3.ポイント
「母さん! 店内の掃除させて!」
店番をしている母に声を掛けると、振り向いた母は驚いた顔をした。
「えっ……。いきなりどうしたの?」
「スキルのウィンドウ使ってみたらね、店内の掃除をすると良いことが起こるって書いてあったの」
「あんた……あの訳の分からないスキルの事を理解したってこと?」
「まぁ、少しね。だから、店内の掃除させて」
手を合わせてお願いをすると、母は笑って答える。
「もちろんだよ。こっちからお願いしたいくらいだよ」
「本当!? じゃあ、早速掃除するね!」
私はロッカーから掃除道具を取り出した。まず、バケツを持って井戸に行き、水を汲む。家に戻って来ると、雑巾を濡らして絞った。
「よし、やるぞ!」
店内に足を踏み入れた。まずは、棚の拭き掃除から。
商品をどかして、何もない空間を作ると、濡らした雑巾で棚を拭く。すると、棚に溜まっていた埃が一塊になった。その埃を一旦、床に置いておく。
そうやって、次々と商品を避けていき、棚を隅々まで綺麗にしていく。
「最近、掃除をしなかったから汚れが沢山あるだろう?」
「うん、埃とかが凄いね。もっと、綺麗に掃除すればいいのに」
「お客さんの事を思えば、そうしたほうがいいだろうね。でも、今度からは平気さ」
「どうして?」
「だって、リオが掃除をしてくれるだろう?」
ニッと母が笑った。この母、スキルが関係していることを良いことに、私に掃除をさせようとしている! なんて、姑息な!
でも、日常クエストって書いてあったから、日常的にそういう事を要求されるのだろう。だったら、仕事は残しておいてもらった方が良い。
ぐぬぬっ。母の思い通りになってしまうのが、少し癪だな。でも、ポイントのため……。私はせっせと棚を拭き続けた。
「ふー、綺麗になった。ポイントは入ったかな?」
それが終わると、すぐにウィンドウを確認する。だけど、ポイント欄に反応はなかった。ということは、掃除がまだ中途半端だということだ。完璧に終わらせないとポイントは入らないらしい。
「じゃあ、床掃除だ!」
「床もやってくれるの? ありがとね」
母のお礼の言葉でやる気が満ち溢れる。ホウキを持つと、広い店内を端から端まで掃いていく。見た目は綺麗に見えるけれど、掃いてみると埃やゴミが固まって出てくる。
「よしよし、綺麗になれー」
せっせとホウキで掃き続け、掃除の範囲がどんどん狭まってくる。そして、とうとう店内の掃き掃除が終わった。溜まったゴミをチリトリで回収して、ゴミをゴミ箱に入れる。
「これでどうだ!」
期待を込めて、ウィンドウを開く。だが、まだポイントの項目はゼロのままだ。ぐぬぬ、じゃあ後やっていない掃除は……!
「床の拭き掃除もする!」
「えぇ!? 床の拭き掃除も!? あんた、一体どうしちゃったのさ!」
「これもスキルのためだよ!」
「そ、そんなに良いスキルだったのかい?」
「本当に良いスキルか今見極めているの!」
私の言葉に母がとても驚いた。普段は率先してお店の事はしなかったから、信じられないといった顔をしている。だが、スキルを手に入れ、前世の記憶を思い出した私にはこれは必要な事だ。
ロッカーからモップを取り出し、モップの先を濡らして絞る。それから、床にモップを押し付けて、腰に力を入れて拭き始めた。
「あんたがこんなに変わるなんて……。凄くいいスキルじゃないか」
「うん、多分凄く良いスキルだと思う」
「へー。こりゃあ、どんな良いことが起こるか楽しみだね!」
母と雑談をしながら、店内の床を磨き上げる。端から端まで、こびり付いた汚れを綺麗にする。何度もモップの先を洗いながら、床を綺麗にしていった。
そして、最後のスペースをモップで拭き終わった時――。
ピロン
「ん?」
前世で聞いたことがあるような機械音が響いた。一体、なんの合図なのだろうか? 不思議に思いながら、ウィンドウを開いてみると――。
「あっ! ポイントの欄が赤くなってる!」
ポイントの項目が赤く点滅していた。すぐに項目に触れると、0だったポイントが10になっていた。ということは、日常クエストが達成されたという事。
「よし、これで確認出来る!」
「やけに嬉しそうだね。スキルが上手く使えたのかい?」
「うん! いい結果になったよ」
「それは良かったね。こっちも仕事をしてくれて助かったよ、ありがと」
ピロン
その時、また機械音が鳴った。何かと思い、ウィンドウを開くと、好感度の項目が赤く点滅していた。
何かと思い項目を選択すると、一番上の空欄に「ミレイ・グランデ 好感度1アップ」と書かれていた。
なるほど、私が積極的に掃除をしたから、母の好感度が上がったらしい。こういう事も知らせてくれるなんて、なんて便利なスキルだろう。
「じゃ、私はちょっと確認してくる!」
「えっ、ちょっ、リオ! 片づけは!?」
「母さんがやっておいてー!」
「コラー! リオーッ!」
そんな事よりも、確認の方が大事。私は逃げるように二階に上がっていった。その時、またピロンと音が鳴る。
今度は一体、なんの音だ? 期待に胸を膨らませ、ウィンドウを開いてみると、好感度の項目がまた赤く点滅していた。
好感度の項目を表示させると、一番上の空欄に「ミレイ・グランデ 好感度1ダウン」と表示されていた。
「しまった……。折角上がったものを下げてしまった!」
上がった後にすぐ下がるのは辛い。だけど、今はそれよりも大事な事がある。自分の部屋に飛び込むと、ウィンドウを開く。そして、ポイントの項目を表示させた。
「えーっと、ポイントで交換できるもの、色々あるなー。この中から見つけるのは一苦労だよ」
画面をスクロールしていくが、物が多すぎてどれを選んでいいか分からない。悩んでいると、右上に虫眼鏡のマークがあることに気づいた。
「もしかして、これは……」
その虫眼鏡を触ると、検索バーが出てきた。
「これで検索出来る! えーっと、ポイントで何を交換してもらおうかな?」
腕組をして考える。今回はお試しだから、ポイントが低くて、証拠隠滅出来るものがいい。と言う事は、食べ物がいいんじゃないか? 今食べたいものは……。
「よし! ソフトクリーム、っと!」
検索バーに文字を入力して、虫眼鏡マークを押す。すると、その下の表示が変更された。
「やった、ソフトクリームが出てきた! それに、色んな味がある!」
前世にあったソフトクリームがずらりと並ぶ。味が色々あるだけでなく、素材まで違うソフトクリームが出てきた。
「むむっ、良いものはポイントが高いな。だったら、通常のものでいいや。1ポイントだし、とにかくお試しってことで。じゃあ、ソフトクリームのバニラ味を一つっと」
希望する物に触れると、目の前に光が現れた。その光は形になり、光が収束する。すると、そこに現れたのは――。
「ソフトクリームだ!」
コーンの上にとぐろを巻いているソフトクリームが現れた。すぐにコーンの部分を持つ。その感触もコーンそのものだ。
「うわー、本当に出てきちゃったよ。一体、どこから出しているんだろう? まぁ、いいか。さて、味はどうかな?」
ソフトクリームを舌で舐めとると、冷たさを感じた。それを口に入れると、濃厚なミルクの味が口いっぱいに広がる。
「んー! これこれ! これが食べたかった!」
久しぶりの前世の食べ物にテンションが上がる。
「ポイントは問題なく使えて、問題なく選択した物が出てくるみたい。これを使えば、色んな物が手に入る!」
ポイントの可能性を感じて、ワクワクが止まらない。これからはクエストを完了させて、ポイントを稼ぐ。そうすれば、欲しい物が手に入る。それを使ったり売ったりすれば、生活が豊かになる事は間違いなし!
これから、頑張るぞー!




