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5−8 ダンスパーティ(2)

 同じくファーストダンスを、第三王子エドウィンはサマセット公爵の次女、ジャネット・サマセットと踊っていた。

「憂鬱そうだね、ジャネット」

「お察しの通りですわ。自分の行く末を直視させられて、憂鬱にならざるを得ませんわ」

「まあ、人生ままならないものさ。子供じゃなければ受け入れるか、違う道を自ら探すかする事だね」

ジャネットはエドウィンの結婚相手の筆頭とされていた。家格の高さと年齢の一致から、対抗候補から頭一つ抜けていた。但し、彼女は評判の悪い第三王子を見下しており、その結婚を嫌がっていた。

(何度も顔を合わせていても相手の中身を見ようとしない人間との結婚など、私の方から断りたいけれど、周囲がね)

人生ままならない、というのはエドウィンの方の気持ちだった。


 一方、クライブとジェシカ・フィールディングのダンスはもっと緊張感に満ちていた。

「ジェシカ、オーバーアクションだよ。もう少し控え目に踊った方が良いよ」

「あなたのリードが悪いのでしょう?この私の動きを読んでリードするくらい出来ないの?」

クライブは同じクラスのジェシカを綺麗な娘だな、とは思っていたが、この娘の当たりのきつさには戸惑っていた。

(ここまで嫌われる事をしたかなぁ?)

そういう事で、何度か踊ってはいるが、毎回リードを貶されていた。動きくらい読めるが、それに合わせて踊ると凄く目立ってしまうと思っていた。普段は伯爵家相当の礼儀は弁えている様に見えるのに…

「ねぇ、殿下の調査チーム?の中に一年生がいるでしょ?」

「不良と問題児と真面目な娘と背景がいるね」

ここでもエグバードは背景扱いだった。まあ騎士になるなら貴族の背景と化す必要があるが。

「その一番印象が良さそうな娘、一番問題がありそうだけど、分かってる?」

「出来の良い娘だとは思っているよ。真面目過ぎるくらいだ」

「…真面目な娘ならここにもいいますけど?扱いが悪くない?」

どちらが扱いが悪いのだろう、とは思ったが、ダンスの途中である。相手の機嫌を損ねるのは良くない。

「優等生の扱いが良く分からなくてね。うまくつきあえてないなら済まない」

ジェシカは軽く唇を尖らせた。優等生らしからぬ表情だった。

「扱いねぇ、そういう扱いなんだ?」

「まあ、妹が少しやんちゃなので、真面目な娘の扱いが分かってないかもしれない」

ジェシカのステップが更に激しくなった。

(どこに不機嫌になるポイントがあったんだろう?)

クライブは今日も戸惑いながらジェシカのステップに合わせて踊った。


 風塵の魔女カーラのダンスは恐ろしいものだった。親が用意したパートナーに始まりから終わりまで小言を言い続けた。不機嫌オーラをまき散らすカーラに、皆はなるべく近づかない様にした。『邪魔をした』などと因縁を付けられるのを避けたんだ。彼女の不機嫌の理由は、パートナーが柳に風とカーラの言葉を流し続けたせいだった。

「あなた、もっとパートナーの言葉に真心のこもった返事が出来ないの?」

「聞き流せとは言われておりますが、真に受けろとは言われておりませんので」

風塵の魔女は全てを意のままに吹き飛ばせないと気が済まない女なのかもしれない。


 悲惨なのは氷結…もとい、水籠りの魔女デボラとエグバードのダンスだった。本番で更に緊張した二人は、相手の動きなど目に入らずに自分のステップだけ思い出しながら踊ったから、度々衝突した。

「ぎゃー、ちょっと、思いっきりぶつからないでよ!」

「うわっ、これから足を出すところに足があったら転ぶだろ!?」

「ちゃんとリードしなさいよ!」

「下手くそに無茶言うなよ、上手く避けてくれ」

「上手くないからこうなってるんでしょ!」

人前でこうも下手くそなところを見せてしまっては、淑女としては恥ずかしくて仕方が無かった。そもそもデボラが淑女かと言うとアレなのだが。こうなる事が予測出来たから、クライブは二曲目に踊る約束をデボラとしていた。クライブも同級生の優等生とは上手くつきあえなかったが、下級生とはそれなりに上手くつきあっていた。


 ファーストダンスが終わり、それぞれが脇に控えた。クリスティンはクラスメイト的な控え目な微笑みでクロちゃんを見て、クロちゃんは締まった顔で口元だけ微笑んでいた。そんな二人に、クロちゃんのクラスメイトの子爵令嬢が近づいた。

「クロードくん、二曲目は私と踊ってくれませんか?」

クロちゃんとしてはクリスティンの番犬をするのが責務と心得ていたから、断ろうとした。

「悪いが…」

皆まで言う前に、クリスティンが言葉を挟んだ。

「クロードくん、クラスの人とのお付き合いがあるのでしょうから、私は横に控えているね。でも、最後のダンスは私の為にとっておいてね?」

クロちゃんはこの控え目な殺し文句に心のど真ん中を射貫かれた。正に惚れ直した。まだ惚れ直す余地があるほど夢中でないかというと、とっくに夢中だった筈だが。

「あ、あ。約束するよ」

クロちゃんは話の流れに負けた。責務を放棄して他の女と踊る羽目になったが、クリスティンの命令が最優先である。命令じゃなかったが。


 ちらっとクロードの顔を見ながら、子爵令嬢は尋ねた。

「もしかして迷惑だった?」

「いや、そんな事は無い」

言葉に対して言葉を返しただけだった。クロちゃんの心はクリスティンとのラストダンスで一杯になっていた。


「じゃあ、お嬢様、お手をどうぞ?」

クライブはデボラに優しい微笑みで手を差し出した。

「全然お嬢様じゃないよ…」

すっかり萎れてしまったデボラだったが。

「二曲目で挽回すれば良いのさ。私が上手く合わせてあげよう」

「合わせるんじゃなくてリードしてよ!」

二言目でデボラの元気を取り戻してあげたクライブは良いお兄さんだった。そういうところをジェシカ・フィールディングはイラっとした視線で見ていた。そしてそれをジャッキーが見ていた。

(え、それってやっぱり、えー!?)


 ちなみにクリスティンは得意な気配消しで、壁の花どころか壁の模様と化していた。実は時間が過ぎるのをただ待っているのが結構好きなタイプだった。


 エドウィン王子に近づく少女がいた。期待に頬を紅潮させて、お誘いを待った。王子はこの子が、お互い家のみそっかすと言われている事から自分に親近感を抱いていると推測していたので、あまり近づきたくなかったが、上位貴族の令嬢に恥をかかせるのも良くない。仕方なく声をかける事にした。

「イヴリン・マナーズ侯爵令嬢、よければ一曲いかがかな?」

手を伸ばした王子にイヴリン・マナーズは手を重ねた

「喜んで承ります」

彼女は喜色満面で王子のエスコートに従ったが、上位貴族がそうそう感情を表に出すものではない。王子は内心冷ややかに見ていた。そんな王子の仮面の微笑にイヴリンは気が付かなかった。彼女は自分の見たい王子のイメージしか見ていなかった。


 そして三曲目、クライブとジャッキーが踊る事になったが。

「お兄様、お二人の馴れ初めを今から白状して頂きましょうか」

「柄にもなくお兄様はやめてくれ」

「そこは置いといて、で、出会いのきっかけは兄さんから作ったの?」

「いや、向こうから話しかけて来た。魔法実技の授業でとても綺麗なファイアーボールを彼女が作ったんで見とれていたんだ」

「きれいなファイアーボールってどないやねん」

「いや、分かるだろ?魔力が綺麗に火の玉を作っていたんだよ。その工程も綺麗だったし」

「なるほど、クリスティンの有能さが分かる兄さんだけはあるわね」

「いや、ジェシカの方が先に綺麗と気付いたんだが」

「それでその綺麗な彼女から話しかけられて、いきなりデートに誘ったのね!?」

「いや、綺麗な横顔以前に評判が凄かったからうまく話が出来なかったんだよ」

「ああ、魔法が綺麗、は言い訳で、本音は顔が綺麗、だから見とれてたのね」

「いや、誤解だ」

クライブも顔の好みから惚れ始めるタイプの様だった。


 最後の曲が始まる前に、クロちゃんは壁に溶け込むクリスティンに手を伸ばした。

「ふふ、よく分かったね」

「クリスティンの事を見失ったりしないよ」

「クロちゃん、クラスの女の子と踊っている時に、あまり会話をしていない様だったけど、気が合わないの?」

「ちょっと距離は感じてるよ」

最後の曲を踊りながら、二人は合間合間に話をした。

「もう上期が終わっちゃったね。下期もあっという間に終わってしまいそう」

「クリスティンにとって楽しい事が多ければ良いんだが」

「仲の良い人と一緒に過ごせば何をしても楽しいよ」

「そうだな…」

何か言いたげにも見えるクロちゃんに、クリスティンは今度、海に行った時に二人になって話を聞こう、と思っていた。

 次回はちょっと蝙蝠とクロスオーバーになってる気が…まだ書いてる途中ですが。


 明日は蝙蝠の更新です。もうちょっとこう、と今一つイメージ通りの言葉が出てこないけど、とりあえず書き進めてます。


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