第五章 崩れる仮面
王太子の晩餐会。
私は、ルイゼットにワインをこぼさせる“事故”を装って、彼女を庇い、自分を責めた。
「ごめんなさい! 私が気をつけていれば……! 今すぐに染み抜きをするわ! さぁ、こちらへ」
ルイゼットを優しく誘う私の背中を見て、皆が驚き、「ミランダ様がお優しい……」と称賛する。
全てを完璧に済ませて、自室で休んでいると、その夜、レオが私の部屋に現れた。
「演技が過ぎる。逆に不自然だ」
「……あなたには、関係ないことでしょう」
「お前のことを思って、忠告してやっているんだ」
その言葉に、何故か涙が零れた。
その涙が、悲しさの涙なのか、悔しさの涙なのか、他の感情からくる涙なのか、私にはわからない。
「……なら、どうすればいいの? 私は、追放されたくない。孤独になりたくない。だから、こうしてるのに……!」
「孤独を避けるために、孤独になる。馬鹿げている」
「……知ったようなことを言わないで!」
「偽りの笑顔で、誰かに愛されようとしても、愛されるのは“演じているお前”だ。本当のお前は、誰も見ていない」
私は、言い得て妙だと思った。
──その通りだ。
誰も、今の私を“本当の私”として見ていない。