水溜りのように陳腐な物語
ボクは君と出会えたことを幸運に思う。できれべこの物語を何度も最後まで読み返すことをおすすめする。
ボクはこの村で生まれて今まで育ってきた。ボクは小さいときから冒険物語が大好きで、よく冒険に行く夢を見たり、将来は冒険家になると決めているほどだった。
でも、周りの人達はボクが村の外に行くことを心配した。母と父はいつも口を揃えて言った。
「この村にとどまっていたほうがずっと長生きできるぞ。何年だって、何十年だって。もしかしたら百年生きられるかも知れない」
それで、ボクは決まってこう言い返すのだった。
「こんな小さな村じゃ、ただ老いて死んでいくだけだよ。そんなのつまらないとは思わないの?」
しかし、最近は父も母もボクがこう言うと、半ば心配するようにため息を付く。そして彼らはまるでボクが水槽に入れられて一生を終える哀れな金魚であり続けろと言わんばかりにこう言うのだ。
「あなたはこの村で安定した生き方ができるんだ。だから、これは幸せなことなんだ。その幸せを享受できない奴らだって山ほどいて、そいつ等は誰とも会わずに死んでいくんだ」
そう何度も聞かされるうちに、いつの間にかボクもその考えに染まっていったのか、年々その事を口にさえしようとはしなかった。
ある時、ボクは好きな子ができた。その子は安定した生活を望んでおらず、昔のボクのように、燃えるような熱い夢を持っていた。そしてその子はいつもボクにこう言い聞かせる。
「人生ってのはね、量なんかよりも質が大切なんだ。例えば一千万年ダラダラ何にも出来ずにただ生きるよりも、十秒感、神様も驚くような幸せを享受したいと思わない?」
ボクは次第に昔あった野心を取り戻し、二人でこの村を出る計画を立てた。
まず、次に雨が降った時、その隙をついて村を脱出し、近くの街に行く。それからボクたちはとある一つの目標を立てた。
『海を見ること』
だ。僕たちの村は、海からは遠く遠く離れていて、到着するのにも何年もかかる。ボクは、その間に死んでしまわないのかと彼女に問うと、彼女は方をくすめて笑ってこう言った。
「人生って、曲がりくねったほうが面白いでしょ?直進し続けて死ぬよりも、長い事目標を忘れるような、全力で生きれるような日々を選ぶの。それで、死ぬ瞬間にこう言うの。『最高』って。どう?なんだかワクワクしない?」
どうやら彼女は死後の世界にまでそのワクワクを持っていくような気がしたが、ボクは彼女に触れるうちに、そうなっていくのも悪くないと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
数カ月後。とんでもない豪雨が村を襲った。村の人が平和ボケしている所にやってきた豪雨だったので、何人もの人々が流されていく。その中に、父と母がいたかどうかはわからないが、ボクは彼女と何の別れの言葉も言わないで村を脱出した。村を出る時、ボクはもう二度とこの村には帰れないような気がした。彼女もそう感じたのだろう。一瞬不安な顔を見せたが、すぐに僕の手を取ってニッコリと笑って言った。
「大成功だね」
それから僕たちは暫く大きな河川沿いに歩き走ったり、時々転んだりしながら、とうとう大きな街に着いた。
どうやらその街は交通の要所らしく、沢山の人達が入っては出て行った。ボクたちは休憩がてらに暫くその街を見学することにした。彼女はずっと楽しそうな顔をしていて、移動を繰り返す毎日だった。
数ヶ月が経ったある日、ボクと彼女は街を出る準備をした。彼女は少し渋っていたが、ボクの誘いには乗ってくれた。一応この街に彼女だけ置いていくという提案をしたら彼女に叩かれ怒られた。
「もう二度とそんな事を言わないで!」
急いでボクが謝ると、彼女は少し笑みを浮かべて言った。
「あなたと一緒に旅をしているのが楽しいんだから」
その言葉がきっかけとなり、出発前日の夜、少し照れくさかったが、ボクはその場でプロポーズをした。彼女は涙をこぼして喜んでくれた。それからボクたちは夫婦になって旅を続けた。この頃になると、もうすっかり村のことは忘れていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日はあの日と同じような豪雨だった。雷が鳴り、人々は逃げ惑い、ボクと彼女は離れ離れになった。数日間根気強く彼女を探し回っていると、彼女は近くの川辺に座り込んでいた。お~いと声をかけても返事がない。もしかして死んでしまっているのでは無いかと、恐る恐る彼女の方を触った時、ボクは初めて彼女が泣いていることに気づいた。
「寂しかったよぉ...」
生まれて初めて見る彼女の泣き顔は、ボクの目には美しく写ってしまい、暫くボクは彼女に何も言えずにいた。そこからまた数日、川の近くを歩いていると、今度はものすごく大きな街、いや、国に出会った。
その国はボクたちが此処に来た経緯を知るなり、大歓迎してくれて、寝るところや食べるものなどを提供してくれた。
ボクと彼女は暫くそこに住むことにした。一部屋だけの小さな家だったが借りることが出来たその家は、ボクと彼女にとってかけがえのない大切なものだった。
しかし、幸せには不幸がつきまとう。
ある夏、大干ばつの発生により国内は不安定化し、それにより、多くの命が天に帰ることになってしまった。
彼女も例外ではなかった。朝起きたら、彼女がもう折らず、どこを探し回ってもいなかったので、近くの住民に聞いてみた所、どうやら死んでしまったということが分かった。大干ばつで、かろうじて生き残ったボクは教会に行き、苦し紛れに、神様に祈ってみた。
するとその熱心な姿を見たのか、神父が僕のところへとやってきて、一冊の本、聖書を手渡してくれた。
聖書にはこう書かれてあった。『生命は流転する』と。ボクはその言葉を盲信して、彼女の死を無理やりボクから遠ざけた。それからボクは国を出た。海に向かうという、僕の目標だ。彼女は今も天高くから見守っていてくれているだろう。ボクは大きく深呼吸をしてもう一度旅を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
数十年間歩き続け、ボクはようやく海へとたどり着いた。ボクは道中で沢山の仲間と出会い、そして別れていった。そして今ボクは一人で此処にいる。海という広大なものを見たボクは、彼女の顔を不意に思い出してしまい、泣いた。
何時間も大声を上げて泣き続ける老人に、声を掛ける者はいなかった。
ボクは一通り泣いて、起き上がり、あの時もらった、もうぼろぼろになってしまった聖書片手に海へと近づいた。
足を浸すと、心が洗われたような気がした。
それからボクは、一歩ずつ、一歩ずつ海へと入っていき、そして死んだ。
彼女に来世でも会えるようにと思いながら、そして、海中で最後の力を振り絞って叫んだ。
「最高!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そしてボクは今天にいる。どこを探しても彼女はいなかったが、ボクはとある決定的なことに気づいた。それは、本当に生命が流転するということだ。しかも希望制で記憶を保持したまま、何度でもやり直せるらしい。
ボクはすぐさま記憶を残す方を選んだ。彼女もきっとそうしただろう。
時間は無限にある。これからボクは彼女を探すたびに出る。そして出会って、結婚して、海に行って。こう叫ぶ。
「最高!」
と。
ボクは君たちの周りにいる。もしかしたら君の体の表面、君の体の中、そして頭の中。心の中までは流石に入り込めないだろうが、ボクは君といつまでも居るだろう。
もしもこの言葉の真意に気づけたらこの事を踏まえてもう一度読んでみる事をおすすめする。きっと世界が変わるはずだ。
これはボクがキミに贈る、水溜りのような陳腐な物語だからだ。