24.騎士団へ職業体験(5)
それから、セリスさんは特区の中を案内してくれた。騎士たちの訓練場、作戦を練るための会議室、様々な武器や防具が置かれた装備備品庫。
どれも、普通に生活していたんじゃ見られないものばかりで、とても楽しかった。
楽しかったと言えば、セリスさんが色々な話をしてくれたこともだ。騎士に必要な心構えとか、騎士になるためにはどういった手続きが必要でどういう試験が必要だとか。私を騎士に引きずり込もうとする魂胆が見え見えだった。
それでも、嫌な圧はなかった。セリスさんが純粋に私を思って話してくれると分かっているから、気持ちよく話を聞くことが出来た。
お陰で、始めはほんの少ししか興味がなかった騎士に興味が沸いてきた。一日でこんなに心変わりをするなんて驚きだ。これも、セリスさんと出会ったからだろう。
悪戯心が芽生えて、心の声が聞こえるウィンドウを開いても、セリスさんの場合は言っていることと思っている事に差はなかった。こんなに裏表がないのは、ルメルみたいだと思った。
お陰で私は気持ちよく騎士団の職業体験を終えることが出来た。
◇
「騎士の職場はどうだった? 未来の自分を思い描けるような時間になっただろうか。もし今日の経験が、君たちの将来に少しでも光を灯してくれていたら嬉しい」
訓練場での交流が一通り終わり、最後に隊長が皆へと語りかけた。汗と土の匂いが残る空気の中、男子たちは名残惜しそうにしながらも、どこか誇らしげに隊長の言葉に耳を傾ける。
さっきまで憧れの騎士たちに囲まれていたせいか、彼らの目はまだキラキラと輝いていた。
「でだ――職業体験は一回限りだ。今日が終われば、君たちはもうここには入れなくなる」
その一言で、あれほど輝いていた子どもたちの表情が一斉にしぼんだ。肩を落とし、名残惜しげに訓練場を見回す者もいる。
だが、隊長はそんな空気を払うように、ふっと口元を緩めた。
「……と思っただろう? だが安心していい。未来の騎士たちを応援するため、特別に今日ここに来た子どもたちだけは、この特区に自由に出入りできるようにしよう」
「えっ……本当に!?」
「また来ていいの!?」
沈んでいた空気は一瞬で弾け、今度は歓声が訓練場に響いた。驚きと喜びで跳ね回る子がいるほどだ。
隊長は軽く頷き、続けて言った。
「今日担当していた騎士たちが、それぞれ君たちの責任者となる。ここに来たい時は、その騎士を訪ねればいい。そして、特区に入所できる特別なメダルを進呈しよう」
隊長が指示を出すと、騎士たちが一斉に動き出す。私の前にセリスさんが来ると、紐のついたメダルを渡された。
「これは、私への面会券だ。リオが私に会いたくなったら、このメダルを受付へ見せなさい。そうすれば、いつでも必ず会える」
穏やかな声とともに、セリスさんはそっと私の前に膝をついた。そして、まるで大切な宝物を扱うように、ゆっくりと私の首へメダルをかけてくれる。
冷たい金属が鎖骨の上で小さく音を立てた瞬間、胸の奥にふわっと灯がともったような温かさが広がった。
「また……会えるんですね。本当に?」
「もちろんだよ。むしろ私の方こそ、リオに会える日を指折り数えてしまいそうだ」
真っ直ぐに返ってきた言葉に、胸が跳ねる。セリスさんの瞳は、いつもの鋭さをそっとしまい込んで、驚くほど柔らかかった。
その大きな手が、ためらうように、けれど確かに私の肩へ触れた。温かくて、安心で、思わず背筋がふるりと震える。
「それに、時間ができたら……私の方から会いに行くつもりだ。まだリオに伝えたいことがあるからね」
「えっ? ……はい! すっごく……楽しみにしてます!」
言ったそばから、頬がじんわり熱くなる。でもセリスさんは、そんな私をそのまま受け止めるように微笑んでくれた。
「ふふ。そう言ってくれると、安心する。じゃあ、リオ。また会おう」
そう言うと、セリスさんの手がそっと伸びてきた。大きくて、温かくて、何より優しい手が、私の頭をゆっくり撫でる。
今日一日の緊張も嬉しさも、全部その撫で方でほどけていくようで。光みたいな温もりが、胸いっぱいに広がった。
……だけど、指先が離れていく気配だけで、胸がきゅっと締め付けられる。
もっと話したかった。もっと隣にいたかった。
でも、また会える。その確かな約束が、離れていく背中を見送る私の心に、小さくて大きな勇気を残してくれた。
次に会える日が、待ちきれない。そんな気持ちが、胸の中で強く芽生えていた。
◇
「騎士団の職業体験、楽しかったなぁ」
自室に戻ってからも、騎士団での職業体験が忘れられず、思い出してはニヤニヤと笑っていた。
「冒険者も気になるし、騎士も気になる。とりあえず、次の職業体験で冒険者を体験すれば、何か分かるかな?」
次の学校の日にはもう一か所、職業体験に行く予定だ。そこで、冒険者に関連した施設に行けば、私の心が変わるかもしれない。その時が楽しみだ。
「……そうだ! ウィンドウ見てなかった!」
職業体験に夢中でウィンドウを見ていなかったことに気づいた。
「セリスさんと話していた時は通知音鳴っていたけど、どんな感じになっているんだろうか?」
これは気になる。一体、セリスさんの私への好感度は一体どれくらいになっているんだろうか?
ちょっと怖い気持ちとわくわくとした気持ちを感じながら、ウィンドウを開いた。そして、赤く点滅している項目を見る。
「えーっと、好感度は……51!? えっ、51!? 初対面でそんなに高い事ってある!?」
51と言えば、普通の友達の子と変わらない好感度だ。じゃあ、初対面でいきなり普通の友達くらいには好感度があるってこと!?
「もしかして、これが愛嬌のスキルの力? ……恐ろしい。あのスキルがあれば、誰だって初対面でそれくらいは高くなるってことだよね?」
セリスさんが特別っていう事もあるかもしれないけれど、初対面でこれだけの好感度があるのは信じられない。
「まー、セリスさんが良い人だからっていうことだからかもしれないけれど。それにしては高いなぁ。……ん? 愛情度の項目も赤くなっている。もしかして、セリスさん?」
好感度の隣にある、愛情度の項目。その項目も赤くなっていて、変化がある事を知らせてくれている。
今日、通知音が鳴ったのはセリスさんくらいしかいないし、きっとセリスさんなんだろう。
「まー、上がっても1くらいだろうなぁ。それだけ、愛情度は上がらない項目だから」
今まで愛情度が上がったのは三人くらいしかいない。それも、ルメル以外は全員1しか上がっていない。愛情度が上がるのは、相当難しいと言えよう。
気軽な気持ちで愛情度の項目を選択し、セリスさんの項目を見る。
「えーっと……11。……ん!? ……11!?」
はぁっ!? 二桁!? いきなり、二桁になっている!? 一体、どうして!? 何が良くて、そんなに上がった!?
「11って、ルメルに次いで高い数値じゃん! あの交流で愛情度が上がる展開はあった!?」
どちらかというと、迷惑をかけた方なのに!
「はぁ……意外だ。じゃあ、セリスさんもルメルと同じで私に対して、愛情度が上がるような攻略対象者ってこと?」
まさかの意外な攻略対象者の出現に戸惑う。じゃあ、これから交流を深めていけば、面白いイベントが起こるって事?
……気になる。愛情度を上げた先にあるイベントが気になる。前世のゲーマーの血が騒ぐ。
とにかく、これからはセリスさんとも交流を深めてみよう。そしたら、きっとゲームのような展開があるはずだ。うん、楽しくなってきた!




