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オチルマケル  作者: 那那碌百白
辺境伯領地編
3/4

0003 ユキオ・ウィナー・カツ・ボルヌィーツ

 僕が生まれて一週間後、今日は僕の名前を付ける儀式を行う日だ。


 この世界の名付けの儀式は神殿で行う事になっているらしい。

 領地には神殿が2か所あって、一つは街の中にある。

 この神殿では普段の祈りとか領地の儀式などを執り行う所謂、区役所のような事をするのが主な役目。


 もう一つの神殿は領地で一番高い丘の上にある。

 その理由は天に一番近い神聖な場所としての意味があり、丘を囲むように森があり神殿以外の建物はない。

 この神殿では神聖な儀式を執り行うのがメインの場所で名付けの儀式もこれに当たるのだそうだ。その他には結婚式や葬儀も執り行われている。


 ドーリア式の建築法を用いられた丘の上の神殿はひときわ大きく、存在感を際立たせている。

 中は意外にもシンプルで、悪趣味な天井の絵画やステンドガラスもない。

 ただ、印象的には聖なる場所というよりか悪の秘密結社の本部のような雰囲気がある。


 この世界の神様は『龍神』である。

 何故、龍なのかと言うと、元々この世界に龍が降り立ち、その身体から木々が生え、大地となったとの神話が由来なのだそうだ。

 最奥に龍神の像が置かれ、その前に水を張った瓶がある。

 龍神の像の真上に丸い窓があり、そこから太陽の光が差し込むために神秘的な空気を醸し出している。


 僕は無神論者だった。前世では。

 しかし、死んで実際に神に出くわしてしまったのだから、信仰はしていなくとも神の存在は知っている。

 その上、80回も転生をさせて貰ったのだ。今の僕は神というものを信じている。


 今回は名付けの儀式の日。

 僕を含め、5名の赤ん坊が名付けをするみたいだ。


 名付けの儀式は親が名付けた名前が良い名前で尚且つ、ふさわしい名前であるかを神に判断してもらうのが主だった理由。

 神殿長は何をするのかと言うと、赤子の頭に手を置き、名前を神の像に向かって宣言をし、そして水瓶を見て判断をするという儀式を行う。

 幸運又は何も弊害がない場合は水は動かず、悪い場合は水が暴れだすといった、少しオカルトチックな儀式である。


 大体は、何事もなく儀式は終わり、神殿長の説法を聞いて終わるのだとか。


 その言葉通り、僕の前の4人は何事もなく儀式が終わり、いよいよ僕の番になった。


「ボルヌィーツ卿、ご子息の名前は決められていますか?では決められた名前を告げなさい。」


 父親は神殿長の前に跪き、そして顔を上げて声を発した。


「オチル・マケル・ボルヌィーツです!」

「!」


 その父親の声に周りの人達が歓声を上げた!なんて縁起の良い素晴らしい名前だと。

ただ一人を除いては。そう、僕である。


「ばぁ〜!だだぁ!やぁー!(ちょっと、待てよ!その名前は神が縁起悪いと言った名前だ!すぐに取り消せ!)」


 そんな、僕の声も虚しく、神殿長は、

「良い名を選ばれましたね!これは神も祝福してくださるだろう!」


 しかし、その瞬間。

 雲一つない晴天は一気に暗雲に覆われ、豪雨がまるで滝のように降り注ぎ、水瓶の水は暴れだすという異常事態が起こった。


 それにつられ、神殿長がめまいを起こしその場に跪き、神よ怒りを鎮めたまえと両手を広げ、祈りを捧げた。


 その祈りが通じたのか雨は止み、空になった水瓶にはみるみると水が湧き出た。


 頭を抱えた神殿長は何かを感じ取ったのか、父親に向かい、

「たった今、神託が降りましたぞ!この子の名前はユキオ・ウィナー・カツ・ボルヌィーツと名乗るようにしなさい。それが神の導きであるぞ!」


 その名前を聞いた父親や周りの人々は驚いた。

 なんて縁起の悪い名前を!この子は呪われているのでは?と言う人物もいた。


 え?この世界では縁起の悪い名前なの?日本とは大違いだな?と言うか、神が縁起の悪いと言っていたオチルマケルの名前がこの世界では縁起の良い名前だとは知らなかった。


 その縁起の悪い名前を神殿長より賜った父親は顔を青ざめ更には引き攣っている。

 何故ならば、伝説の英雄の名が『オチル・マケル・サンビル』と言い、魔王の名前が『ユキール・ウィルソン・カッツオ』と言うらしく、それに酷似したユキオ・ウィナー・カツの名は縁起の悪さしか感じ取れないらしい。

 どうしても、この名前でないといけないのかと神殿長に詰め寄るが、これが神の言葉だと神殿長は取り合わなかった。


 そんな父親の落ち込みとは裏腹に奇跡が起こったのだ。

 龍神像を照らす光は七色を帯び、水瓶からはハープのような音が流れ出したのだ。

 その光景に全員がひれ伏し、続いて天上から聞いたことのない声が響き渡った。


「ボルヌィーツ卿よ聞きなさい。私はこの子を守護する神である。

 この子は呪いの類を受けておる。しかし、この名前をもらったからには大丈夫だ。

 ただ、呪いが消えるまでの数年の時間が必要だ。故にそなたはこの子を守護するのだ。

 よいな。そなたがこの子を守るのだ。」


 神の言葉が終わると像を照らす七色の光は消え、同時にハープの音も消えていた。


「神の導きがあらんことを祈ります。」

 神殿長はそう言い残し、その場を後にした。


 それにしても・・・。

 ユキオとカツは縁起が良いのは分かるのだけど、更にウィナー(勝利者)を意味する単語も名前に付けてくれるとは・・・。

 神様、グッジョブです!


 喜んでいる僕に対して父親は呆然としている。

 ユキオにカツにウィナーとは・・・。縁起の悪い単語ベスト3ではないか!なんで神はそのような名前を授けたのだ!と心に思いながらも、我が子が呪いを掛けられているとの言葉を聞き、必ず我が子を守って見せると心に誓ったのであった。


 神殿から家までは馬車に乗り、1時間位かかる。そのゆっくりと歩む心地よい振動を感じる道中で父親は僕を見ては優しい笑顔を振りまいてくれた。


 暖かな日差しを注ぐ空には雲一つなく緑の香り立ち込める道を抜け、ようやく家に到着。軒先には女中(メイド)が二人待っていて、僕を抱きかかえ家の中に入る。


 部屋で待つ家族を見た父親は全員に向かい、僕の名前を告げた。

 神殿と同様になんて縁起の悪いと言っていたのだが、神殿内に起こった奇跡を父親が話せば皆は納得し、そして僕を守ると決意した。


 僕はと言うと・・・。

 神が言っていた呪いは前世にあった僕の名前の事であり、新たに魂に刻まれた名前が定着するまで僕は苦しむという事なのだろうと理解していた。

 今回が最後の転生、何としても生き延びてやる!死ぬのは嫌だ!そう決心をした。




 名付けの儀式が終わったその夜、ボルヌィーツ家ではパーティーを開いていた。

 別荘に滞在している貴族たちを招き、同様に近隣に住む住民たちを招き入れた大がかりなパーティー。勿論、主役は僕である。


 大広間では踊る者やグラスを片手に話し込む者、そしてはしゃいだ貴族同士が自慢話から広がった行く末はどっちがワインをたくさん飲めるか?などのゲームも行われていた。

 その中に僕を抱きかかえた母親と父親が顔を出し、会場に集まった人達に向かって声を発した。


「お集まりの皆さん、今日は我が子の名付けを執り行いました!私はオチル・マケルと言う縁起の良い名前を付けさせてもらおうとしたのだが、そこに神からの神託が降りた!我が子の名前はユキオ・ウィーナー・カツと言う!これが神から授かった名だ!」


 一瞬、会場内は凍りついたかのような空気になったのだが、自然と拍手が沸き上がった。


 僕の所には沢山の来賓の方々が集まり、中には僕に跪く人もいた。

 大体の人は、僕の頬をつついたりして弄んでいたんだけどね。


「領主様、この子が大きくなったら、僕達と遊んでもいいですか?」


 近所に住む領民の子供である。

 父は領主でありながらも、領民と同じ目線で差別することなく接していたので、子供も気軽に話しかけているのである。


 父親は少年に向かい微笑みを浮かべ、

「勿論だとも!色々と教えてやって欲しい!私の子供と言っても遠慮はいらないよ。喧嘩もしながら仲良くなって欲しい。」

 少年の頭を撫でていた。


 パーティーのメインディッシュが運ばれてきた。


 近くの森で仕留めた牙が4本の猪一頭の丸焼きである。

 これを父親が取り分け、参加してくれた人達に振る舞うのが、この領地のならわしなんだとか。

 取り分けられた肉を頬張りながら騒ぐパーティが一段落した後、父親が公に僕を子供だと認めた証に行う儀式を執り行う。


 僕の身体を王国の旗で包み、さらに剣で僕の頭に触れる。

 これは、我が子がこの国に仕える者として、更にボルヌィーツ家の人間として騎士道に背くことなく道を進むと言う意味だった。



 パーティーが終わった自宅の部屋に家族みんなが集まっている。

 長女メアリーが、

「ねぇ、ユキオって良いにくいわよね?なんて呼べばいいかしら?」


 あれ?ユキオってそんなに言いにくいの?この世界の言語では余りない発音なのか?

 僕からすればボルヌィーツの方が、よっぽど言いにくいのだけれども・・・。


「だったら、ユキでいいんじゃないか?」

 長男のバンが言った。その提案に皆が乗り、普段の僕の呼び方はユキになった。


 ユキ・・・。日本じゃ女性に付ける名前だよ?僕は男だよ?

 まっ、いいか。



 そして月日は流れ、僕は5歳になった。



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