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救援

            ◇



「ダメだ。ミランダ」


 それでは君が呪われてしまう。ルカは彼女の手首を掴んで止めた。


「もう良い。行こう」


「…」


 包丁を放させ、それを奴の頭の横にざくりと刺す。


「必ず罪を償わせる。逃さない」

 

 脅すまでもなかった。奴は白目を剥いて気を失っていた。異変に気付いたのか、手下どもの足音が聞こえる。ルカはミランダの手を引いて出口を探した。ベランダから外に下りる階段があった。2人は月明かりの森に逃げ込んだ。



            ♡



 追手の声が聞こえる。ミランダは必死で走った。だが華奢な靴で足が悲鳴をあげている。月は明るく逃亡者に味方しない。ルカだけでも逃がそう。


「置いていって。後で助けに来て」


 苦しい息で伝えるとルカは怒ったように拒んだ。


「いやだ。捕まったら何されるか」


「でもこのままじゃ…」


 ミランダが木の根につまずいて転んだ。もう走れない。ルカは彼女を背負って走り出した。ああ。なんて役に立たないの。涙が彼の首に落ちる。


「泣かないで。絶対に助ける。僕らは最後まで一緒だ」


(プロポーズみたい)


 こんな時に気づいた。ルカが好きだ。叶わない恋だけど。ミランダは腕に力を込めた。


「いたぞ!王子はこっちだ!」


 すぐ近くに追手の声がした。2人は崖下に追い詰められてしまった。数が多い。剣を抜いた追手はジリジリと包囲を狭めてきた。



            ◆



 白雪は何の迷いもなく駆けていく。公爵とアン王女を乗せた馬は王都の北西、王妃の実家である侯爵領まで来た。王女をマントでくるんだが寒さは防げない。子供には辛いだろう。彼女は時々、懐から出した紙を落としている。


「何をなさっている?」


 不思議に思って公爵は訊いた。


「兄様から頂いたお札です。目印に」


 驚いた。なんと賢い王女だ。確かに白雪が早すぎて誰もついて来ない。王女は俯いた。


「公爵様。ごめんなさい」


「うん?」


「全部母のせいです。もし兄様とミランダ様が…」


 子は親を選べない。王女が謝る必要はない。公爵は慰めた。


「捨てられた赤子を殿下に託したとか。神は見ておられますぞ」


 白雪が急に森に入った。王女はまた札を落とす。ロシナンテも後に続いた。すると崖下に抜刀した男達がいるのが見えた。まさに殿下とミランダに襲い掛かろうとするところだった。


「殿下!!」


 公爵が叫ぶと同時に、白雪が(いなな)く。主人を守らんと白馬は曲者どもを蹴り飛ばした。



            ◇



 ミランダを下ろし、身構えたルカの前に白雪が駆け込んできた。後ろにはロシナンテに乗った公爵とアンがいる。


「白雪?閣下?」


「父上!!」


 アンを抱えた公爵は飛び降りた。仕込み杖の鞘を払って敵を斬る。ルカに走り寄るとアンをミランダの横に下ろした。


「殿下!私が2人を守ります!」


「助かります!」


 背後を気にしなくて良くなった。ルカは初めて本気を出した。師匠に比べればなんて事のない相手だ。



            ◆



 護衛は必死に公爵の後を追った。無茶苦茶速い。途中の分かれ道で見失ってしまった。だが見覚えのある札が落ちている。アン王女殿下だ。目印を残してくださったのだ。


『このロクでなし!お前なんか弟じゃない!』


 事件を知った姉に頬を打たれた。無防備な殿下を置いて宮を出てしまった。言い訳はできない。


『死んでもお守りして来い!』


 殿下の無事を確かめるまで、姉の怒りは解けない。護衛は次の札を探しながら馬を駆った。



            ♡



 ルカは敵の剣を奪うと、あっという間にやっつけてしまった。斬っているのに血が出ない。どういう仕組みなのかしら。父も奮闘している。すごく強い。知らなかった。ミランダは2人の強さに感嘆していた。


 アン王女は子供ならではの怖いもの知らずで、「頑張れ兄様!」とか「公爵様カッコいい!素敵!」とか応援している。おじさま好きみたいだ。


 ほとんどの敵が倒れた頃、公爵家の私兵たちがやって来た。ずっとルカの護衛だった子爵家の3男が、ルカに土下座した。


「申し訳ございませんでした!!」


 頭を地に擦り付けんばかりに下げる。ルカはしゃがんで護衛の肩をポンと叩いた。


「良いですよ。メイドさんと赤ちゃんたちは無事なんでしょう?」


「殿下…」


 3男は泣いている。甘いなあ。ルカは。呆れていると血刀を引っ提げた父が来た。変態の部下と屋敷の制圧が終わったようだ。


「ミランダ。歩けるか?」


「無理。父上こそ歩けるの?」


 疫病の後遺症はどうなったのか。歩くどころか戦っていたけど。


 そこへルカが走ってきた。ミランダは彼に抱き上げられた。お姫様抱っこだ。


「ルカ!?」


「ごめん。ごめんね、ミランダ。怪我させちゃった」


「大丈夫よ。足を挫いただけだし」


 それを見ていたアン王女が父の袖を引っ張った。父は王女を茶色い馬に乗せた。


「では一件落着ですな。戻りましょう。殿下とミランダは白雪にお乗りください」


 結局、白雪にルカと相乗りした。真夜中の街道は月に照らされ明るい。疲れた。ミランダは城に帰り着くまでに眠ってしまった。暖かい胸にもたれて幸せな夢を見た。


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