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3.文化祭実行委員

高校生活の一大イベントといえば、まあ色々あるだろうが、文化祭もその1つと言えるだろう。


楽しみではあるが、かなり労力を使うイベントでもある。これが、実行委員ともなれば尚更。


「こんなことなら、なんか適当に部活入っとけば良かった⋯」

「その方が面倒かもしれないぞ。実行委員は文化祭が終わればそれで終わりだろ」


文化祭実行委員は、各クラスから2人ずつ選出するよう言われていた。俺たちのクラスは何の部活も委員会も入っていない人がやった方がいいとなり、俺と大和がやることになった。


「俺はジャンケンで負けたからしょうがないけど、大和は良かったの?」

「ああ、別にいい」


委員決めの際、俺のようなどこにも所属してない奴らが集まって話し合ったが、大和は自分からやると言い出した。実行委員なんてやったら忙しくなって、芳賀と一緒に遊べなくなるんじゃないかと思ったが、どうやら大和には別の思惑があったようだ。

委員会の顔合わせに行って、その理由がわかった。


「大和〜」


教室に入ると、奥の方で芳賀がヒラヒラと手を振った。なるほど、芳賀も実行委員だったからか。


「2組は深智と2人になったんだね」

「帰宅部で暇だろって言われて。芳賀は部活あるんじゃないの?」

「美術部は毎日あるわけじゃないし。休んで誰かに迷惑かかるわけでもないしね」


1組のもう1人の実行委員は知らない奴だった。軽く挨拶をする。


今日の委員会は自己紹介とだいたいの仕事の内容説明で終わった。俺たち1年が本格的に準備を始めるのは校外学習が終わってかららしい。


「終わった〜。大和、帰る?」

「ああ。その前に、深智」


どうせ大和は芳賀と2人で帰るんだろうと、さっさと教室を出ようとしたら、なぜか呼び止められた。


「なに?」

「これ、ありがとう」

「なあにそれ? 本?」

「深智に借りてた漫画」


返すのはいつでも良かったんだけど、わざわざ持ってきたらしい。

しかし、返すならさっき2人きりだった時に返して欲しかったんだけど。


「面白かった」

「それなら良かった」

「面白いの? どんな話?」


ほら見ろ、芳賀が興味持っちゃったじゃないか。


「後で話す。ここ鍵かけるみたいだから、とりあえず出よう」

「うん。深智も一緒に帰る?」

「えっ、いや、俺は⋯、お邪魔かなって」

「え?」


芳賀はチラッと大和の方を見た。あれ、もしかしてマズいこと言っちゃっただろうか。


教室を出てから、芳賀はさり気なく大和の腕に自分の腕を絡めた。


「話したんだ?」

「駄目だったか?」

「別にいいけど。じゃあ深智も一緒に帰ろ。邪魔とかないし」

「⋯うん」


なんか笑顔の圧が怖い。

芳賀としては周りには隠しておきたいことだったのかもしれない。


俺はこっそり大和を睨んだが、本人は気付いていないようだった。



   ✦✦✦


ノートを買いたいと言って大和が店に寄っている間、俺は芳賀と2人で待っていた。

芳賀は自販機でジュースを買っている。


「あのさ⋯」


俺はさっきのことが気になって、その後ろ姿に声をかけた。


「んー?」

「なんか、ごめん。大和とのこと」

「え? 何が?」

「いや、芳賀は隠しときたかったのかなって思って」

「ああ、そのことね」


ストローをくわえながら、芳賀は少し考える素振りを見せる。


「深智が謝ることじゃないよ〜。別に隠しときたかったわけじゃないし。ただ⋯」

「ただ?」

「大和って、あんまり自分のこと周りに話さないじゃん? だから、深智にはもう話したんだって思っただけ」

「そりゃまあ、中学の時からの付き合いだし」

「それは僕も大して変わんないんだけどな〜」

「芳賀にはあんまり話さないの? 自分のこと」


確かに今までの大和は、自分のことを相談してくるようなキャラではなかったけれど、かといって秘密主義だったわけでもない。


「話さないわけじゃないけどね。でも、一部しか見せてくれてない感じ。かっこ悪いところは見せたくないって思ってるのかな」

「ああ、それは⋯、」


なんとなくわかる、けど。


「好きな人相手だったら、普通そうなんじゃん?」


かっこ悪いところを見せて、幻滅されたら嫌だし。


「まあそうだよね。それはわかってるんだけど⋯」


芳賀は、それでもちょっと悩んでるみたいだった。

恋愛してる人はみんな悩みが多くて大変だな。


「大和も、芳賀にしか見せてない顔があると思うけど」

「ふ。えー?」

「⋯やばい、なんか恥ずいこと言った。忘れて」

「えーやだ。忘れない」


最近悩み相談が多かったせいか、芳賀にも同じ調子で返してしまった。とんだおせっかいだ。


「マジで恥ずいだろ。忘れろよ」

「恥ずいけど、嬉しかったから、忘れないよ?」

「⋯⋯」


芳賀はくすくす笑っている。

大和、さっさと戻って来てくれないかな。たかがノート買うのに時間かかり過ぎじゃないか?


「ね、さっきの漫画ってなに? 僕にも貸して」

「え? うーん」

「大和はよくて、僕はだめなの?」

「そういうわけじゃないけど」


俺は渋々、芳賀に漫画を渡した。


「ありがと」

「周りに誰かいるとこで読むなよ」

「何それ。エッチなやつ?」

「わ! ちょ、ここで出すなってば」


袋から出すのを俺が阻んだため、芳賀は袋の口から中を覗いている。


「あ、なんだBLか」

「⋯驚かないんだ」

「僕姉さんいるし。でも、これ大和が読みたいって言ったの?」

「⋯まあ」


以前うちに漫画を読みに来て以来、大和には何冊か貸している。オススメがあれば貸してほしいと言われ、俺も布教したい気持ちはあったので、割と楽しんで貸していた。


芳賀は、ふーん、とどこか意味深な笑みを浮かべていた。


「大和って、変なとこ真面目だよね」

「それな」

「俺がなんだって?」

「うわあ!」


突然背後に現れて驚く俺とは裏腹に、芳賀は呑気にジュースを飲んでいた。


「おかえり〜。遅かったね」

「レジがめっちゃ並んでた。で、俺がなんだって?」

「大和って真面目だよねって話してたの」


1番大事なところが抜けている。


「そうか? 透の方が真面目だろ」

「ふふ。そう? まあいいや。遅くなっちゃうから帰ろ」

「おう」


歩きながら、芳賀が飲みかけのジュースを大和に渡していた。それをなんでもないことのように受け取る大和を見て、ちょっとだけ、なんかいいな、と思った。


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