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トラウマ

            ◇



 あの殺人鬼だ。ルーカスの両脚の腱を千切り、身体中の関節を砕いた。泣き叫ぶ子供を笑いながら切り刻んだ男だ。ここはあの拷問部屋だった。


「大人になってしまったけど相変わらず綺麗だね…」


 舐めるような視線に肌が粟立つ。押し殺した声でルカは訊いた。


「なぜ生きている。捕えられたはずだ」


 侍従長からそう聞いた。死刑になったと思っていた。


「すぐ釈放されたんだよ。知らなかった?」


 奴は動揺するルカを楽しんでいる。ミランダがルカの手を握った。彼女を忘れていた。


「王妃様の兄上では?侯爵家に心を病んだ令息がいるって聞いたわ」


 だから揉み消せたのか。王は知っていたのか。


「詳しいね。お会いできて光栄です。”お飾り”妃殿下」


 ミランダの顔が強張った。


「ルーカス君と良い仲なんだって?じゃあ知ってるよね?8年前にさ…」


 殺人鬼は語り出した。



            ♡



 王妃様の兄は異常者だ。恍惚の表情で子供を壊した方法を吐いている。ルカがミランダの手をきつく握った。酷い。可哀想に。こんな傷を抱えて北の修道院に送られたのか。涙が出てきた。


「聞きたくなかったかな?恋人がこんなふうに…」


「お黙り!この変態っ!」

 

 ミランダは大声で遮った。怒りで顔が熱い。


「そんなに解体したいなら肉屋にでもなれっ!令嬢に相手にされないから子供に走って!気持ち悪い!」


「な…」


 変態に反論する間を与えない。


「欲望垂れ流しのド変態中年!王妃の威を借る腐れ外道!」


「小娘が!」


 手にした杖を振りかざし、変態がミランダを打とうとした。彼女は身をすくめた。


「!」


 ルカが杖を掴んだ。がっちりと握った手に血管が浮き出ている。彼は片手でへし折った。


「なんだ。こんなに弱かったのか」



            ◇



 ルカは折れた杖を投げ捨てた。ミランダのお陰で落ち着けた。目の前にいるのは過去の恐怖だ。僕はもう7歳の子供じゃない。奴より大きく、強い。


「ひっ…」


 今度は奴が後退る。ルカは作業台にあった拷問具の中のからペンチを取った。これで爪を剥がされたっけ。

 

「やめ…」


「僕も懇願したよ。止めて。許してって」


「!!」


 奴が叫ぶ前にルカは顔に拳を叩き込んだ。倒れる前に胸ぐらを掴み両肩を外す。それから少年を縛りつけていたベッドに引き摺っていった。猿轡も縄もある。準備万端だ。


 身体の痛みは消えても悪夢は続いた。目の前の殺人鬼に復讐したい。だが迷う自分もいる。ルカはペンチを見つめた。


「私がやるわ」


 ミランダが包丁のような拷問具を取った。


「ルカは王太子になる人よ。汚れちゃだめ」


「ミランダ」


「大丈夫よ。こんな変態、殺しても。せいぜい修道院に行かされるくらいよ」


 彼女は本気だ。ベッドに縛り付けられた奴は身を捩って足掻いた。


「さようなら。変態。あなたが地獄に落ちること祈るわ」


 公爵令嬢はその細い両腕を振り上げた。



            ♡



 アンは赤子を盗んだ罰で物置に閉じ込められていた。赤子の居場所をきつく問われたが、絶対に言わなかった。母は食事を与える事も禁じた。1週間以上、水と少しのパンしか食べていない。


 さすがに空腹に耐えかね、侍女の目を盗んで脱出した。客間を覗くと母の食べ残しの菓子があった。それをカーテンの蔭で食べていると母が入ってきた。若い騎士もいる。


「それで?王妃の手下に王子を奪われたって?」


 怒りを滲ませた声で母が問う。


「仕方なかったんです。王妃様の兄君の屋敷に向かいましたから。死んではいます」


「あの殺人鬼の。ミランダも処分できたのね。ベリー公爵に一泡吹かせられたわ」


 母は騎士と別室に消えた。アンはびっくりした。兄様とミランダ様が。すぐに王太子宮に向かう。茂みから宮を覗くと、沢山の護衛風の人たちがいた。


「鍵が壊されている!」


「お2人はどこだ!?」


 ダメだ。この人たちに言っても間に合わない。アンは白雪ならと馬屋に走った。



            ◆


 

 ベリー公爵は久しぶり宮廷に顔を出した。知り合いと話し込んで帰りが遅くなった。車寄せに向かう途中、廊下で子供とぶつかった。もう9時過ぎだ。こんな時間に誰だと思ったら、第7王女殿下だ。王女は尻餅をついている。


「大丈夫ですかな?アン王女様」


「ええ。ごめんなさい。えーっと」


 公爵の従者が王女を助け起こしながら教えた。


「ベリー公爵でございますよ」


「!」


 王女はガシッと公爵の袖を掴んだ。驚く公爵に子供は助けを求めてきた。


「兄様とミランダ様が攫われたの!助けてください!」



            ♡



 ベリー公爵はアンの話を真剣に聞いてくれた。白雪なら兄様をきっと見つけられる。今すぐ出発しないと間に合わない。だから馬屋に向かっていたと説明した。


「王女様は馬に乗れるのですか?」


 足の遅いアンを従者に抱っこさせ、公爵は早足で馬屋に向かう。脚が悪そうなのに杖を使ってない。変なの。


「ポニーなら乗れるわ」


「…私が乗ります」


「ダメよ。白雪は兄様しか乗せないの。後を追いかけましょう」


 馬屋に着いた。公爵が命じると、馬屋番はすぐに白雪とロシナンテに鞍をつけた。アンは白雪を見上げた。


「お願い。兄様を探して」


 彼女は賢そうな瞳で見つめ返した。公爵はロシナンテに跨り前にアンを乗せる。そして従者に命じた。


「お前はミカエルに追いかけてこいと伝えろ!」


 かっこいい。アンはときめいた。初恋かも。


 月明かりの中、白雪と2人を乗せた雄馬は走り出した。



            ◆



 ミカエルは焦った。計画が漏れていたのだ。このままでは確実に殿下と妹は殺される。駆けつけた王太子宮に手掛かりは無かった。今動かせる私兵で探すしかない。そこで指示を出していると、父の従者が飛び込んできた。


「父上がアン王女と?白雪で殿下を救出に向かった?」


 何がなんだかさっぱり分からない。とにかく2頭の向かった方角に捜索隊を行かせた。


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