表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国新選組 最狂×最狂 ー土方歳三が織田信長に逆行転生した混ぜたら危険な世界線ー  作者: 五平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/45

第7話 理と情、そして見せしめ

清洲城は、奇妙な静けさに包まれていた。朝靄の中、兵たちは顔を見合わせることなく、ただ黙々と刀の手入れに勤しんでいる。昨日、堀田が信長によって公然と糾弾されてから、城内には張り詰めた糸のような緊張感が漂っていた。信長は、堀田を斬り捨てはしなかった。それがかえって兵たちの間で憶測を呼び、不安を煽っていた。


(斬る。それが、この時代の「裁き」だ)


信長の脳裏には、壬生で見た見せしめの斬首刑が蘇る。隊規を破った者は、即座に死を以て償う。それが、最も単純で、最も効率的な裁きだった。だが、信長は違う。この尾張で、俺は別の「裁き」を立てる。


「若殿、御用と伺い、罷り越しました」


堀田が、犬千代に連れられて信長の前へとやってきた。彼の顔は、昨日の動揺から抜け出せず、生気を失っていた。その背後には、勝家も控えている。彼の表情は、信長が堀田にどのような裁きを下すのか、冷静に見極めようとしていた。


信長は、堀田の顔をじっと見つめた。


「堀田、貴様は、金子で兵たちの不満を煽り、軍律を乱そうとした。その罪、重い」


信長の静かな声が、張り詰めた空気を切り裂く。堀田は、信長の言葉にただ震えることしかできなかった。


「しかし、貴様を斬りはせぬ」


その言葉に、堀田は顔を上げた。そこに浮かんだのは、安堵の色。だが、その安堵は、次の瞬間に恐怖へと変わった。


「貴様には、この軍律を、その身で完成させてもらう」


信長は、そう告げると、堀田に背を向けた。


---


その日の午後、清洲城の広場に、堀田の姿があった。彼の周りには、刀改めを終えた兵たちが、遠巻きに集まっている。堀田の目の前には、巨大な木桶が置かれている。中には、米粒と小石がごちゃ混ぜになって入っていた。


堀田は、木桶に手を伸ばす。


「若殿の御裁きだ。兵ども、見届けよ」


犬千代の声が、広場に響き渡る。


「堀田、これから、貴様には、この米粒と小石を、一つずつ選り分けてもらう」


信長の声が、広場に響き渡る。


「米は蔵へ。小石は、この桶へ」


堀田は、信長が何を言っているのか理解できなかった。信長は、堀田の顔を見下ろすと、静かに言った。


「その小石一つ一つが、貴様が己の欲のために乱した、我らの規律だ。その米粒一つ一つが、貴様が賄賂で手に入れようとした、兵たちの心だ」


堀田の顔から、血の気が引いていく。信長は、言葉を続ける。


「この木桶の米をすべて選り分け終えるまで、貴様の裁きは終わらぬ。その間、食事は一日に一度、水は桶一杯のみ」


その言葉に、兵たちはざわめき始めた。誰も声を上げなかった。だが、その沈黙こそが、裁きの正しさを物語っていた。


(斬り殺すよりも、残酷な裁きだ…)


誰もが、そう思った。この裁きは、堀田の肉体を傷つけるものではない。だが、彼の精神を、根こそぎ破壊する。それは、信長が「魂を磨く」と言った、その言葉の裏側に隠された、底知れぬ恐怖だった。


---


信長は、広場を後にし、勝家と向き合った。


勝家は、信長の顔をじっと見つめていた。彼の表情には、信長への畏怖と、腹心への裏切りに対する猜疑が入り混じっていた。


「若殿、あのような裁きは、あまりに非道。これでは、兵たちの間に、不満と恐怖が蔓延しまする」


勝家の言葉は、正論だった。だが、信長は静かに首を振った。


「勝家殿、貴殿は、兵たちの心を、理解していない」


信長の言葉に、勝家は眉をひそめた。


「兵たちが欲しいのは、腹を満たす米だ。だが、それだけでは、彼らの魂は満たされぬ。彼らが本当に欲しいのは、公正な「裁き」だ。彼らは、規律を破った者が、公然と裁かれることを望んでいる」


勝家は、信長の言葉に、反論することができなかった。信長は、静かに勝家の顔を見つめた。


「腹は満たせても、魂は満たせぬ。この世に、真の裏切りなどない。あるのは、己の信じた道から外れる者だけだ」


その言葉は、まるで氷のように冷たかった。勝家は、信長が何を言っているのか理解できなかった。だが、彼の脳裏を、壬生で見た、斬り捨てられた者たちの顔が走馬灯のように駆け巡った。


---


夕暮れ時、信長は清洲城の庭を散策していた。風が、梅の香りを運んでくる。


「若殿」


犬千代が、信長の元へとやってきた。


「薬種屋の帳面、もう一度洗い直しました。堀田様の他に、もう一人、不審な名が…」


その言葉に、信長は足を止めた。犬千代は、懐から取り出した帳面の写しを信長に差し出す。


「この男、勝家様の家臣、岩田と申しまする。彼もまた、堀田様と同様に、井上宗助に金子を渡していた模様にございます」


信長の脳内に、新たな図面が引かれる。堀田と岩田。勝家の腹心二人が、井上一派に金子を渡していた。それは、単なる個人的な裏切りではない。勝家を巻き込んだ、より大きな陰謀の始まりだった。


(勝家殿、貴殿は、まだ、俺のやり方を理解していない。だが、それでいい。貴殿の正しさも、いつか、俺の「理想」に飲み込まれる)


信長は、静かに言った。


「岩田か。明日、斬る。それも、皆の前で、高らかにな」


犬千代は、信長の言葉に息を呑んだ。


すべては、ここから始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ