わたしのことが嫌いな冷たい王太子殿下と話し合ってみました。
初めまして、葵生と申します!
今回、初めての短編をかいてみました。
選んでくださり、ありがとうございます!
よろしくお願いします!
「コーネリアお嬢様、今夜は楽しみですね。待ちに待っていらした夜会ですもの。やっと、レオンハルト王太子殿下にもお会いできますものね」
朝。目覚めると、メイドのエリーゼが嬉しそうに微笑んでいた。それでやっと思い出す。今夜は王国を挙げてのパーティ、つまり夜会である、ということに。
「ええ、そうね・・・」
呟きを返し、メイドのされるがままになって、着替えさせてもらう。まだ部屋着のワンピースだ。
レオンハルト王太子。コーネリアはキャロレシア公爵令嬢だ。もう十七歳であることと公爵家の令嬢であることをふまえ、レオンハルトと婚約している。つまり、コーネリアはレオンハルトの婚約者なのだ。当然、結婚したら、コーネリアは王太子妃となるし、ゆくゆくは王妃となり、この国を支えなければならない。そのためには、厳しい王妃教育も耐え抜かなければならないのだ。
コーネリアは十四歳の頃から、密かに王妃教育を受けてきた。そのため、もう完遂しており、あとは国家機密を知ることのみとなっている。もちろん、ただの公爵令嬢であるだけの頃から国家機密を知っている訳にはいかないため、レオンハルトと結婚したら、その内容を教えてもらえるのだ。
しかし、コーネリアの気分があまり上がらないのは、その国家機密を知り、国から離れることが不可能になるからではなかった。むしろ、親がいる国に残れるのは幸いだし、ありがたいとも思っている。
だが、問題はレオンハルトとお近づきになれないことだったのだ。もちろん、パーティのときなどは必ずエスコートをしてくれるし、気を遣ってくれる。けれど、重要なエスコートが終わり次第、王族専用の座席へ戻ってしまうのだ。そこにはただの公爵令嬢である、コーネリアは入れない。いくら、貴族女性の中で一番身分が王族のつぎに高いからと言って、王族との間には大きな壁があるのだ。
はあ・・・。今日も放っておかれるのかしら。そうして、お友達に可哀相、と言われるんだわ。もう、疲れてしまうし、エスコートが終わったらいっそ帰ってしまおうかしら。
そんなことが一瞬よぎり、だめだめと思ったけれど、あら・・・と気づいた。
・・・別に役目が終われば帰って良いんじゃない!?
「・・・様?お嬢様、お着替えが終わりましたよ」
ぼーっと考え事をしていたせいでやけに心配されてしまった。
「ええ、ありがとう。お父様とお母様はもう起きていらっしゃるのかしら?」
「はい、旦那様も奥様も起きていらっしゃると思います。恐らく、食堂でお待ちでしょう」
そう言われ、急いで階段を降りる。そして、食堂に入った。そこにはなごやかに話している父と母がいた。
「お父様、お母様、おはようございます。遅くなってしまい、申し訳ございません」
「おはよう、コーネリア。そんなに待っていないから、大丈夫だよ。ねえ?」
「ええ。コーネリア、おはよう。よく眠れたかしら?今夜は夜会ですもの」
コーネリアは椅子の音がならないように慎重に座りながら、笑顔ではい、と答えた。良かったわ、と笑
顔で母も答え、運ばれてきた食事に手をつける。
「お父様、お母様。今夜の夜会は一足早く帰るかもしれません。何せ、明後日も夜会があるんですもの、疲れてしまいますから」
曖昧に理由を述べると、両親は分かった、と頷いてくれた。
「それにしても、シャルーラ伯爵家のご夫人は体調がお悪いそうよ。元々、美しい女性だったのに、今は見る影もないんですって。仲がよろしいフリエイト伯爵家のご夫人のエルバーラ様が仰っていたの」
「そうか。それは心配だろう、シャルーラ伯爵も。今度、お見舞いを差し上げたらどうだ?」
「ええ、そうね。何が良いかしら。薔薇とか、喜びそうよね、彼女は。コーネリアはどう思う?」
突然、話題を振られたコーネリアは笑顔で答えた。
「ええ、そうですね。薔薇も宜しいかと思うけれど、ガーベラなんかも良いんじゃないかしら。花言葉が前進とかだもの」
コーネリアが言ったのに対し、母は嬉しそうにそれにしましょう、と頷き、執事に早速指示を出した。
「あ、コーネリア。後でわたくしのお部屋に来てくれる?選んでほしいものがあるのよ」
「はい、お母様」
もちろん、と頷き、食事を終えたコーネリアは朝の勉強を終えるため、自分の部屋に向かった。
「お嬢様。奥様がお呼びでございます」
「あっ、そうだったわね。ありがとう」
勉強に集中しすぎており、時計を見ていなかった。改めて時計を見ると、十一時。
「まあ、大変だわ。急いでいかなくちゃ。あ、エリーゼ。悪いけれど、本を図書館に返しておいてほしい
の。今日が返却期限ってこと、すっかり忘れちゃってたのよ」
「かしこまりました」
指示を出し、母の部屋に向かう。コンコン、とドアをノックすると母は入室の許可を出してくれた。
「失礼致します」
入ると、母が笑いかけながら、二つのネックレスを持ちながら、コーネリアにきいてくる。
「ねえ、コーネリア。こちらの金色が縁のネックレスと緑色が縁のネックレス、どちらが良いと思う?」
「そうね・・・お母様は金色の髪が見事だもの、金色の方が宜しいんじゃないかしら」
そう答えると、母はそうね、と大きく頷き、コーネリアを見詰めていった。
「貴女も素敵な金色の髪の毛よ、コーネリア」
「ありがとう、お母様。じゃあ、戻るわね」
「ええ、ありがとう」
「お嬢様、そろそろお着替えをされなければなりませんわ。夜会に間に合うようにしませんとなりませんもの」
夜会が始まるのは、午後七時。今はもう午後六時だ。それから慌ててドレスに着替え、髪の毛をセットし、軽いメイクを施してもらった。
「ありがとう、みんな。行ってきます!」
メイドにお礼を告げて、玄関ホールに行くと、綺麗に装った両親が佇んでいた。その佇まいからして、公爵家の気品と気高さを感じさせる。
「お父様、お母様。とてもお綺麗ですわ」
微笑みを浮かべて正直な感想を言うと、コーネリアのことも褒めてくれる。
「コーネリアの金色の髪の毛はもちろんだけれど、緑色の瞳もとても綺麗よ。ねえ、あなた?」
「ああ、そうだな。私の父、コーネリアのおじい様と同じ色だ。とても美しいよ」
誉め称えてくれる。嬉しくて、はにかみながら馬車に乗り込んだ。屋敷から会場までは十分くらいだ。
両親の会話をききながら、景色をぼんやりと眺めていたら、いつの間にか到着していた。
「さあ、コーネリア。参りましょう」
「はい、お母様」
久しぶりの夜会を楽しもう、と心に決めていると、王宮の使用人がコーネリアのもとへ来た。
「コーネリア様。申し訳ございませんが、王太子殿下がエスコートをしたい、と仰せですので、こちらへ
いらして下さい」
「分かりました。お父様、お母様、行って参りますわ」
微笑んで見送ってくれる両親に背を向け、使用人についていくと、白い正装に王族にしか許されていない緋色のたすきのようなものをかけている。美しく輝く髪の毛は紺色だ。瞳は金色。コーネリアの色である翠は見受けられないし、金色も見られない。
・・・わたくしは、紺色をちりばめたドレスをきてきたのに・・・。
「お待たせ致しました、王太子殿下。お久しぶりでございますわ」
微笑んで軽く礼をすると、ああ、楽にしてくれと許可を出される。なおると、レオンハルトは何の感情も映し出されていない目のまま、軽い微笑みをつくった。それが不気味に感じられるけれど、コーネリアだってそうだろう。
そもそも、コーネリアの両親のように恋愛結婚ばかりじゃないのだ。政略結婚なんてそんなもの。しかたない、と覚悟を改めて決め、差し出された手をとった。
それを合図に扉が開かれる。会場は一瞬で静まった。
「さあ、行こう」
「はい」
短く交わし、すっと同時に一歩を踏み出す。まわりが深く礼をとっているのが分かった。
コーネリアを会場の中央までエスコートするとレオンハルトは一言だけ述べた。
「楽にしてくれ」
それから、コーネリアの腰に手を添え、踊り始める。楽団もそれに合わせ始めた。
「王太子殿下、先ほどのお言葉は短すぎるのではないでしょうか?」
「別に言うことなどないだろう?楽にしてくれ以外、何を言えば良いのだ?」
その返答が冷たく感じられ、もう何も言わないでおこう、と心に決めた。
それから無事にダンスは終わり、一曲でコーネリアたちは退いた。壁際に歩みをすすめ、傍にあった椅
子にコーネリアのみ腰かける。
「王太子殿下は座られなくて宜しいのですか?」
コーネリアの隣の椅子は空いている。にもかかわらず、座ろうとせず、飲み物を二つとり、コーネリアに一つ差し出した。
「ありがとうございます」
笑いかけると、不意に顔をそらされる。
・・・そんなにわたくしのことがお嫌いなのかしら。でも、冷たすぎると思うのだけれど・・・。
「・・・王太子殿下。もう別にわたくしのことは構わなくてよろしいのですよ?わたくしのこと、お嫌いでしょう?」
傍から見れば、笑顔でコーネリアが話しかけているため、何をしゃべっているのか分からないだろう。しかし、レオンハルトは目を見開いていた。
「そ・・・そんなことは、・・・ないが」
「いえ、ご無理なさらないで。わたくし、もう知っておりますのよ。別にわたくしに興味なんてないってことを。ああ、傷ついて等おりませんから、お気になさらないで下さいませ。そもそも、政略結婚・・・ですから・・・別に・・・」
途中で言いながら、悲しくなってきた。
わたくしは愛されていないのね。そう思うと、辛い。
でも、レオンハルトは何も言わない。それが答え、と言う訳だろう。
「申し訳ございません。あの、少し化粧直しをして参ります」
それだけ言いおいて、姿勢を正して、化粧室へ向かった。そうでもしないと、涙がこぼれそうだった。人は誰もいない。
良かった・・・と安堵し、化粧直しをすると言った手前、しないわけにはいかず、化粧を直す。手早く行った後、出入り口に誰もいないことを確かめてから化粧室を出た。
侍女たちは使用人の部屋で休んで、コーネリアの帰りの時間まで待機してくれているのだろうけれど、馬車で一人で帰ろう。一応、侍女たち用に馬車にはもう一度会場に帰ってもらうことにする。両親にも朝、言っておいたし、大丈夫だろう、と出口に向かおうとすると誰かに手首を掴まれた。
「え?」
思わず振り向く。そこには相変わらず何の感情も映し出されていない瞳があった。レオンハルトだ。
「どこへ行く?」
「・・・帰らせていただきます」
待ってくれ、と言われているようだったけれど、コーネリアが穏やかに振り払い、出口に向かおうと腕を動かしたときだった。
「話がしたいんだ、コーネリア。頼む」
思わず、立ち止まる。名前を呼ばれたのは初めてだったからだ。
「それにここだと目立つ。・・・一旦、こちらへきてくれないか。部屋へ案内するから」
確かに、まだ注目されていないが、直にこちらへ人がきてしまうかも知れない。そう考え直し、素直に頷いた。
「どうぞ」
白く、美しい手で丁寧に紅茶を差し出される。音を一つも立てずにすっと置き、丁寧に一礼した。
「ありがとうございます」
さすが、王宮のメイドね、と思いながらお礼を述べる。少しメイドは驚いていたけれど、いえ、と微笑して去っていった。
何に驚いていたのかしら。そう思いながら、コーネリアは一口、紅茶を申し訳程度にいただいた。まろやかで優しい。蜂蜜が入れてあるのだろう、柔らかな甘みがあった。
思ったより緊張していたからか、喉が渇いていて、すぐに二口目を口に含む。
「・・・それで、話をしても良いだろうか」
コーネリアははっとした。目の前に座っていたレオンハルトのことをすっかり忘れていたのだ。紅茶が美味すぎることもあるけれど、今までレオンハルトが一言も話さなかったせいでもある。
「はい。もちろんでございます」
すぐに頷くけれど、コーネリアは今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだった。王宮の部屋の一室。王国を見渡せる角部屋だ。コーネリアは夜目がきかないため、夜景もあまり見えないことが多いが、ここから見る景色は部屋の灯の一つ一つまでが鮮明に見えて美しいと感じる。
そこでコーネリアはレオンハルトと向かい合って座っている。
「・・・どこから話せば良いだろうか・・・。寒いのか?そうだ、少し待っていてくれるか?」
コーネリアがまたすぐに頷くと、レオンハルトは部屋を出て行ってしまった。パタン、と扉がしまる音がやけに寒々しく響く。
暫く待つと、レオンハルトは何かを持ってきた。
———あれは・・・ストール?
「寒かったんだろう。使うと良い」
レオンハルトが紺色のストールを差し出してくる。少し意外な思いでそれを見つつ、ありがたく受け取る。会場は少し寒かったのだ。
「ありがとうございます・・・。けれど、これはどなたかがお使いになるものだったのではないんですか
?」
「あ・・・ああ、それは・・・。まあ、気にしなくて良い」
「そう、ですか」
もしかして、他の女性にあげる予定だったのかしら。そんな考えがふとよぎるけれど、レオンハルトの真面目な表情を見て、さっと居住まいを正した。ストールをふわり、とかけると温かさがちょうど良い。
「それで、お話、というのは・・・?」
「コーネリア。今まで済まなかった」
レオンハルトはいきなり、そう述べると、頭を下げた。
「えっ、いえ、お顔をあげて下さいませ。・・・それに、今まで、というのは?」
「君をエスコートしたのち、放っておいたことだ」
「自覚・・・あったんですね」
思わずポツリと呟くと、すまない・・・と今度はうなだれる。
「どうして、わたくしのことを放っておかれたんですか?やっぱり、政略結婚の相手はどうでも良いから?」
「そんなまさか!」
「・・・なら、どうして・・・」
「それは、個人的な事情でだな・・・」
「個人的事情?まさか、お好きな女性でもいらっしゃるのですか?」
さすがに驚いて早口で尋ねると、レオンハルトはこれでもかと言うほど目を見開き、言い放った。
「違う!断じて違うっ!俺が好きなのは、コーネリア、君だよ!」
今度はコーネリアが目を見開いた。
「わ、わたくしですか!?でも、それなら何でそうと仰って下さらなかったんですか・・・」
照れたように俯くレオンハルトに思わず呟く。
「だ、だって・・・。別に愛がなくてもいい、と君が言いそう、だったから・・・です」
コーネリアは顔を上げた。
「わたくしっ、そんなこと言いません!む、むしろ・・・」
「むしろ?」
「そっちの方が・・・いや、ですし、わたくしも、王太子殿下を・・・」
「・・・ありがとう」
しまった。口走ってしまった・・・。
恥ずかしくて、俯いていると、レオンハルトも俯く気配がした。恥ずかしい・・・。
「あの、わたくし、嬉しいです。ありがとうございます、殿下。でも、何でいつも瞳は無表情だったんですか?」
「えっ?そうだった、か?全然気づかなかった。けれど、多分王太子教育だと思う」
「・・・あまり周りに考えを悟られないように・・・ですか?すみません、わたくしの考え不足でした」
「いや、気にしないでくれ。ただ、済まない。それは直すことができないんだ」
「気になさらないで下さい」
コーネリアはまだ火照った頬を手で冷やしながら、促した。
「あの、そろそろ会場へ行った方が良いかもしれません」
「ああ、そうだな。行こうか」
コーネリアに自然に手を差し伸べてくる。その表情は今までと変わらず、瞳には何の感情も映し出されていない。
けれど、コーネリアには少し緩んでいるように見えた。その違いが嬉しくて、はい!と微笑んで未来をともにする彼の手をとったのだった。
読んでくださり、ありがとうございます٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
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