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迷貨のご利用は計画的に! ~幼女投資家の現代ダンジョン収益記~  作者: 旅籠文楽
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38. 配信人気は突然に

 


     [7]



「ただいまー」

「ただいま戻りました」

「おー、おかえりー」

「二人ともお帰り。お疲れ様だったね」

「わ、お鍋ですか⁉ 楽しみです!」


 フミと共に錦糸町の自宅へ戻ると、リビングのテーブルに夕飯の準備を済ませた状態で、チカとリゼが待っていてくれた。

 卓上にカセットコンロと土鍋が置いてあるのを見て、全てを察したフミが目を輝かせる。

 焼肉とかすき焼きとかお鍋とか、みんなで一緒に調理しながら食べる料理って、工程の楽しさも相俟ってより一層美味しく感じられるよね。


「今日は何のお鍋をするんですか?」

「あー、鍋じゃなくおでんなんやけど、それでもええ?」

「はい! おでんも大好きです!」

「そっか、ようさん食べてなー」

「おでんなんて、手間が掛かって大変だろうに。よく準備したねえ」

「練り物はスーパーで()うたもんやし、そんなでもないない」


 チカはそう謙遜してみせるけれど、大根も玉子も蒟蒻(こんにゃく)も牛すじも、いずれの食材にも下茹でなどの事前作業が必要と判るだけに、スミカは苦笑してしまう。

 この様子だと厚揚げも、しっかり油抜きまでしてあるんだろう。


 スミカたちが帰宅したのを受けて、今から煮込み始めるようなので、とりあえず洗面台で手を洗い、自室に戻って着替えも済ませる。

 それからリビングに戻ると、ちょうどチカが炊飯器からご飯をよそっていた。


「スミやんはご飯どうする?」

「うーん、こればっかりは迷うところよねえ……」


 おでんはご飯のおかずに――ならなくもないけれど、相性はあまり良くない。

 けれど、おでんを煮込んでいる出汁(だし)から漂う美味しそうな鰹の香りは、ご飯を食べたいという欲求を膨らませるものでもある。


「……お茶碗一杯だけ貰おうかな」

「いよっし、ウチの勝ちィ!」

「ちッ……」


 ガッツポーズをして喜ぶチセと、苦々しい顔で舌打ちをするリゼ。

 ああ――こいつら何か賭けをしてやがったなと、一瞬で判る光景だった。


「ささっ、敗者は出すもん出してもろて。2本分やでー?」

「くっ……スミカ、黒ビールを2本売ってくれ。3000円出す」

「あー、ちょっと待ってなさい。取ってくるから」


 魔法の鞄は自分の部屋に置いてきてしまったから。

 一旦部屋に戻ったスミカは、魔法の鞄から都庁第一本庁舎ダンジョンの中で今日拾ったばかりの黒ビールの大瓶2本を取り出し、リビングに持っていく。


「ところで、これって1本あたり1500円もするの?」

「する。酒屋に持っていけば2000円で買い取ってくれることもあるな。悪いが友人価格ということで少し負けてくれ」

「それはいいけど」


 ダンジョンで得たアイテムは、受付窓口で買い取って貰う分には非課税なんだけれど。酒屋などに持ち込んで売り払うと、それで得た収入には税が課される。

 黒ビールはダンジョンの窓口で売却した場合、買取価格は1200円。なので、それ以上を払ってくれるならスミカとしても不満はない。

 親しい身内間で少額のやり取りをする分には、税金も発生しようが無いしね。


「スミやんも飲む? 飲むならグラス出すけど」

「お、じゃあ一杯だけ頂こうかな」

「ほいほい」


 すぐ隣のキッチンから、チカがジョッキを3つ持ってくる。

 フミもチカと同行していたようで、彼女は麦茶が入ったグラスを持っていた。


「私も飲めたらいいんですけどねえ……」


 まだ12歳で、かつ亜人ではないフミは、当然飲酒には付き合えない。

 一緒に飲みたいと言われると非常に困ることになるので、素直に引き下いてくれるフミの性格が、今はとても有り難かった。


 チカからジョッキを受け取ると、予想外に冷たくてちょっとびっくりする。

 どうやら予め冷蔵庫でジョッキを冷やしていたらしい。

 それとは別に、チカはロックアイスが入ったアルミケースも持参していた。


「ビールに氷って、入れて良いものなの?」

「別に駄目やないよ? 味や炭酸が少し(うす)なるけどなー」

「冷えてないほうが許せないからな。こればっかりはしょうがない」

「なるほど」


 今日ダンジョンから持ち帰ったばかりの黒ビールは当然、常温の状態にある。

 常温のまま飲むよりは、味が薄くなるほうがまだ許容できるってことか。


「ビール単体とか、多少のつまみと一緒に味わう程度なら、常温で飲むのもそれはそれで美味しいんだが。飯と一緒の場合は、しっかり冷えてるほうが美味いんだ。特にこういう熱気のある料理に合わせる時なんかは尚更な」

「へー、そういうものなのね」

「ま、スミやんもすぐ判るようになるよ」


 祝福のレベルアップを経験して『人間ではなくなった』ことで、まだ19歳にも拘らず飲酒が許されるようになったスミカは、飲酒経験がとても浅い。

 なのでスミカにとってはビールを飲むこと自体、これが初めてだった。


「もう食べちゃっても大丈夫ですか?」

「ええよー。でも大根と牛すじと蒟蒻は、まだちょっと早いんで待ってな。それと玉子も、もうちょい待ったほうが味が()みるなー」

「わかりました!」


 フミが笑顔で、さっそく鍋に箸をつける。

 彼女が真っ先に器に取った具材は『結び昆布』だった。

 うーん、チョイスが渋い。


 とりあえずスミカも早速、竹輪(ちくわ)から頂くことにする。

 練り物は早めに食べないと、それ自体の美味しさが出汁(だし)に溶け出ちゃうからね。


「……うん、美味しい。チカが作ったのに、関東風の味付けなんだね?」

「関西風にすると、そこのロクに料理もできない女がうるさくてなー」

「そうは言うが、薄口醤油ベースの味付けだと満足できんのだ」


 まあ、リゼの気持ちは判らないでもない。

 関東人だと、どうしてもねえ。


 とはいえ、ちくわぶや半平(はんぺん)が入っておらず、代わりに串に刺さった牛すじやタコの足が入っているあたり、具材は明らかに関西寄り。

 味付けで譲ったんだから具材はこっちの好きにさせて貰う――というチカの強い意志が、そこから透けて見えるような気がした。


 牛すじのおでんはコンビニで売られていることがあるから、食べたことがあるけれど。タコの足をおでんで食べるのは、スミカにとって初めての経験だ。

 串を手にとって食べてみると――意外なほど柔らかくてびっくりした。

 あと、タコ自体の味の主張が強い。おでんの出汁にも負けていないので、両者の味が絡み合って、なんとも言えない美味しさがあった。


 ……とはいえ残念ながら、やっぱりおでんはご飯のおかずにならなそうだ。

 代わりにそろそろ氷で冷えてきたと思われる黒ビールに、軽く口をつける。


「おっ。黒ビールとおでん、結構合うね」

「この独特のほろ苦さと甘さは、おでんと相性が良い」


 スミカが零した感想に、リゼがすぐに同意してくれた。

 黒ビールはもともとの味が濃いめだから、氷を入れていても、あまり薄くなった感じがしないのも良い。

 温かいおでんと冷たい黒ビールの取り合わせは、ちょっと癖になりそうだ。


「酔えないのが少し残念ではあるな」

「いやー、お陰で二日酔いにならんのやし、メリットのほうが大きない?」

「まあ、それはそうだが」


 お酒に酔う、というのは『状態異常』の一種らしくて。

 スミカが[吸血]しているリゼとチカには、一時的に状態異常の完全耐性が付与されているため、彼女たちはお酒を飲んでも酔うことができない。

 酩酊もお酒の楽しみのひとつだとするなら、少し残念なところだろう。

 もちろん、代わりに二日酔いにならないし、急性アルコール中毒のような危険な状態になることもないので、決して悪いことばかりではないんだけれどね。


「さて――食事をしながらで良いので、スミカとフミに話がある」

「ん、どしたの? 真面目な話?」

「えっ、私にもですか?」

「ああ。2人共に、ちょっと大事な話だ」


 そう告げてから、リゼが自身のスマホを操作してみせると。

 スミカとフミが持つスマホから、同時にメッセージアプリの通知音が鳴った。


「URLを送ったので、ちょっと確認してみてくれ」

「へ? URL?」


 疑問に思いながらも、スミカはスマホを確認する。

 告げられた通り、メッセージアプリにリゼから何かのURLが届いていた。


「……ん? このURLって、掃討者ギルドのドメインだよね?」

「掃討者ギルドの公式サイト内に、本免許の取得者のみ書き込みや閲覧を行うことができる掲示板があることは知っているな? そのURLだ」

「あー、前に『初心者向けオススメダンジョン』のスレを見たことがあるかも」

「私も同じスレッドを読んだことがあります」


 URLを開くと、掃討者アカウントのログイン画面になった。

 過去に利用したことがあるため、ブラウザに記憶されているログインIDとパスワードを自動入力して、自分のアカウントにログインする。


「えっと……『新しい天職の発見報告スレ』ってので合ってる?」

「合っている。50レス分ぐらいでいいので、軽く流し読みして貰えるか」

「ん、了解。食べながら読んでみるよ」


 食事しながらスマホを触るのは、ちょっと行儀が悪いけれど。

 おでんは時間が経つと、具材によっては味が落ちちゃうからね。

 あんまり具材を放置して、スマホだけに熱中するわけにもいかない。




- - - - -

■新しい天職の発見報告スレ


1:〔匿名掃討者〕


 https://www.contube.***/******/~

 今まさに配信されてるやつを視聴してるんだが

 何もないところから大鎌を取り出したり

 魔物が落としたドロップアイテムを何もせずに回収したり

 やってることが明らかに普通じゃない

 たぶん新しい天職の所持者だと思うんだけどどうだ?



2:〔匿名掃討者〕


 >>1

 嘘乙。



3:〔匿名掃討者〕


 ただの幼女ペア配信じゃねーか!

 教えてくれてありがとう、即チャンネル登録したわ。

 これから毎回視聴する。



4:〔匿名掃討者〕


 大鎌なんて武器、本当に使うやついるんだな

 しかも幼女が使うのか・・・



5:〔匿名掃討者〕


 幼女はこれが初配信か

 二人ともマジで9歳ぐらいにしか見えないな



  ・

  ・

  ・


- - - - -




 試しにスレ主が挙げているURLも開いてみると、既にリアルタイムの配信は終了しており、アーカイブの動画が再生される。

 その動画には、少し高めの位置から撮影されたスミカとフミの姿が映っていた。

 というかこれ――今日スミカがやった配信の、アーカイブ動画か。


「おー。私たちの配信を、見てる人って居たんだねえ」

「コメントが全く来なかったから、誰も見てないと思ってましたよね」

「……む? 確かコメントの受付をオフにしていなかったか?」

「投げ銭付きのコメントだけ受け付ける設定にしてたんだよ」

「いやいや、流石にそれは気づかないだろう……。通常のコメントができない時点で、コメントは全部拒否する設定にしてあると普通は考えるさ」


 リゼからそう言われ、そういうものなのかとスミカは納得する。

 次回からは『沢山コメント来ると返答が大変なので投げ銭付きコメントだけ受け付ける設定にしてあります』と、配信の概要欄に書いておくべきかな?


「それで、このスレがどうかしたの?」


 ざっとスレを流し読みしてみたところ、寄せられているコメントは『幼女が2人で配信してるって凄いな』というものが圧倒的に多いようだ。

 魔物と戦うことに心配する声も多いが、わりと好意的なレスばかりなことに、スミカはほっと安堵した。


 ……というかマジで、スレに書き込まれてるコメントの数が多いな。

 これって一体、何人ぐらいが配信を視聴してたんだろう……?


「リアルタイムの視聴者は、最終的に600人ぐらい居たようだ。それからアーカイブされた動画も5万再生は超えている筈だな」

「へ? 5万?」


 確認してみたところ――5万どころか、既に10万再生に届きつつあった。

 スミカはこの手の動画配信にあまり詳しくはないけれど。それでも、今日初めて配信した人間が叩き出す再生数として、異常なことぐらいは判る。


「スレッドで話題になった内容は主に3つ。1つは、アイテムを自在に取り出したり収納したりしている様子が、視聴者の目には『全く新しい天職の能力』のように見えたこと。読めば判るが、スレッド内ではスミカの天職を『ポーター』だと予想しているようだ」

「ポーターねえ」


 荷物などを運ぶ役割を仕事として行う『運搬人(porter)』のことか。

 なるほど、もしそういう天職があるとするならば、確かにアイテムを収納できる異能かスキルが修得できそうに思える。


「2つ目は、フミの異常な強さ」

「まあ、それは当然、話題にもなるよねえ」

「す、スミカ姉様……?」


 リゼの言葉に、スミカは即座に同意する。

 フミは少し驚いた顔でスミカを見つめてくるけれど。まだ僅か12歳に過ぎない少女にして、フミの強さが異常であることは、誰の目から見ても明らかだろう。


 ましてやフミは『若返り』のせいで低身長により磨きがかかったこともあって、見た目の年齢が8~9歳ぐらいにしか思えないから。

 視聴者の人たちからは『恐ろしく強い幼女』にも見えたことだろう。

 そりゃ話題になるし、再生数も回るよなあと思う。


「で、最後に話題になったのは、怒涛の『宝箱14個連続発見』だな」

「あー……」

「やっぱり目立ちますよねえ……」

「途中から私とチカも配信を見ていたんだが、あれは本当に意味が判らなかった。どうしてあんなに簡単に宝箱が発見できたんだ?」

「レベルアップで新しく獲得した《階層投資》って異能の効果でね――」


 とりあえずスミカは、リゼとチカの2人に事情を説明する。


「いや、それは流石にチートやろ……」


 当然のように、チカからは呆れるような表情を向けられた。

 うん、同じことをもう、フミからも散々言われたよ……。


「お、今ちょうど10万再生超えたで。おめでとなー」

「嬉しくなさ過ぎる……」


 チカの言葉に、スミカは軽く頬を引き攣らせる。

 見れば、今も刻々と再生数のカウントが増え続けていた。


「ある程度の人に見られてしまえばれば、もうSNSなどでの拡散は止まらないからな……。どうやら一般の人たちにも『アイテムボックスが実在した!』みたいな感じで、動画が大変な話題になっているようだ」

「そもそも、幼女のペアが危険なダンジョンを探索する動画、ってだけでも間違いなく一般受けするやろからなあ。今日中に30万再生は行くんちゃう?」

「私は50万再生は固いと見るが?」

「………………マジっすか」


 『ConTube』で行った配信やそのアーカイブ動画は、視聴されればされるほど、投稿者にインセンティブ報酬が支払われる。

 10万再生でもまあまあの収入になるだろうし、それ以上視聴回数が増えれば、当然手に入るお金もさらに増える。そういう意味では嬉しくもあるけれど……。


 とはいえ自分を撮影した映像が、思いもよらず沢山の人の目に留まっているという事実には、なんだか居心地の悪さのようなものを覚えるのも事実だった。

 自分たちが配信した動画を見る人なんて、せいぜい数人ぐらいだと思ってたんだけどなあ……。


「とりあえず――このことが原因で、2人ともそれなりに掃討者として『有名人』になってしまう可能性がある。

 知名度というのは上手く利用すれば価値があるが、往々にして面倒事や厄介事も望まず招き寄せてしまうものだ。充分に注意してくれ」

「り、了解」


 リゼからの忠告を心に刻みつつ、スミカは重い溜息をひとつ吐く。

 配信なんてしなきゃ良かったかなあ――とも思うが、今となってはもう遅い。

 どうやら動画配信者としてのスミカの活動は、最初から随分と波乱に満ちたものになりそうだった。





 

-

『ゆでたまご』を漢字で書く場合は『ゆで卵』な気がしますが、

なんとなく、おでんの『たまご』は『玉子』と書きたくなる。

これってトリビアになりませんか?(なりません)

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しょっぱい薄口醤油より塩分が少ない濃口じゃないと満足できないとは。コクや風味重視なんてなかなかの通。
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