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戦国新選組 最狂×最狂 ー土方歳三が織田信長に逆行転生した混ぜたら危険な世界線ー  作者: 五平


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第36話 稲葉山城、風雲の兆し

美濃侵攻を開始した信長軍は、武力ではなく、流言と謀略によって斎藤家を内部から崩壊させていた。しかし、稲葉山城の前に立った時、信長軍の兵士たちは、その巨大な城を前に、恐怖と畏怖の入り混じった眼差しを向けていた。稲葉山城は、天然の要塞だった。周囲は険しい山に囲まれ、容易に近づくことはできない。城の天守からは、信長軍の動きを監視する斎藤軍の兵士たちが、まるで嘲笑うかのように、信長軍を見下ろしていた。


城を覆う濃い霧が、兵士たちの顔を湿らせ、湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。風がうなりを上げ、不安を煽るように旗指物を揺らしていた。兵士たちの間には、桶狭間の勝利で培われた信長への信頼が、難攻不落の稲葉山城を前に、少しずつ揺らぎ始めていた。


「おい、桶狭間はあんなに簡単に勝てたのに、この城は一体…」

「信長様は、どうやってこの城を落とすおつもりだ…」


兵士たちは、互いに顔を見合わせ、不安げに囁き合った。その不安は、瞬く間に軍全体に広がっていく。


---


時を同じくして、斎藤家の居城、稲葉山城では、重臣たちが、激しい口論を繰り広げていた。


「信長の軍勢が、我ら美濃に侵攻を開始したと申すか!」


斎藤義龍は、血相を変えて叫んだ。彼の周りには、互いを疑い、顔を歪ませた重臣たちが集まっていた。信長から流された偽の書状と流言により、彼らの間には、すでに深い亀裂が入っていた。


「それは、信長の罠にございます! 奴は、我らを内部から崩そうと企んでおります!」


ある重臣が、そう叫んだが、誰も彼の言葉を信じようとしなかった。彼らは、互いの腹を探り合い、誰が信長と内通しているのか、疑心暗鬼に陥っていた。


(信長め……このままでは、我らは、戦う前に滅びる…!)


斎藤義龍は、重臣たちの間に流れる不穏な空気に、深い絶望を覚えた。彼は、信長の非情な策に、ただ翻弄されることしかできなかった。


---


信長軍は、静かに美濃へと進軍していた。その道中、信長は、犬千代と藤吉郎を呼び寄せた。


「犬千代、美濃の情勢は…」


信長が静かに問うと、犬千代は、淡々と報告を続ける。


「若殿の懸念通りにございます。斎藤家は、すでに内乱状態にあり、重臣たちは互いに疑心暗鬼に陥っております。斎藤義龍様も、適切な指揮が取れていない模様にございます」


信長の言葉に、犬千代は無言で頷いた。彼の表情は、信長の意図を深く理解しているようだった。


「藤吉郎、美濃攻略の策を申せ」


信長が問うと、藤吉郎は、目を輝かせて答えた。


「はい! 若殿の策通り、斎藤家は内から腐っております。この混乱を利用して、我らは、正面から攻めるのではなく、稲葉山城を無血で陥落させまする!」


藤吉郎の言葉に、信長は静かに頷いた。


「愚かな……武士の誉れなど、腹は膨れぬ。裁きだけが、魂を縛るのだ」


信長の言葉は、まるで氷のように冷たかった。彼は、この戦いが、武力ではなく、謀略と「理」によって勝利することを確信していた。


---


その日の午後、信長軍は、稲葉山城の麓に陣を敷いた。稲葉山城は、難攻不落を誇る天然の要塞だった。信長軍の兵士たちは、その巨大な城を前に、恐怖と畏怖の入り混じった眼差しを向けていた。


(この城を、どうやって……)


兵士たちは、互いに顔を見合わせ、不安げに囁き合った。


だが、信長は、ただ静かに、稲葉山城を眺めていた。彼の表情に、一切の感情はなかった。


信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して、呟いた。


「天下布武……この理想を成すには、尾張はただの一点に過ぎぬ。されど、この一点を疎かにすれば、全てが崩れ去る」


信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して、呟いた。


「犬千代、藤吉郎、兵たちを整えよ」


信長の言葉に、犬千代と藤吉郎は、無言で頷いた。


(俺は…信長様の手足。言われるままに動く、ただの犬だ…)


犬千代の心臓は、トク、トク、と不吉な音を立てる。だが、その音は、信長が目指す「天下布武」という、冷徹な「理」への共感と、彼にしか見出せない「未来」への期待が、彼自身の内部で葛藤している証拠だった。


(若殿の理は、恐ろしい。だが、それが正しいと、俺が証明せねば…)


藤吉郎もまた、信長の言葉に、心の奥底で震えていた。信長の非情な裁きを目の当たりにし、次は自分が裁かれるかもしれないという恐怖と、それでも「若殿の理」が正しいと証明したいという、成り上がり者としての自負が、彼の心臓を激しく揺さぶっていた。


その鼓動は、犬千代も、藤吉郎も、信長も、そして広間の全ての者たちも、同じように感じている、不吉な、しかし確固たる決意の音だった。


夕暮れの空が、黒漆の鞘に、鈍色の光を映していた。風が、砂利をさらい、まるで戦場を先に掃除しているかのようだった。鴉の群れが、不吉な鳴き声を上げながら、古き武士の「誉れ」を食い散らかすように飛び去る。夕陽が赤々と雲を染め、それが桶狭間の血の残照に見えた。


その遠くから、太鼓の音が、ドォン、ドォン、と響いてくる。城下町の寺の鐘が、ゴォン、と重い音を立てる。そして、遠い空から、雷が、ゴロゴロと鳴り響く。すべての音が重なり合い、まるで尾張の地に住む全ての者の心臓が、一斉に高鳴っているかのようだった。


信長の横顔に、夕陽の鈍色の光が反射し、まるで鬼火のように揺らめいていた。彼は、人なのか、鬼なのか、それとも、ただただ、新しい世界を創造する「理」の化身なのか。誰も、その答えを知らなかった。

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