27.冒険者の職業体験(3)
「みんなに紹介するわね。Aランク冒険者、シグナ・ヴォルグよ」
お姉さんが誇らしげにシグナさんを紹介した瞬間、その鋭い黄金色の瞳が、ギロリと私たちへ向いた。
「「ヒィッ!!」」
「わぁっ……すごい……!」
男子たちは一瞬で真っ青になり、肩を震わせた。けれど私は逆だった。目を輝かせてシグナさんを見つめてしまう。
肌を刺すような圧。呼吸が浅くなりそうなほど濃密な覇気。これが……本物の強者の気配。全身が震えるほどの迫力だ!
「ほら、シグナも挨拶してあげて」
「……シグナ。……よろしく」
お姉さんが促すと、シグナさんは面倒くさそうに短く名乗った。その声は想像よりもずっと柔らかく、透き通っていて。外見の荒々しさとはまるで別物だ。
そのギャップがまた、心臓を撃ち抜いてくる。
「か、かっこいい……!」
思わずこぼれた私の呟きを聞いて、シグナさんの狼耳が、ほんの少しだけピクリと動いた気がした。
「見た目はちょっと怖いかもしれないけどシグナはね、すっごくいい子なのよ」
お姉さんは私たちの前に立ち、にっこりと微笑んだ。まるで巨大な獣を前に怯える子供を安心させるような表情で。
「性格は真面目だし、人に悪さなんて絶対にしない。約束もきちんと守るし……本当に、誰よりも誠実な冒険者なの」
そう言ってシグナさんの肩に手を置くと、彼女は無表情のまま、わずかに視線をそらした。
照れてる? いや、まさか……でも、耳がまたピッ、と動いている。やっぱり照れてる!?
「ほ、ほんと……ですか……?」
男子の一人が、おそるおそる手を上げる。
「ええ、本当よ。だから怖がらなくて大丈夫。ね、シグナ」
お姉さんがシグナさんに同意を求めると、キッと眼光が鋭くなった。
「だ、大丈夫じゃないです!!」
「ほら、目が!! 目が怖いんです!!」
男子たちは全力で首を横に振り、後ずさる。まるで今にも逃走しそうだ。
シグナさんはそんな反応を見ても怒るでもなく、ただ無表情でこちらを見下ろしている。黄金の瞳が細められ、静かに光った。
「……別に、食わない」
その一言だけで男子たちが「ひいっ」と悲鳴を上げる。でも、よく聞けば声は驚くほど穏やかで、まるで小動物を驚かせないように話すみたいに優しいのだ。
「見た目は怖いけど、中身は本当に善良なの。みんなを守るためなら、身体を張るタイプよ」
「ほ、本当に?」
「強くて優しいなんて……」
男子たちはまだ半信半疑のまま震えていたけれど、私はというと――。
「……すごい! かっこいい!」
興奮が抑えられなかった。この人が、Aランク冒険者。強くて、誇り高くて、優しい。目の前に広がる世界の本物が、胸を熱くさせた。
思わずシグナさんの前に出る。
「リオって言います! 今日はよろしくお願いします!」
満面の笑みで自分を紹介すると、シグナさんが少し驚いたように目を大きくさせた。その時、通知音が鳴った。きっと、初対面での好感度が決まったのだろう。だけど、今は確認している暇はない。
「ふふっ、どうやらこの子は平気らしいわよ。珍しいわね、シグナに怖がらずに近づく人って」
「……」
お姉さんが茶化すように声をかけると、シグナさんは無表情に戻り、小さくコクンと頷いた。だけど、言葉は発してくれない。
もっと、言葉が聞きたい! ……そうだ! 心のウィンドウを開けば、聞き放題じゃん! 悪い事をしているようだけど、これもシグナさんを知るために必要な事。
だから遠慮なく、読ませてもらいます! 私はシグナさんの心のウィンドウを表示させた。
『初対面で私を怖がらない? そんな事があるのか? 今まで、どんな人でも避けられていたのに……』
どうやら、心の中では動揺しているみたいだ。無表情で感情が読めないけれど、心の中は違っていたんだ。
『……この子、なんだ? 目をそらさない。震えてもいない。むしろ、嬉しそうに見える』
シグナさんの心の声は、驚きと戸惑いが入り混じっていた。無表情のままなのに、内側ではぐるぐると考えが渦巻いている。
『私を怖がらない子供なんて、今まで一人もいなかったのに。意味が分からない。私は危険だって、ずっと言われてきたのに……』
シグナさんの黄金の瞳が、じっと私を見つめる。外見は相変わらず怖い。けど、そこに宿る気配はほんの少しだけ柔らかい。まるで、興味を持った動物が近づいてくるみたいに。
『……リオだったか。どうして近づいてくる? 怖がってないのか? 普通は……私を避けるはずなのに』
そして、心の声はさらに深いところまで続く。
『目が綺麗だ。怯えの色がない。まっすぐ、私を見ている。嘘やお世辞の目じゃない。……こんなの、久しぶりだ』
そこで一瞬、心の声が途切れる。けれど次の瞬間、押し殺したように小さな思いが漏れてきた。
『嫌われていない? 怖がられていない? それだけでこんなに、胸があったかいのか……』
シグナさんは相変わらず無言で、表情も動かない。だけどその心の中は、驚きと喜びが静かに揺れている。
『……もっと知りたい。どうして目を逸らさないのか。……少しだけ、話してみたい』
その瞬間、また通知音が鳴った。これは好感触なんじゃない? きっと、好感度とか上がっているんだろうなぁ。後で見るのが楽しみになってきた。
「もう、シグナはすぐに黙るんだから。えーっと、今日はシグナについていって、ダンジョンまで行くわよ。みんな、準備はいいかしら?」
「もちろん!」
「あ、あぁっ!」
「い、いつでもっ!」
「いい返事ね。じゃあ、ダンジョンにしゅっぱーつ!」
お姉さんが元気に声を上げると、私達も手を突き出して声を上げた。




