15.プレゼン
「私が紹介するのは、こちらの商品です」
そう言って、まず出したのは一本のえんぴつだ。それを手渡すと、職員の人は興味深そうに眺める。
「これは……木、ですか? それに中に何か入っていますね」
「木の中に入っているのが芯と言われるものです」
「そうですか。こんなに細い物を作るなんて、難しい技術じゃないですか?」
「難しいと思いますが、スキルで問題が解決出来ます」
「……なるほど。スキルを使って作ったわけですか」
スキルと言うと、少しだけ雰囲気が和らいだ。それだけ、スキルに信頼をしている証拠だ。なんか困った事があったら、スキルのせいにしてしまおう。
「それで、これはどのように使うのですか?」
「これは、まず先端を削ります」
「やってみてください」
父さんからナイフを借りると、カウンターの上で先端を削ってみる。すると、平らだった先端が尖がった形に変わった。
「これで終わりですか?」
「はい、これで使用できます。紙を一枚くれますか?」
「こちらをどうぞ」
紙を一枚貰い、カウンターの上に置く。
「見ててください」
私はえんぴつを正しく持つと、紙に押し当てて、一本の線を引く。
「なっ……線が! と言う事は、こちらはペンと同じ機能がある物ですか?」
「いつも使っているペンとは違います。これなら、インクをペン先で吸わずに、芯が出ているだけずっと書けるんです」
「なるほど……。この芯というものが、インクの役割をしているのですか」
職員が興味深そうに芯を指先で触る。じゃあ、その説明も加えておこう。
「ですが、これはインクのように液体ではありません。芯そのものが黒い色をしていて、摩擦で少しずつ削れることで線が描けるんです」
「摩擦で削れる……つまり、使うたびに芯が減っていくということですか?」
「そうです。でも、インクみたいに乾いたりこぼれたりすることがないので、扱いやすいです。それに、字が書けなくなったらまた削ればいいですし、芯がなくなるまではずっと使えます」
「なるほど……。ペンの場合は、インクを補充する手間がありましたね。それに、インクが切れると急に書けなくなる。これはそういう心配がないわけです」
職員の人がうんうんと頷きながら、試しにえんぴつを貸して線を引かせてみた。
「……軽い力で書けますね。それに滑らかです。子どもでも使えそうですね」
「はい。実際に、子どもが文字を覚える練習にも向いています。筆圧が弱くても線が出ますし、インクの染みや汚れもありません」
「確かに、それは便利だ。ところで、この芯がなくなったらどうするのですか? やはり新しいものを買う必要が?」
「芯は長く持ちますし、一本でかなりの量が書けます。新しいえんぴつに替えるだけで済みます。ペンみたいに壊れる心配もありません」
「つまり、これは長く使えて、手入れがいらない筆記具というわけですね」
「そうです!」
思わず力が入って、私は少し胸を張る。
「ペンは確かに上品で、重要な書類を書くときには重宝します。でも、えんぴつは誰でも気軽に使えて、持ち歩くのにも安全です。子どもでも老人でも、同じように使えるんです」
「便利なだけでなく、安全で汎用性が高い、と」
職員の人は、えんぴつを手の中で転がしながら、しげしげと眺めた。
「それに、書いたものを消す道具もあります。あとで紹介しますが、間違えてもすぐに修正できるんです」
「消せる!? 書いた文字を?」
「はい。これがその消すための道具です」
私はもう一つの品を取り出した。小さく白い長方形。見た目はただの白い石のようなもの。だが、これこそがえんぴつと並ぶもう一つの発明、消しゴムだ。
「これは……何です? ただの白い塊にしか見えませんが」
「この部分で、さっき書いた線をこすると、消えるんです」
職員が目を丸くする。私はえんぴつを取って、紙の端に少し文字を書く。
「いいですか? ここを見ててください」
そう言って、消しゴムを文字の上に軽く押し当て、こすっていく。きゅっ、きゅっ、と小さな音が響く。すると――。
「……あっ!? 線が、薄くなっていく……いや、完全に消えた!?」
職員が身を乗り出した。信じられないという顔だ。書かれていた文字は、跡形もなく消え、紙の白さだけが残っている。
「見ての通りです。これを使えば、間違えてもすぐに修正できます。新しい紙を使う必要がありません」
「ま、まるで魔法のようですね! 本当に何も残っていない!」
職員は紙を裏返し、光に透かして確認している。だが、どこにも痕跡は見えない。その姿を見て、私は思わず少し得意げに笑ってしまった。
「えんぴつとこの消しゴムを組み合わせれば、誰でも簡単に文字を書いたり、直したりできます。練習にも記録にも、何度でも使えるんです」
「……す、すごい。まさか書いたものを消すなんて発想があるとは。これまでの常識が覆りますよ」
職員は感嘆の息を漏らしながら、何度も紙の表面をなぞる。そして、もう一度えんぴつを手に取り、今度は自分で線を引き、消しゴムでこすってみた。
「本当に消える……! まるで書かなかったかのようだ」
「えんぴつの芯は削れるだけなので、紙の表面に軽く乗っているんです。その分、消すこともできるんですよ」
「なるほど……。液体のインクとは仕組みがまるで違いますね。これは革命的だ!」
興奮気味に立ち上がった職員の声に、他の人たちもちらりとこちらを見た。その視線を感じながら、私は笑顔で言った。
「このえんぴつと消しゴムがあれば、誰でも自由に文字を学べます。間違いを恐れずに、何度でも書けるんです」
職員はしばし黙り込んだ後、感心したように深く頷いた。
「この二つ、売れると思います!」
「良かったです! じゃあ、お願いがあるのですが……」
「はい、なんでも言ってください!」
「それを、商業ギルドで使ってもらう事って出来ますか?」
上目遣いでお願いしてみると、職員はすぐに立ち上がった。
「今すぐに検討して参ります! 少々お待ちください!」
そう言って、足早に建物の奥へと消えていった。ふふっ、これならばいい返事が期待出来そうだ。




