古代インドでの説法
シャンティの説法が終わった。集まっていた40人ほどの聴衆たちは涙を流しながら拍手をした。三々五々になって聴衆たちが帰っている途中、一人の男がシャンティの元へやってきた。
「すいません。シャンティさん。あなたの説法のなかで気になる点がいくつかありました。質問させてもらってもいいですか?」
「ああ、いいよ。なんでも聞きたまえ。」
「あなたはこの世界を支えているのは、巨大な亀だと仰いましたよね?」
「いかにも。」
「では、その巨大な亀を支えているのは何なのでしょうか?」と男は言った。シャンティはしばらく黙って下を向いていた。そしていきなり「すごいよ君!そこに気づくなんて。君が初めてだよ!」と言った。
「ありがとうございます。私は真理が知りたいのです。この探求心が私をあなたのところにまで運びました。私の家はここから500kmほど離れたところにあります。あなたの名前は私の村でも有名です。」
「遠いところからわざわざ来てくれたんだね。よし、特別だ。まだ誰にも言ったことがないその先の真実を教えよう。」
「ありがとうございます!」
「実は巨大な亀を支えているのは8頭の象なんだ。」
「8頭の象?」
「そうなんだ。1頭1頭がそれはそれは巨大な象なんだ。でも亀の方が巨大だから、8頭でその亀を支えているんだ。」とシャンティは言った。男はしばらく考え込んだ。そしてこう言った。「では、その8頭の象を支えているのは何なのでしょうか。」
「そ、それはだね、君。。それは、、」
男はシャンティの顔を真剣なまなざしで見ている。
「それは、8頭の象よりももっと大きな8頭の象が支えているのさ。」とシャンティは言った。
「では、そのもっと大きな8頭の象を支えているのは何なのでしょうか?」
「それは、、それは、、もっともっと大きな8頭の象だよ。」
「ではそのもっともっと大きな8頭の象を支えているのは何なのでしょうか?」
「おっと、もうそろそろ夕飯の時間だ。お腹が空いてきちゃったよ。また明日でもいいかい?」
「待ってください。もう少し質問があります。」と男は言った。
「はぁ、わかった。何かね?」シャンティはため息交じりに言った。
「あなたはこの世界は神が作られたのだと、そう仰いましたよね?」
「いかにも。」
「ではその神は今、どこでなにをしていらっしゃるのですか?」
「どこでなにをって、、君、、」
「この世界が既に神が作った完成品なら、神はどこかでお休みになっておられるのでしょうか。だとしたら神様は、大変退屈されてるんじゃないでしょうか?」
「あ、いや、、そういえば、まだ、、神はこの世界を作っている途中だよ。そうだった、そうだった。忘れてたよ。明日、みんなの前でも訂正しておかないとね。ご指摘ありがとう。」
「そうなんですね!、、、、、あ、でも、だとしたら、神はどこで何を作っていらっしゃるんですか?私は神様に会ったことがありません。」
「もういいだろう?家に帰って夕飯の支度をしなくちゃならないんだ。明日にしてくれないか?」少し怒った様子でシャンティが言った。
「すいません!もう一つだけ最後に質問させてくれませんか?」男は懇願した。
「はぁ、これで最後だよ。何かね。」
「ありがとうございます!あなたは私たちの命は永遠だと仰いましたね?」
「いかにも。」
「永遠というのは終わりがないということでしょうか?」
「そうだよ。」
「終わりがないということは、始まりもないということになりませんか?」
「え?まあ、、、そう、なるのか、、な?」
「どこかの地点で始まったものが永遠に続くとは考え難いです。始まったのなら終わりが来ませんか?」
「この話はもうやめないか?」
「いえ、私は真理が知りたいのです。教えてください。始まりがないとはどういうことですか?」
「もうよそう。なんだか怖くなってきたよ。」
「私もこのことを考え出すとたまらなく恐ろしくなるのです。それでも真実が知りたいのです。」
「もうやめろ!頭がおかしくなりそうだ!」シャンティがそう叫んだとき、彼の中で何か変化があった。
「あれ、なんだこれ。あなたがあなたを見ている。いや、違う。私はあなたなのか?」
「どうされたのですか?シャンティさん。」
「私はもう二度と眠れないかもしれない。」シャンティはそう言った。