19.ルメルのお弁当(2)
私は目の前の選択肢を見て考える。この選択肢で何かが変わる可能性があるということだ。
まず『美味しいと言って食べる』を考える。そう言われたら、きっと嬉しいだろう。初めて作ったお弁当が褒められたのだ、嬉しくならない人はいない。
次に『正直に言う』を選んだ場合。殻が入っていたことをしるとショックを受ける可能性がある。だけど、自分の失敗に気づくチャンスでもある。
この場合、ルメルはどっちを望んでいるのか考える必要がある。ただ、褒められたいだけなのか。それとも、上手くなりたいのか。ルメルの気持ちが重要だ。
ルメルは自分のお店を誇りに思っている。作った料理が人々を幸せに出来ると信じている。
将来はそのお店を継いで、色んな人々を笑顔にしたいと言っていた。だから、ルメルは真剣に料理と向き合っている。
子供の内からこんなに真剣に考えている子は他にはいない。ちゃんと、未来の事を考えて、今出来る努力をしようとしている。
そんな、ひたむきな気持ちに応えるためには、褒めるだけじゃダメだ。本当の事を言って、失敗を知って、少しずつ上手くなったほうがルメルのためになる。
私は『正直に言う』を選択した。
「ルメル……これ、卵の殻が入っているよ」
「えっ!? そ、そうなの!?」
「うん、ジャリっていった」
正直に言うと、ルメルは驚いた顔をした。だけど、すぐにしゅんと落ち込んだ様子になる。
「あのね……卵を割る時にぐちゃってなっちゃって、沢山の殻が入っちゃったんだ。丁寧に取ったつもりだったけど、まだ残っていたみたい」
「そっか、卵を割るのは難しいよね。しかも、欠片も小さい物も多いから、見逃すこともあるね」
「何度も卵の割り方を聞いたのに、ちゃんと出来なかったんだ。色々考えたら混乱して、つい力んじゃってね」
そう言って、力なくルメルは笑った。どうやら、自分でも上手に出来るとは思っていなかったらしい。自信がない状態でお弁当作りをしていたみたいだ。
だけど、それでいいと思う。
「もう、ルメルはなんでも真剣に考えすぎ! 失敗の一つや二つ、当たり前だよ!」
「で、でも……ちゃんとしないと……」
「ちゃんとするから、ちゃんと出来るわけじゃないよ。何度も繰り返してやるから、上手くなってちゃんと出来るようになる。ルメルにはまだ、ちゃんとできる経験がないから失敗をしちゃうんだよ」
ルメルはしっかり者だから、なんでもちゃんとしないとって考えてしまう。そのお陰で何でも出来るし、誰にだって優しい。でも、完璧な人はいない。
「失敗は怖がらなくていいと思う。失敗を何度も繰り返していけば、いつかはちゃんと出来るようになるから。始めからちゃんとしなくてもいいんだよ」
ルメルは完璧主義の気質がある。勉強も人間関係も将来のことも、完璧にやろうとする。だけど、そんな人だって全てが完璧に出来る訳じゃない。
そんな人達は失敗を酷く恐れている。だから、失敗は怖くないものだって教える。少しでも固い殻の外に出て行けるように、逃げ道を作るのだ。
「大丈夫、ルメルはちゃんと成功への道を進んでいるよ。だから、沢山失敗していこう」
そう笑顔で言うと、ルメルが驚いたように目を見開いた。
「私、成功の道を進んでる? 失敗する道じゃなくて……」
「もちろんだよ! 失敗は成功のもと、ともいうしね。五回の失敗がいつか一回の成功になるって!」
「……変なの。失敗を重ねると成功するって」
「本当だよ! 一つ一つ積み重ねていけば成功するから!」
どうやら、失敗するとずっと失敗すると思っていたみたいだ。そうじゃないと伝えると、ルメルの表情が柔らかくなった。
「リオにそう言われると、なんだか失敗も悪くないものだって思えるようになった。私、失敗は悪いものだって思ってたから……リオのお陰で気持ちが楽になったよ。ありがとう」
満面の笑みを浮かべてルメルがそう言った。すると、ピロンと通知音が鳴った。さて、これを見れば選択肢の結果が分かる。
ウィンドウを開き、項目を確認してみると――。
『ルメル・エリアミル 愛情度3アップ』
そっちがめちゃくちゃ上がるんかーい!
いや、選択肢が出てきたから、何かあるとは思ったけど……。私はいつのまに恋愛シュミレーションゲームをやっていた?
選択肢が出てきたら嬉々として答えちゃったけど、これはルメルを攻略するイベントだったということ? ルメルは攻略対象だった?
……ふっふっふっ、面白い。王都一の美少女のルメルが攻略対象か。じゃあ、これからそういう展開が待ち構えているという事!
ふぅー! 生で恋愛シュミレーションゲームを体験出来るなんて、なんて楽しいんだ! どんなイベントが起こるのか楽しみだ!
……待てよ。じゃあ、他にも攻略対象がいるってことじゃないか? ど、どこだ!? どこにいる、攻略対象!
きっと、攻略対象は愛情度が上がるはず。だが、今愛情度が上がっているのは実質ルメルしかいない。ということは、身近にはいないってこと?
くっ……新しい出会い、フラグを立てなければ! 何か今、立っているフラグは……あっ!
近々、職業体験がある! そこでなら、新しい出会いがあるはずだ! ふっふっふっ、じゃあ、そこで攻略対象との出会いがあるかもしれない。
待っていろ、私の恋愛シュミレーションゲーム!




