21.騎士団へ職業体験(2)
「うわー、広ーい!」
「でっけぇ!」
「騎士がいっぱいいる!」
特区の中に入ると、男子たちは目を輝かさせて周囲を確認した。
そこは王都の中央区、王国直属の騎士が集う特区と呼ばれる場所だった。
街の喧騒から一歩足を踏み入れただけで、空気が変わる。凛とした張り詰めた空気、重なり合って響く金属音、そして通りすがる人々の背筋の伸び方が違う。
「すごい……建物が全部、整ってる……」
私も思わず息を呑んだ。石造りの建物が整然と並び、それぞれの門には王家の紋章が刻まれている。窓は磨き上げられ、通りには花壇が整備されていて、雑草一つ見当たらない。
けれど、そんな整った景観の中を行き交うのは、ほとんどが鎧姿の人々だった。
鋼鉄の胸当てが陽の光を反射して、まるで一面の鏡のように眩しい。
青銀の鎧、漆黒の鎧、紺色に金の縁取りを施した礼装用の軽鎧。すれ違うたびに、きちんと磨かれた金属の匂いが鼻をくすぐる。
「おい、あそこ見ろ! 馬に乗ってる騎士がいる!」
「本当だっ! あれ、近衛騎士団じゃねぇか!?」
「旗が王家の紋章入りだ……すっげぇ!」
男子たちは完全にお祭り気分で、視線を右に左に動かしながら進んで行く。すると、広い中庭に出た。
そこでは数十人の騎士たちが訓練をしていた。
重い鎧を着たまま剣を振る者、木剣を交えて組み合う者、槍を構えて号令に合わせて突き出す者。掛け声が響き、剣と剣がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
「おおぉ……本物の騎士の訓練だ……!」
「すっげぇ迫力だな……!」
「かっけぇ!」
男子たちが息を呑み、口を開けたまま見入っている。それも無理はない。動き一つ一つに無駄がなく、姿勢が美しい。訓練の中にも誇りと規律があるのが伝わってくる。
すると、グレイさんが壮年の騎士に近寄っていった。
「隊長、連れてきました」
「うむ、ご苦労。全員、訓練を止め! 整列しろ!」
すると、号令が掛かる。その声を聞いた騎士たちはすぐに手を止めて、慌ただしく整列をした。ものの数十秒で綺麗に整列した騎士たちが私達の前に現れる。
その動きに私達は感動していると、隊長と呼ばれた人が私達の前にやってきた。
「よく来たな、諸君」
隊長と呼ばれたその人は、堂々とした姿で私達の前に立った。
銀灰色の髪に鋭い目つき、肩には王都騎士団の紋章が刻まれたマント。鎧の一つひとつに手入れが行き届き、胸元には第二部隊を示す青の徽章が光っている。
「私は王都騎士団・第二部隊の隊長だ。今日は諸君の職業体験の担当を務める。どうぞよろしく頼む」
重く低い声が響いた。威圧感があるのに、不思議と優しさが混じっている。私達が思わず背筋を伸ばすと、隊長はゆっくりと頷いた。
「まず最初に言っておこう。ここは王国の剣が集う場所だ。日々、民を守るため、そして自らを鍛えるために汗を流す場所でもある」
そう言って、彼は訓練場の方に視線を向けた。整列した騎士たちが一糸乱れずに立ち並び、風に揺れる旗がはためく。
「君たちには、そんな我々の日常を体験してもらう。最初は――」
彼は背後にいた副官に軽く合図を送る。すると副官が木剣の束を抱えて前に出てきた。
「この木剣を使って、基本の構えと打ち合いの訓練を体験してもらう。もちろん、我々が全力で指導する。怪我をさせるつもりはないが、覚悟はしておくように」
「お、おおぉぉ……!」
「俺、ちゃんと剣、持ったことないんだけど!」
「いいじゃん! 本物の騎士に教えてもらえるんだぞ!?」
男子たちがざわめき、緊張と興奮が入り混じった表情を浮かべる。隊長はそんな私たちを見て少しだけ口元を緩めた。
「剣を握ること。それは、自分を守る覚悟を持つことだ。今日一日だけでも、その重さを知ってもらいたい」
副官たちが木剣を一本ずつ配っていく。思ったよりも重く、男子たちは腕をぷるぷる震わせながら構える。
「お、重っ……!」
「こ、これで戦うのか……」
「振れるかな?」
「うむ。それでもまだ軽い方だ。実際の剣はもっと重く、そして鋭い。構えを覚えるだけでも最初は大変だ。だが、君たちが将来、何かを守る立場になった時にこの感覚を思い出せばいい」
その言葉に、男子たちは目を輝かせて頷く。隊長は満足げに頷くと、軽く手を叩いた。
「よし! では、訓練開始だ! 指導騎士は指導する子供を選べ!」
その号令と共に、整列していた騎士たちが一斉に動き出した。まるで波が走るような統率の取れた動き。見るだけで息を呑むほど美しい。
騎士たちが色々な子供に声を掛けて、訓練場へと向かっていく。私はどんな人に声をかけられるのだろう?
ボーッと待っていると、強い視線を感じた。振り返って見てみると、一人の騎士と目が合う。彼女は静かに立っていて、こちらを熱心に見つめていた。
長い銀髪を高く結い上げ、後ろで揺れるポニーテールが光を受けてきらりと輝く。鋭い眼差しに透き通るような白い肌、そして整った輪郭。まるで絵画から抜け出した騎士のようだった。
鎧は王都騎士団の標準装備よりもやや軽量の造りで、俊敏な動きを重視しているのが見て取れる。胸元に刻まれた紋章は青の第二部隊を示すもの。けれど、その着こなしには威厳だけでなく、どこか凛とした美しさがあった。
その顔を見ていると、パッと笑顔が咲いた。
「――君」
声をかけられた。柔らかいが、芯の通った声。まっすぐに私を見ている。その女性は真っすぐ私の所に来て、膝をついて腰を下ろしてくれた。
「私が相手でもいいか?」
「は、はい!」
私が答えると、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「私は第二部隊所属、セリス・アルディア。この訓練では私が君の指導を担当しよう」




