7−2 魔女の言い分
クリスティン達三人の近くに、雷鳴の魔女ジェシカ・フィールディング、風塵の魔女カーラ・フランクランド、少し遅れて氷結の魔女デボラ・パーマーが近寄って来た。口を開いたのはジェシカだった。
「お取込み中悪いのだけど、森の、どうして正体を隠していたの?」
何を分かったことを、とクリスティンは思ったが、一応言葉にした。
「魔女の里を出て人里に入る以上、魔女の里の場所は最重要機密で隠さないといけないでしょう?だからあなた達同様、出身を隠す様に言われていたのよ」
しかし、カーラは納得がいかない様だった。
「だが、王子は探していると言ったのだろう?言わずに、その近くにいるのは危険でもあり、不誠実でもあるのではないか?」
この人から誠実とかいう言葉が出ると違和感が大きいな、と思ったのはクリスティンだけではなかったが、とりあえずクリスティンは答える事にした。
「だって、王子が探している噂の魔女は『恐怖の魔女』と言う事だけど、私はそんな名前で呼ばれた事はないから、知らんぷりして良いと思ったのよ」
えー?王子の護衛が全員恐怖で立ちすくんでいたじゃないか、怒らせたら怖い、恐怖の魔女と呼ばれていても不思議は無いと皆は思った。ちなみにクロちゃんだけは
(怒ったクリスティンも凛々しくて素敵だな)
と思っていた。もう駄目だね。この犬ころ。
カーラは続けて尋ねた。
「それじゃあ、里では何と呼ばれていたんだ?」
「たそがれちゃん」
…クリスティンが周囲の者を『ちゃん』付けして呼びたがるのは森の魔女の里の文化か、思ったより女らしい里なのかと皆は思った。
「何でたそがれなんだ?」
「日が暮れる前に必ず家に帰るから。日が出ているうちに夕飯をあげないと飼い犬のアッシュが三日以上、体を触らせてくれないのよ」
…人間より犬優先かよ!それで人狼大好きなんだな、と皆は納得した。クロちゃんは見ることの無いクリスティンのかつての飼い犬に激しく嫉妬した。
(俺も彼女のごはんを食べたい!)
餌付けされたいのかこの犬ころは。
クライブは疑問に思っていた事があったので、この場でジェシカに聞いた。
「ジェシカはクリスティンが森の魔女と分かっていたのか?」
「この間、妹さんとこの娘がデートを覗いてた事があったでしょ?あの時、私は魔法探知をしていて、それをこの娘は欺瞞したり信号を加工したりしたのよ。私が使っていたのは電磁波で、防御力の強い魔女は強めに反応するのを利用していたの。この娘が信号を加工して返した事で私に伝えようとした事は、『こんな特殊な能力を使っていると属性がバレる』という事なのでしょう。だけど、その特殊属性と同じ事が出来るこの娘も、やはり特殊な魔法が使える訳で。そんな特殊な魔法の使い方が分かっているのは森羅万象を追求する森の魔女だろうと思っていたのよ」
「でも、それ以前からクリスティンの魔力が分かっていた様だが?」
「各人の体内を流れる魔力には波形があるの。電気使いの私だから分かる事だけど。その周期がこの娘はものすごく長いのよ。魔法行使力の最大強さは魔法の波の周期と変化率の積になるから、魔法変化率が並みだとしてもこの娘は常人の数十倍の魔法が使えるのよ。もちろん、魔法行使の速度はご存じの通り人並以上だから、それは魔法変化率が高い事を示している。つまり、化け物なのよ、この娘は」
「化け物とはあんまりじゃない?」
クリスティンは反論するが、ジェシカはこの機に言いたいことを言う事にした様だ。
「大体、人狼を可愛がる時点で普通じゃないでしょ?怖い者のいない化け物ならではなのよ」
愛するワンちゃんを怖い者の様に言うのはクリスティンには耐えがたい事だった。
「何言ってるの!クロちゃんはこんなに可愛いのに!」
と言ってクロちゃんの腕をぎゅっと抱き抱えた。クライブも思わずクロちゃんの肩を持つ気になった。
「いや、クロちゃんは良い奴だから、誰も怖がっていないぞ?」
それにジャッキーも続いた。
「そうそう、クロちゃんは可愛い奴だから、可愛がってやらないと」
ジャッキーは揶揄っているだけだと分かっていたが、クロちゃんは思わず肩を落として項垂れた。
(…クリスティンを守れる強い男を目指しているのに)
その項垂れるクロちゃんを見てクリスティンはときめいた。
(人狼の姿でこんな風に項垂れて、キュ~ンと鳴いたらずっと抱きしめちゃうのに!)
クリスティンも大概だった。
ジェシカの言いたいことはまだあった。
「大体、この娘の言葉の端々に、何物をも恐れぬ女王の如き風格が漂っているじゃない!」
ジェシカはむしろクリスティンを怖がっている点があるし、この間の探知信号をいい様に加工されて被害妄想気味だった。だからクライブが公平な評価を述べた。
「クリスティンはかなりボケている点があるけど、それを女王の風格と言うのはどうかと思うよ」
「だって…」
何かジェシカとクライブの間に雰囲気が出てしまっているので、皆口が開けられなくなった。クリスティンも
(かなりボケてる、は妹の友人に対して酷い言い方じゃない?)
と言いたかったが、その点を指摘しようという人物は他にいなかった。
ジェシカ以外の皆もクリスティンに対してはクライブと同じ印象を持っていたのだ。
ところがカーラには確認したい事があったので、口を開いた。
「では、恐怖の魔女とやらは別にいるのか?」
「私が里を出た段階で、他の魔女を外に出すという話は聞かなかったから、私の事を指すのでしょうね。養父は陽動だと考えているの。つまり私に目を向けさせる間に、他の何かが王都に入り込み、何らかを企んでいるのだろうとね」
クリスティンの言葉が終わると、離れた場所から声が聞こえた。
「そこから先は屋内で話をしようと思うのだが、どうかね?」
王子が復活したのだ。ようやく鼻血が止まったらしい。
そのう…プロ野球の新入団選手の入寮が話題になっていますが、ニュースのスポーツコーナーに映る選手達は、若いくせに顔に肉が多く付いている様に見えます。プロティン飲み過ぎの影響なのでしょうか?本編と関係なくてすみませんが気になって。
次は木曜に更新予定です。




