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オチルマケル  作者: 那那碌百白
辺境伯領地編
1/4

0000 プロローグ

 空高くそびえ立つ宮殿。これは神々の領域。


 白い壁に囲まれた奥深い場所は、眩しい光に包まれている。光がまぶしくて、神の姿が見えない。しかし、その光が次第に穏やかな輝きに変わっていく。


 神が鎮座する場所の上では、宗教画に描かれるような天使たちが楽器を奏でている。窓からは青い空が広がり、この宮殿が雲の上にあることがわかる。


 神秘的で澄んだ空気とは対照的に、高い背もたれを持つシンプルな椅子に神が座っている。神は長い髭を蓄え、右手には少し歪んだ杖を持っている。


 この国に現在、僕は招かれて神様と対面している。





 こう聞くと定番の異世界転生の物語の始まりであるのだが・・・。





「はあ~・・・。」

 両手で顔を覆い、ため息を漏らし項垂れているのは神様である。


 神様が深いため息を漏らすのも至極当然、今回で神様に会うのも80回目だからだ。




 僕の名前は『堕琉播琉(オチルマケル)』。年齢にして14歳の健全なる男子だ。

 何故、僕が神様の御前にいるかというと、話は長くなる。





 あれはコンビニから帰る横断歩道を出た時の事。

 雨が降っていた。


 ふつう、こういった異世界転生の話では、トラックに轢かれそうな女の子を勇敢にも助けて、その代わりに身代わりになって死亡。

 そして、神の御前に招かれて・・・。が定番であるのだが。




 実際は・・・。



 青の信号機が点滅を始め、急いで渡ろうと駆け出した時に靴ひもが切れて、滑って転んで後頭部を強打した。いわゆる、自爆である。


 余りにもの間抜けで不憫な死にざまに慈悲を与えてくれた神様に別世界にて生き返るチャンスを頂いたのが、1回目の転生。

 でも、転生先で馬車に轢かれて即日の強制ログアウト。


 これはイカンと神様が2回目の転生をしてくれた地で貴族の長男として生まれたのだが、この夫婦待望の赤子とあって、両親は大はしゃぎ。嬉しさ故に抱きかかえあやしてくれる。


 溺愛してくれるのはやぶさかではないのだが、一つ問題があった。

 両親は座ってない首の赤ちゃんをぶんぶんと揺らしたのだ。

 それが原因で首の骨を折って死亡した。

 またもや強制ログアウト。


 そんな不幸が何度も続き、その度に神様も元に召されると行ったパターンが出来上がり、今回で80回目の神様の元にいる訳。





「マケル殿。そろそろ転生を諦めてはどうだろうか?儂の配慮の転生とはいえ、全然、上手く行ってないし・・・。ここまで不幸が続くと呪いまで感じてしまうのだ。」


 神様は白く長いひげを触りながらも、責任を感じているのか本音を言いたいけど言えないもどかしさか目を合わせてくれない。

 うん。分かります。僕だってまさかこんな短期間で80回も神様の所に来るなんて思わなかったし、転生の定番ラノベみたく俺TUEEE‼チート持ちの人生が待っているとも思ってたしね。


「実はな、何回も転生させていることが他の神にバレてしまって、依怙贔屓はイカン、それはごもっともと他の神々に言われてしまって・・・。それで、そなたをアシスト出来るのも今回が最終回にするからと言って許してもらったのだ。

 なので今回こそ失敗しないようしっかりと作戦を立てようじゃないか。」

「作戦ですか?そう言っても何を考えればいいのやら、分かりません。」


 そりゃ、そうだよ。現世で靴ひもが切れる事なんていくら気を付けていても切れる時には切れるし、生まれ変わってからの事は周りが100%悪いんだからどうしようもない。


 後ろ向きに考えている僕の気持ちを知ってか知らずか、神様は優しく諭してくれた。


「そなた、名前を変えてみんか?」

 神様は静かに、その奥に強い意思をにじませた声を出している。

「名前は生まれた時に親に付けてもらう物でしょ?どうしようもないですよ。」

 この人、何言ってんの?そんなの当たり前でしょ?僕は呆れた口調で神様に答えた。

「いやいや、そなたの魂に刻まれている名前、いわゆる前世での名前のインパクトが大きすぎて、その呪いは生まれ変わっても消えないのだ。

 それが、何回も死んでしまう原因なのだよ。」

「・・・・。」


 一瞬、沈黙が走ったのだが、この空気を破るように神様が言った。

 と言うより、神様は大声で叫んだ!


堕琉播琉(オチルマケル)と言う名前は縁起が悪すぎる!もっと良い名前を私が付けてあげよう!」


 僕はその言葉に一瞬、ムッとした。


 そりゃね、運が悪いのは自覚してましたとも!新しいスニーカーを買って、外に出た瞬間に犬のう〇こ踏んづけたり、電車に乗れば痴漢に間違われたり、髪にガムが付いた事もあったりしたけど、堕琉播琉(オチルマケル)って名前はリズム感も良いから一発で他人に覚えられるので気に入っていたんだよ!


 でもさ、こうも真正面から縁起が悪い!と言われてしまっては、現実を突き付けられたようで絶望感を感じるよ。

 仕方ない、その事を認めようじゃないか。


「あの・・・そんなに縁起が悪いのですか?」

 僕は恐る恐る聞いてみたのだが・・・。

「悪い!」

 即答ですか?

「本当に?」

「どうしようもない!」

「あの・・・・。」

「縁起悪い!」

 神様、仁王立ちをして威嚇しながら言わなくてもいいじゃないですか・・・。


 その瞬間から、やれ今までそんな名前で良く生きて来たなとか、恥ずかしいと思わないのかとか神様の怒涛の罵声と愚痴が始まった。


 正直、やめて欲しい。落ち込むから。


 しばらくの間、ヒステリック気味に愚痴を漏らしている神様に、

「あの・・・。」

「なんだ!」

「名前を考えませんか?」


 怒りのままにわめいている神様は正気を取り戻し居住まいを正し、コホンと咳払い。

 そして、満面の笑みを浮かべた。

「実はな、良い名前を考えてあるのだ。」

「本当ですか?」

「ああ、「勝幸雄(カツユキオ)!どうだ!完璧に運がいい名前だ!」


 硬い!硬すぎる!どこの政治家だよ!

 まあ、勝利の『勝』に幸福の『幸』。縁起がよさそう。

 例えば、選挙で『国民の為!』と謳いながら出馬すれば一発当選も夢じゃない雰囲気の名前だと言うのは分かる。

 分かるのだが、時代を考えて欲しい。昭和じゃん!今は令和だよ?頑固おやじの名前じゃん!正直言って、ダサい!


 上機嫌の神様には悪いけど、もっとおしゃれな名前に変えてもらおう!うん、それがいい!


「あの・・・。」

「なんだ!他にいい名前でも浮かんだか!」

「いえ・・・。」

「ならば、これでよかろう!」


 これでいいよな!と神様の強い圧の視線に負けてしまい、はい。と言ってしまった。

 カツユキオ。外国人風に読めばユキオカツ。う〜ん。揚げ物みたいな名前だ。


 肩の荷が落ちたかのように、椅子の奥深くに腰を降ろす神様は瓶に入った水をグラス注ぎ、一気に飲み干し深く息を吐いた。

 グラスをテーブルに置き、コップに水を注ぐと同時に次の作戦を練らねばとブツブツ呟いている。


「あ~、今回もそなたの言うファンタジーな世界でいいのか?」

「はい。それでお願いします。」

「もっと堅実な世界の方が良いと思うのだが・・・。何不自由のない環境の所に生まれてくることも出来るのだぞ?」

「それだけは譲れません。それに最後ですし、剣と魔法の世界でお願いします。」

「そうか・・・。わかった。」


 異世界転生と言えば剣と魔法の世界で僕は勇者として大活躍!

 このお約束的世界を譲ることは出来ないし、何度も死んでいるのだ、成功を夢見るワガママを言ってもいいじゃないか?


 さらに神様は生まれる日を大安吉日(⁉)にしようとか、体調管理もしやすい年中初夏の国に生まれるようにするとか色々考えてくれていた。ここまで来れば神様と言う手前、意地とプライドなのだろうか?この神様はヤケになっているようにしか見えない。


「あの。」

「なんだ?リクエストか?何を望む。」

「僕に剣とか魔法の能力は授けてくれないのですか?」


 僕の話を聞いた神様は、それがあったかとポンと手を叩き、

「実はな、そなたに才能はない。運もなかったがな。

 なので、才能の種子を授けよう。後は努力次第だ。励みなさい。」


 キター!これぞ、チート能力!でも努力次第って言ってたな。生まれ変わったら鍛錬に時間を費やす事にしよう。


 どうせなら美少女に生まれ変わりたいなと神様に言うと、記憶が残った状態(いわゆる男の状態)で女性に生まれるということは男と交わるということ。そなたは男と接吻出来るか?更には肉体関係を持てるのか?男に抱かれるのだぞ?とまじまじと聞かれた。想像するだけで精神的健康男子の僕の全身に鳥肌がたち、嫌悪感に打ちひしがれた。


 じゃあせめて、見た目をイケメンにお願いしてみると、イケメン過ぎると嫉妬に狂った敵が増えるぞと言われ、それでもイケメンの方が良い!ダメだ!の言い合いになり、妥協案として、そこそこイケメンにしてもらった。


 生まれる環境も考えることにした。

 やはり美人の姉と可愛い妹はマストで責任感のない次男が良いとリクエストすると、これはあっさりと承諾。

 さらに、貴族の家に生まれるようにしてやるとも神様は言った。

 さすが神様、至れり尽くせりです!


「そんな所かな?ユキオ殿。」

「なんかユキオってコソバイ響きですね。」

「それは運の悪さを180度変えたのだ。なれるまでに時間はかかるだろう。」


 神様はやり切ったかのような満足げな顔をしている。それ程、僕の事を考えてくれていたのだろう?と思いたい。

 決して、自分のミスを払拭するため、なかった事にしたいからと考えていない事を祈る。


 決めることが決まれば、いよいよ転生だ!





 神様はメモ帳を取り出し、色々と確認をしている。

 まるで出かけるときに「ハンカチ持った?ティッシュは?」と言ってくる母親を思い出して笑いそうになった。


「本当にやり残したことはないな?」

「はい!大丈夫です!」

「本当に本当だな?」

「はい!」

「そなたの名は?」

「オチルマケルです!」

「ちが~う!」


 神様はそこで思い出したかのように、杖を振り『カツユキオ』の名前を僕の魂に刻み込んだ。

 何かの変化を感じるのだが、はっきりとは解らない。


「それではがんばれよ!」

「はい!お世話になりました!」


 僕は次の世界に繋がる暗い闇に吸い込まれるように飲まれて行った。

 80回目の転生の始まりである。




***




 僕を送り出した後、神様が独り言を言っている。


 カツユキオの名を魂に刻み込んだがオチルマケルの呪いが完全には消えなかった。

 まぁ、時間が経てば自然と消えるだろう・・・。

 ユキオ殿には今度こそ、平凡ながらも幸せになって貰いたいものだ。

 そうだ、次の世界に生まれても、儂の加護を施そう。

 これ位は、他の神も許してくれるよね?



 神様はユキオに幸あらん事を願いながら、椅子に腰深く座りコップの水を飲み干した。


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