からない。やっぱり、ここは心のウィンドウを開いてっと。
『やはり、私が怖いせいか? 折角、沢山話せて仲良くなれたと思ったのに……』
心の声を聞くと、どことなく雰囲気がしょぼくれているような印象を受けた。じゃあ、ここは私が慰めてあげないとね!
「シグナさん! あの二人はダメだったけど、私を連れて行ってください!」
「……」
「シグナさんのこと、全然怖くないので大丈夫です! というか、もっと知りたいです!」
私を冒険に連れていけぇ! そして、あの世界を堪能するんじゃぁ! それにシグナさんのことも気になる!
そう言うと、シグナさんの目が少しだけ見開いた。じっと私を見つめてきて、何も喋らない。じゃあ、心のウィンドウはなんて言っているのかな?
『この子……凄い。私を避けない。嬉しい。もっと、お話してみたかった』
その時、通知音が鳴り響いた。これはこれは、好感触なんじゃないか?
私はスッと手を差し出すと、シグナさんは困惑した顔になった。
「これからよろしくお願いします!」
「……あぁ」
その私の手を少し躊躇しながらシグナさんの大きな手が掴む。よし、シグナさんのコネをゲットだぜ!
◇
「さてと、お楽しみの好感度チェックタイムだ」
自室に戻ってベッドに寝転ぶ。寝ころんだままウィンドウを開くと、好感度と愛情度の欄が赤く点滅していた。
「他の項目は反応なしっと。じゃあ、これは今日あったおねえさんとシグナさんのどちらかの反応っていうことか。さてさて、どんな数値になっているんでしょうかねぇ」
この瞬間がワクワクして止まらない。ニヤニヤと笑うと、まずは好感度の欄をチェックする。
「まずはおねえさんか……。好感度は43。相変わらず高いなぁ……。やっぱりこれも愛嬌のお陰だよね?」
やっぱり、愛嬌凄い。初対面の相手の好感度を爆上げしてくれる。これは、今後のために動きやすくなりそうだ。
「さて、問題のシグナさんはっと。……60、ん? 60!?」
はっ!? 初対面でこんなに高いってことある!? 未だかつてないほどの数値が出たんですけれど!
この数値はもう友達と言ってもいいくらいの数値。いや、それ以上かもしれない。初対面で友達以上の好感度を向けてくれたってことだよね!?
「シグナさん……そんなに私のことを良く思ってくれていたのか。あんなに心を覗いていたのに……優しい人だ」
私が卑怯な手を使っている間にシグナさんの好感度が上がっていたなんて。だが、私は心のウィンドウを見るのをやめない!
「今日会った人は今後付き合うことになるから、好感度が高くて助かるなー。お願い事も聞いてくれやすくなるかも。さて、じゃあ問題の愛情度はっと……」
好感度が上がるのは分かる、だが愛情度に変化があるのが衝撃的だ。いや、大人のお姉さんたちからそういう目で見られているって事だよね? これ、大丈夫な案件? 私は楽しいし嬉しいし全然いいんだけど……。
「えーっと……お姉さんは3。3も上がったの!? へー、ほー、ふーん」
あのお姉さんがそう思ってくれていたなんて。こそばゆい気持ちになるじゃないか。
「じゃあ、シグナさんは? 結構好感触だったけど、いかがなものか……。えっと、13。ん、13!?」
いやいや、好感度も高かったけどいきなり13ですか! セリスさんを抜きましたよ!
「そういえば、傍にいるだけで通知音がなっていたけれど……。凄いな、ここまで一気に上がるのはセリスさん以来だ」
まさか、シグナさんも攻略対象者? ふふふ、とうとう来たか! 他の人が軒並み愛情度が上がらなかったのは、きっと私には攻略対象者がいたからなんだ!
なんか、一気にゲーム感が強くなって楽しくなってきた。いやー、どんなイベントが起こるのかも楽しいし、どんな風に関係が発展していくのかも気になる。
それを画面上じゃなくて、現実の世界でやれるっていうのがエモい。現実にゲームが加わって、新しい楽しい感覚が生まれていくみたいだ。
「これからが楽しみ!」
このウィンドウを使って、人生をもっと楽しくするぞ!




