18.ルメルのお弁当(1)
「おはよう! おはよう! おはよう!」
今日も挨拶ラッシュをして学校に入っていった。好感度が上がる心地いい通知音を聞きながらの登校が日課になってしまった。
廊下を進み、教室に入ると、また大きな声で挨拶をする。
「みんな、おはよう!」
元気のいい声を響かせると、教室にいたクラスメイトたちが返事をしてくれる。
「リオ、おはよう!」
「おはよう。朝から元気だなぁ」
「おはよう。ここ最近、以前よりもまして元気になったよね」
「まぁね! スキルの恩恵があるから!」
「もう! あんまりスキルの事を言わない方がいいよ!」
挨拶ついでに色々と会話することも多くなった。お陰でクラスメイトとの関係は良好。普通だった学校生活が、楽しい学校生活になっていった。
自分の席に着くまで、色んな子とお喋りをして好感度を上げて、通知音を聞く。作業のようで作業じゃない、でも作業らしい楽しさがある。通知音が鳴るだけで、日常がこんなに楽しくなるなんて思いもしなかった。
「あっ、リオ。おはよう」
「ルメル、おはよう!」
自分の席に近づくと、ルメルが明るく挨拶をしてくれる。うーん、今日の笑顔も満点だ。流石、美少女。隣にいると、浄化されちゃうよ。
「教室に入っても、中々席に着けなかったね」
「会話するのが楽しくってさ。つい、立ち話しちゃうよ」
「ふふっ、なんだか井戸端会議をしているお母さんたちみたい」
「母さんたちの長話は地獄だね」
どうして、あんなに話が長くなるのか謎だ。一緒に買い物に行って、知り合いに会ったら、数十分はその場を動かない。その時は死んだ目をして、無意味な時間を過ごしたな。
鞄を机の隣に掛け、自分の席に着席する。すると、隣にいるルメルがそわそわとした様子になった。
「どうしたの?」
「えっとね、実は……ようやくお弁当を作ってきたの」
「あっ! 許しが出たんだね!」
私がお弁当を自分で作ったら、と助言をした日からルメルは家族にお願いしていたらしい。自分で料理をしたい、と。
始めは両親から料理をするのは見習いになってからだと反対されていた。だけど、ルメルは早く料理をしたかったようで、何度も両親に掛け合ったらしい。
まぁ、ダメだった時は私が慰めて、元気が出るように応援したんだけどね。そのかいもあって、ルメルは諦めずに両親に掛け合ったらしい。
それで今日、許しを得て自分のお弁当を作ったみたいだ。
「両親も頑固だったね。まさか、こんな美少女の願いを断るだなんて。並みの精神じゃないよ」
「美少女は余計だって。でも、本当に説得が大変だったよ。だけど、リオが励ましてくれたから、私も頑張れたよ」
「うん。私はやりたいことのある子は応援しちゃうタイプなんだよね」
「ふふっ、何それ」
でも、ルメルがやりたいことをやれて本当に良かった。今日はいつもよりも笑顔が輝いているような気がする。
「それでね……」
今度はもじもじと恥ずかしそうにした。いやいや、美少女がそれをやったらいけないでしょ。私が男だったらドキドキしすぎて、心臓が破裂しちゃうよ。
「リオに味見して欲しいなって」
「味見? 私なんかでいいの? 両親から感想貰った方がためになるんじゃない?」
「応援してもらったから、私の料理の味を確かめてもらいたいの。ダメ、かな?」
うっ! 美少女のお願い、効く! 手を組んで、首を少しだけ傾げるのは反則業だよ! そんなこと、言われたらホイホイ頷いちゃうって!
「まぁ、私で良ければ」
「本当!? ありがとう! リオって優しいね」
全く、この美少女はすぐに人の心を弄ぶんだから。油断も隙もあったもんじゃない。
まぁ、私が言い出しっぺなんだし、ちゃんと面倒は見よう。さて、ルメルのお弁当はどんな感じに仕上がっているんだろうか? 昼食の時間が楽しみだ。
◇
鐘の音が鳴ると、教室が騒ぎ出す。
「はい、じゃあ今日はここまで!」
「やったぜ!」
「自由だー!」
「水、汲みに行こう!」
先生が声を上げると、クラスメイトたちが騒がしく動き出す。水を汲みに一斉に外に出ると、コップに水を入れて戻って来る。私達も同じようにコップに水を入れてきた。
「お腹ペコペコだね。どうして、座っているだけなのにお腹が減るんだろうね」
「そりゃあ、頭を使っているからだよ。頭が全速力で走っているから、お腹も減るんだよ」
「リオっていつもおかしな例えするよね、面白い」
なんてこった。私は普通に会話をしているはずなのに、それだけで面白いと言われる。良いんだか、悪いんだか。
そんな会話をしながら、私達は昼食の準備をした。私はいつものサンドイッチ。ルメルは自分で作ってきたお弁当だ。
「どれどれ、ルメルが作ってきたお弁当はどんな感じかなー?」
「見て貰うの、ちょっと恥ずかしいね」
照れながらルメルはお弁当箱を開けた。そこには小さく切られたサンドイッチと色とりどりのおかずが並べられていた。けれど――。
「ふむ……お肉が焦げてる」
「やっぱり、そっちに目がいっちゃうよね」
おかずの形が不揃いな上に肝心のメインが焦げていた。まぁ、初めての料理だしこんなもんじゃないだろうか?
「初めてだし、失敗はよくある事だよ」
「そう言ってもらえると助かる。じゃあ、少しだけ味見して貰ってもいい?」
「じゃあ、私のサンドイッチも少しあげるよ」
「それは大丈夫。少し多目に作ってきたから」
ほうほう。作ってた時から、私に食べさせることを考えていたと。ルメル、意外にしたたかだ。
ルメルはフォークでオムレツを一口大にして切ると、フォークで刺して――。
「はい、どうぞ」
私に食べさせようとしていた。
……いや、いやいや! ここは恋愛シュミレーションゲームの世界じゃないの! 現実的な異世界なの!
ルメルは何!? ゲームのヒロイン役か何かなの!? もしかして、何かの強制力が働いたりとかしてない!?
「リオ、食べないの?」
「えっ、あっ、うーん……」
もしかして、愛情度システムがあるから、そういう事が関連したイベントが起きている可能性は? えっ、スキルがウィンドウってだけで、世界の理とか歪められる感じなの?
ウィンドウ……恐ろしい子。
まぁ、お弁当だったらこういうイベントがあるよね。うん、普通だし、沢山擦られたイベントだし、今更動揺するのはおかしい。
ここは、素直に食べるとしよう。
「んっ」
パクッとオムレツを食べると、ゆっくりと咀嚼する。オムレツは思ったよりも柔らかいし、バターの香りがした。これは美味し――ッ!?
ジャリ、と音がした。これは……卵の殻が入っている。その瞬間、私の目の前にウィンドウが出てきた。
『美味しいと言って食べる』
『正直に言う』
ほほう? こんなところで選択肢ですか。さて、ここはどっちを選択するのが正解だろうか?




