16.交渉成立
職員がいなくなると、父さんが大きくため息を吐いた。
「あぁ、緊張した。リオが自分で説明するっていった時は心臓が止まるかと思ったよ」
「いや、これは自分で説明しないと凄さが分からないと思ってさ」
「ちゃんと説明出来て、カッコよかったぞ」
父さんはニコリと笑って私の頭を撫でてくれた。えへへ、こんなことで褒められるとは思いもしなかった。嬉しい。
「しかし、あの道具が商業ギルドで使わるようになったら大変な事になるぞ」
「うん、それを狙っているの」
「……やっぱりか、抜け目がないよな。でも、リオも商売する気があったとはなぁ。大きくなったら、お店の経営者になるか? だが、ウチの店はレオンが継ぐし、リオはどうする?」
「将来の話? まだ、決まってないよー。これから、色んな事をやって決めていくつもり」
道具の話から将来なりたいものの話になってしまった。このスキルがあれば、色んな事が出来そうだよね。冒険者になるのはもちろんの事、スキルで出した物を売る商人とか、やっぱり日本の料理を再現した料理店っていうのもいい。
うー、色んな選択肢が出てきて決められないよ。ここは、色んな事をやりつつ決めていくのが良さそうだろう。
すると、父さんが腕組をしてしみじみと語り出す。
「リオの将来か……。背も高くなって、女性らしくなって、美人になっているだろうなぁ。そして……うぅっ」
「ど、どうしたの? いきなり泣いて」
「もし、リオに彼氏とか出来たら嫌だなって思って……」
「は、はぁ……」
いやいや、この父さんは話を飛躍させすぎ。どうして、そこまで話が進むんだか。
まぁ、だけど愛情度システムがあるのだから、いずれは恋人とかも出来るんだろうけど……。今はこのウィンドウを使って色々やっていた方が楽しそうだ。そういうのは愛情度が貯まってから考えよう。
「うぅ……リオはずっと家にいていいからな」
「まだ、言っているよ……」
全く、この父さんは。もっとしっかりして欲しい物だ。
そんな父さんを慰めていると、職員が帰ってきた。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。それで、どうでしたか?」
「はい。えんぴつと消しゴムは商業ギルドで使うことになりました」
「本当ですか!? やったぁ!」
よし! これで大きなお得意先ゲットだ!
「それで、この値段ですが、いかがしましょうか?」
「あぁ、そうですね。どれくらいの値段が良さそうですか?」
「話し合った結果、一つ1000デルでいかがでしょうか?」
1000デル……。一食500デル程だから、その倍と言う事か。前世よりも高くなるけれど、それだけの価値があるって思われたって事だよね。
「少し高いと思いますが、その値段でお願いします」
「分かりました。使用感を確かめたのちにまた値段設定を見直しましょう」
「それがいいと思います」
沢山使うなら、値段を抑えたほうがいいと思うけれど、初めての商品だから高く設定したのだろう。とりあえず、この値段で様子を見てから、価格を調整していこう。
「これから商業ギルドでは二つの商品を使いたいと思います。それぞれ300個ほど、納品してくれませんか?」
おぉ、流石商業ギルド! 量が多い!
えーっと、一ダースが12個入り2ポイントだから……100ポイントでそれぞれ300個を用意出来る。たった、100ポイントでそんなに沢山の商品が売れるのか。くっくっくっ、これは美味しい。
「では、これから家に取りに行ってきます」
「はい、お待ちしていますね」
そう言うと、私達は受付から離れた。すると、不思議そうにしていた父さんが声を掛けてくる。
「家に帰るって……その場でスキルで出せばいいんじゃないか?」
「いやいや、それだと危険だよ。何もない所から商品を出せば、驚かれるに決まっているじゃん。あの商品が私が考えるだけで出るっていう事は内緒にしておきたいんだよね」
「あー、そうか。危ないもんな」
スキルを使って商品を出していると、まだ気づかれたくない。だから、この事はいざという時まで秘密にするつもりだ。
「リオの初めての取引か……。そうだ、銀行に行ってカードを作ってこよう。これからお金を受け取るんだったら、お金を入れるリオ専用の口座がないとな」
「えっ、いいの?」
「いいも、悪いも、その商品はリオがスキルで出した物だ。リオには売上を受け取る権利がある」
「父さん……ありがとう!」
じゃあ、売上は私が貰ってもいいっていう事になるよね。これは、嬉しい! ……ん、待てよ。
「売上の帳簿とか書かなくちゃいけないんじゃない? それに税金も払わないといけないし……」
「それくらいなら、父さんの方でやっておくぞ。税金の方も払っておく」
「いやいや、全部は任せられないよ。私もやるし、売上の一部はお店の利益にする」
商売をするのなら帳簿を書くのは必須だし、それに付随して税金だって支払わないといけない。売上全部を受け取るのは、ウチのお店に迷惑がかかる。支払うものはちゃんと支払う!
「ちゃんと話し合おうよ。お店の名前を借りて私が商売しているようなものだから、ちゃんとお店の事も考えたい」
「リオがお店の事を考えてくれるなんて……! 父さんは感激だ!」
「もう、父さん! しっかりして!」
父さんは感激して私を抱きしめた。いやいや、ここはちゃんと考える場面でしょ!
……まぁ、でも。家族っていいな、とは思っている。




