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戦国新選組 最狂×最狂 ー土方歳三が織田信長に逆行転生した混ぜたら危険な世界線ー  作者: 五平


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第34話 鳴り止まぬ鼓動

清洲城の広間は、朝から張り詰めた空気に満ちていた。蝋燭の油が、チチッ、と小さく弾ける音だけが、広間の重い静寂を切り裂く。畳に滴り落ちる汗の音が、ト、ト、と不規則に響き、冷え切った石壁は、湿った土と、いつかの戦で死んだ兵の血の匂いを運んでくるようだった。老臣たちが、一人、また一人と広間に集まってくる。彼らの顔は、憔悴しきっており、互いに視線を交わすこともなく、ただ静かに信長の到着を待っていた。彼らは、信長が自分たちの陰謀を全て見抜いていることを、漠然と、しかし確信を持って知っていた。


(信長様は、我らをどうされるつもりか……)


彼らの心臓は、重い鉄塊のように胸の奥で沈んでいた。


信長は、音もなく広間に入ってきた。彼の表情に、一切の感情はなかった。ただ、その瞳は、氷のように冷たく、広間にいる全ての老臣たちを射抜いていた。彼は、一歩、また一歩と、ゆっくりと、しかし確固たる意志を宿して歩みを進める。その歩みは、まるで舞台劇の主役のように、広間の空気を支配していた。


信長は、広間の中心に立つと、静かに、しかし有無を言わさぬ口調で告げた。


「林秀貞、佐久間信盛、柴田勝家、前に出よ」


信長の声が、広間に響き渡る。その声は、まるで死神の宣告のように、老臣たちの心を鷲掴みにした。


林秀貞と佐久間信盛は、震える足で信長の前に進み出た。林秀貞の顔は、この世の終わりのように蒼白に染まり、額からはとめどなく汗が流れていた。


(わしは、織田弾正忠家を、信秀様と共にここまで築き上げてきたのだ…! 清洲城の城代として、どれほどの苦労を…)


信秀の命を受け、信長を補佐しろと命じられたあの日を思い出す。まだ若かった信長が、たびたび奇行に走るたびに、信秀の懐刀として諌めてきた誇りが、今、無に帰す無力感に打ちひしがれていた。


佐久間信盛は、顔面を土気色に変え、心臓が爆発しそうなほどの激しい鼓動を自覚していた。


(家のためだ! 家中での地位を、なんとかして守らねばならぬ…! 信長様の「理」は、あまりにも急進的すぎる…! このままでは、織田家全体が滅ぶ…そう、これは、織田家のため…!)


己の保身のためについた言い訳が、脳内で虚しく反響する。信長を軽んじ、自らの欲に走った愚かさが、今、走馬灯のように脳裏を駆け巡り、彼は、ただ後悔に打ちひしがれていた。


柴田勝家は、信長の言葉に一瞬戸惑ったが、静かに信長の前に進み出た。彼の顔には、信長への忠義と、老臣たちへの憐れみが入り混じっていた。


(信長様…!)


その脳裏に、弟・信行を処断した夜の雨音が蘇る。ドシャァァァァァ…と降り注ぐ雨の音。濡れた畳が、信行の流した血の匂いを吸い込み、冷たい土の匂いと混じり合っていた。信長は、ただ無言で、冷たい眼差しを向けていた。


『兄上には、裏切りの心を抱く者には、断固たる態度で臨んでいただきたい…』


信行の最後の言葉が、勝家の鼓膜にへばりついて離れない。信長の「理」は、身内ですら容赦なく切り捨てる。その冷徹さが、今、自分の番が来たのだと、勝家に告げているようだった。


広間の端に控えていた若侍たちは、息をひそめ、汗が額を伝うのを感じていた。一人の若侍は、恐怖で手に握られた刀が、汗で滑りそうなのを感じた。


(次は…誰だ…)


若侍は、無意識に刀の柄を強く握りしめる。


老臣たちの密談を耳にした小姓は、信長の前に進み出た林秀貞と佐久間信盛の姿を見て、喉がカラカラに乾いていることに気づいた。


(このことを、殿に報告すべきだったのだろうか…いや、だが、もし報告していれば、儂の命は…)


報告しなかった後悔と、報告していたらどうなっていたかという恐怖が、小姓の心を激しく揺さぶる。


信長は、老臣たちを前に、静かに、しかし有無を言わさぬ口調で告げた。


「貴様ら、己の欲のために、主君を裏切ろうとした。その罪、重い」


信長の言葉に、老臣たちは、ただ震えることしかできなかった。彼らは、信長が自分たちの陰謀を全て見抜いていることを確信した。


「若殿、我々は……」


林秀貞が、何かを言おうとしたその瞬間、信長は、林秀貞の言葉を遮るように、静かに、しかし確固たる意志を宿して言った。


「貴様らの裏切りは、この織田家を、内部から腐らせようとする毒だ。その毒は、天下布武の『理』が拭い去る」


信長の言葉に、老臣たちは言葉を失った。


信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して、呟いた。


「俺は、俺の理想を貫くためならば、たとえ血を流すことも厭わぬ。それが、この国の、新たな夜明けを創るための、必然なのだ」


その言葉を吐き捨て、信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して命じた。


「林秀貞、佐久間信盛、所払い。追放の身分に落ちたことを忘れるな」


信長の非情な裁きに、広間全体が、一瞬の静寂に包まれた。そして、再び、激しいざわめきが起こった。老臣たちは、恐怖に顔を歪ませ、信長の冷徹な「理」に、ただ従うことしかできなかった。林秀貞と佐久間信盛は、足元がおぼつかない様子で立ち尽くす。そこへ、信長の命を受けた武士たちが、無言で彼らを広間から連れ出す。畳に響く、重く、引きずるような足音が、老臣たちの心をさらに追い詰める。


広間の老臣たちは、互いに目線を送り、自分が信長からどのように見られているのか、探るような視線を交わしていた。


信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して、呟いた。


「天下布武……この理想を成すには、尾張はただの一点に過ぎぬ。されど、この一点を疎かにすれば、全てが崩れ去る」


信長は、静かに、しかし確固たる意志を宿して、呟いた。


「犬千代、藤吉郎、美濃へ出陣する」


信長の言葉に、犬千代と藤吉郎は、無言で頷いた。


(俺は…信長様の手足。言われるままに動く、ただの犬だ…)


犬千代の心臓は、トク、トク、と不吉な音を立てる。だが、その音は、信長が目指す「天下布武」という、冷徹な「理」への共感と、彼にしか見出せない「未来」への期待が、彼自身の内部で葛藤している証拠だった。


(若殿の理は、恐ろしい。だが、それが正しいと、俺が証明せねば…)


藤吉郎もまた、信長の言葉に、心の奥底で震えていた。信長の非情な裁きを目の当たりにし、次は自分が裁かれるかもしれないという恐怖と、それでも「若殿の理」が正しいと証明したいという、成り上がり者としての自負が、彼の心臓を激しく揺さぶっていた。


その鼓動は、犬千代も、藤吉郎も、信長も、そして広間の全ての者たちも、同じように感じている、不吉な、しかし確固たる決意の音だった。


夕暮れの空が、黒漆の鞘に、鈍色の光を映していた。風が、砂利をさらい、まるで戦場を先に掃除しているかのようだった。鴉の群れが、不吉な鳴き声を上げながら、古き武士の「誉れ」を食い散らかすように飛び去る。夕陽が赤々と雲を染め、それが桶狭間の血の残照に見えた。


その遠くから、太鼓の音が、ドォン、ドォン、と響いてくる。城下町の寺の鐘が、ゴォン、と重い音を立てる。そして、遠い空から、雷が、ゴロゴロと鳴り響く。すべての音が重なり合い、まるで尾張の地に住む全ての者の心臓が、一斉に高鳴っているかのようだった。


信長の横顔に、夕陽の鈍色の光が反射し、まるで鬼火のように揺らめいていた。彼は、人なのか、鬼なのか、それとも、ただただ、新しい世界を創造する「理」の化身なのか。誰も、その答えを知らなかった。

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