10−3 浸透
デボラがふらつく後をレジーナが歩いて行く。
「何にも無いところだね~」
「別荘なんてのは何も無い場所に作るんだよ」
「何でよ!?」
「別荘なんて作るのは偉いさんだから、仕事が絶対来ない様に人もいなけりゃ役所も無い場所に作るんだよ」
「どうせなら地方の大きな町の近くに作れば良いのに」
「そうしたらひっきりなしに貴族や商人や役人が挨拶に来て、ついでに裏のお仕事の相談をされるから気が休まらないんだよ」
「裏って何?」
「とりあえず都会の事務所や家庭では言えない話だよ」
「ふ~ん」
水気を感じて、二人は小さい川の方へ歩いて行った。
「橋が無いと渡れないね~」
「あんただと流されそうだな」
「レジーナだって流されそうじゃん」
「私は泳げるから大丈夫だ」
「私だって魔法で水を避けるから大丈夫だよ」
「…まだ泳げないんだな」
「水魔法師だから大丈夫じゃん!」
「はいはい。小川なら何とかなるな」
そんな中、流れから離れた水溜まりを見て、デボラが凍らせて遊びだした。
「ぐるんぐるん」
デボラがウツボ魔法棒を二回回すと、水溜まりの上に氷のハートマークが出来た。
「また似合わない物を作ったな」
「何でよ!可愛いから似合うでしょ!?」
「いや、その、色気とかそういうのはあんたには早いと思ってな」
デボラは思わず下を向いて、また上を向いた。
「まだ色気は無いけど、もうすぐ色気は出るから大丈夫!」
「…まあ、あと二年くらいは望みはあるか…」
「あるある。美少女は希望に満ち溢れているのだ!」
「はいはい」
そんな呑気な二人の向こう岸で、背の高い草が揺れた。風魔法師では無いレジーナでも、その意味は分かった。レジーナは少し姿勢を低くして、水面の上に指を走らせた。大魚が放つ水鉄砲の様な鋭い水流が向こう岸の草を引き倒した。
「ぐあっ」
声を上げた男は、北の方に逃げて行った。
「待てっ!」
デボラが川面を凍らせて向こう岸に走って行った。
「待て、デボラ!誘いだ!!」
もちろん、デボラは待たなかった。デボラだし。氷の橋を水が溢れる前にレジーナも渡り、中間に穴を開けて水が流れる様にした。男が逃げていく道なき道をデボラが追いかけて行くが、レジーナは少し離れた草の隙間を走って行った。移動する水気でデボラと男の位置は分かるから。
男はあまり足が速くない様に見えた。だからデボラは時々立ち止まってウォーターランスを放った。逃げる男は時にペースを一瞬上げて回避した。そうして林に入ろうとする時、林から男が二人走り出て来た。
「このっ!」
デボラはウォーターランス二発で迎撃したが、一人はスライディングして避けて、もう一人は華麗なステップで躱した。
「このうっ!アイスボール連射っ!!」
デボラはウツボ魔法棒を左右に振りながらアイスボールの弾幕を二回張ったが、二人ともスライディングで躱してデボラに迫った。だからデボラはウツボ魔法棒を下から二回振り上げ、今度は足元からウォータランスを二射放った。そうして二人を後ろに弾き飛ばしたが、もう一人が横から迫って来た。つまり、最初に逃げ役だった男が戻って来たんだ。
「あっ」
デボラの攻撃は間に合わなかったが、男の足元から水がいきなり噴き出して男を跳ね返した。
「甘いぞデボラ」
レジーナが冷静に三人目を目で追っていたんだ。
「二人は引き付けてやったじゃん」
「はいはい、ありがとさん」
レジーナは三人の男達を円柱状に凍らせた。顔は外に出ている。
「何をする!」
男達は不平を口にしたが、何せ不審者である。人権の尊重を要求する条件、身元の確認が出来ない、と言うか言えない。
「何をするのは王子の手下だよ。私達はあんた達を転がしていくだけだ」
そうしてレジーナが二人、デボラが一人の円柱状氷を水魔法で転がして行った。
1マイルほどを転がされ続けた男達は、勿論目が回って別荘に着いた後で気分が悪くなり、横になったまま胃の中身を吐き出した。充分拷問である。
同様に、カーラとイザベラは不審者三人をぼろぼろにして風で転がして持って来た。普通に考えたらこいつらに出会った不審者が一番不運だと言えた筈だったが…ハワード兄妹とジェシカに捕らえられた男達も悲惨だった。
クライブもジャッキーも自分を守るだけで手一杯の為、ジェシカは火魔法だけでは対処出来なくなり、キレて泣きながら雷撃を連発したお陰で、男達は火傷を負い気を失った。それをその辺りにあったツタを使って縛り上げて、ジャッキーが三人を引きずって来た。クライブはジェシカをあやすので手一杯だったんだ。
あれ?デボラ3割、カーラ3割、ジェシカ4割の配分の筈が殆どデボラになってしまった。次回更新は日曜です。明日はキアラの更新、おっさん率が高いかな。




