22.騎士団へ職業体験(3)
セリスと名乗った女性騎士は、人懐っこい笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「それで、君の名前は?」
「えっと……私、リオっていいます!」
「リオか。いい名前だな」
「ありがとうございますっ。セリスさんのお名前も、とっても素敵です。なんだか強くて優しい人って感じがします!」
「ふふっ、強くて優しいか。君は褒め上手だな。私のことをカッコいいと思ってくれているのか?」
「はいっ! すっごくカッコいいです!」
女性騎士、カッコいい! いや、セリスさんだからカッコいいのかな? とにかく、凄くいい!
すると、ピロンと通知音が鳴った。きっと、初対面の好感度が決まったようだが、今は見ている暇はない。
「私は君のような女の子を来るのを待っていた」
「そうなんですか?」
「あぁ! だから、今日君と出会えて私は幸運だ。だから、今日は君に騎士の素晴らしさを全力で伝える!」
一見、控え目に見えるけれど、意外と熱血漢みたいな人だ。強い情熱がひしひしと伝わってきて、押され気味になっている。
「さぁ、まずは訓練を体験しよう。木剣を構えて」
「こ、こう……ですか?」
両手で木剣を持ち、なんとか構えてみせる。けれど、セリスさんはすぐさま首を横に振った。
「うーん、違う違う! 腕の力に頼りすぎだ。腰の軸を意識して、背筋を伸ばして」
「こ、こう?」
「惜しい! もう少し肘を下げて――そう、そうだ。そのまま! いい姿勢だ!」
セリスさんが嬉しそうに頷く。その顔が輝くようで、こっちまで嬉しくなってくる。
「よし、そのまま息を整えて……剣は腕で振るんじゃない。体全体で流れるように!」
セリスさんが一歩下がり、自ら木剣を構える。すらりとした体が、一本の線のように無駄なく整っていた。次の瞬間、風を裂くような音が響く。
「これが振るということだ」
剣が見えなかった。動きが速すぎて、ただ空気が震えた気がした。
「ひゃ、速っ!? い、今の見えなかったです!」
「ははっ、誰だって最初はそうだ。だが、リオ。剣というのは力任せに振るものじゃない。心と体が一つになった時、初めて刃になる」
「こ、心と体……一つ……?」
「そうだ! たとえ木剣でも、気持ちを込めれば武器になる! それが騎士の誇りだ!」
セリスさんの声が響く。背筋がピンと伸びた。なんだか、セリスさんの熱にこちらに移っていくようだ。
「さぁ、もう一度構えてみよう。今度は、心をこめて!」
「は、はいっ!」
気合を入れて、木剣を両手に握る。腕がぷるぷる震えてるけど……がんばらなきゃ。セリスさんが満足そうに頷いた。
「よし……いい顔だ。じゃあ、振ってみようか!」
「い、いきますっ!」
思い切って振り下ろす。けど、風を切る音なんて出ない。ただの「ぶんっ」という鈍い音。
「……うぅ、全然違いますね……」
「いや、悪くない!」
「えっ?」
「目は真っすぐだった。迷いのない目だ。そこが一番大事なんだ!」
力強く褒められて、嬉しくて自然と体に力が入った。
「良い気持ちが入っていた。だから、そのままでいい。さぁ、次も振っていこう」
「……はい!」
満足げに笑って頷くセリスさんを見て見ると、自信が溢れてくる。その自信を大事に抱え、私は剣を振り続けた。
◇
「し、しんどい……」
「良く頑張ったぞ」
あれから数十分、木剣を振っていると、体力が無くなった。今は地面に座り込んで、一休憩中だ。
周りを見て見ると、他の男子たちも疲れたのか、地面に座って休んでいる。やっぱり、本物の騎士に体力では勝てないのだ。
「あまり木剣が振れなくて、ごめんなさい」
「謝る必要はない。こちらもそのつもりでいたからな。今は休憩と言う名の質問タイムだ」
なるほど……。事前にこのことを察知していたのか。それなら、安心して休んでいられる。
「質問タイムって……どんなことを聞いたらいいですか?」
「ふふっ、堅苦しいものじゃないさ。単に、騎士という生き方の素晴らしさを知ってほしいだけだ」
セリスさんはそう言って、少し背筋を伸ばした。日差しに照らされる銀の髪がきらりと光る。その姿は、まさに騎士そのものだった。
「リオ、騎士とは何だと思う?」
「えっ? えっと……剣を持って戦う人?」
「それも一つの答えだ。だが、本当の騎士は守る者なんだ」
セリスさんの瞳が真っ直ぐに私を見据える。その眼差しには冗談のかけらもない。
「強さは、人を傷つけるためにあるんじゃない。誰かを守るためにある。弱き者を助け、理不尽に立ち向かい、仲間を信じて剣を振る。それが、私の思う『騎士』だ」
その声には、熱がこもっていた。胸の奥に響くような、まっすぐで揺るぎない言葉。
「だから私は、毎日剣を振る。体が痛くても、心が折れそうでも。騎士は理想を見失ったら終わりだからな」
「……理想、ですか?」
「あぁ。誰かを笑顔にしたい。守りたい。その想いが、私の剣を動かしているんだ」
セリスさんは木剣を軽く持ち上げて、構えの姿勢を取る。その動きだけで、空気が変わるのを感じた。
「リオ。さっき君はしんどいって言ってたな。だが、剣を振るうというのは、本来そういうものだ。だがな、その一振りに守りたい理由を込めれば、不思議と体は動くものなんだ」
「守りたい理由……」
思わず呟いた。私にそんな理由、あるのかな……。でも、セリスさんの言葉を聞いていると、なんだか不安になる。
「騎士の強さは腕力じゃない。心だ」
その言葉の後、セリスさんは優しく笑った。訓練の時の熱血な表情とは違い、今の笑顔はどこか穏やかで、温かい。
ピロン
その時、通知音と共にウィンドウが開いた。
『私、騎士を目指します』
『実は冒険者に興味があるんです』
こ、ここでその選択肢!? まさに、分岐ルートのそれ!




