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悪夢再び

            ◆



 ルーカスの条件を飲む訳にはいかない。王は宰相と組むことにした。利害は一致している。


()()が居る限り、殿下は意思を曲げないでしょう。荒療治が必要です」


 宰相に何やら策があるらしい。


「もう一度拷問でもするのか?できる訳なかろう」


 今や貴重な直系の男子だ。死なせては元も子もない。


「いいえ。幸い妹のミランダには気を許しています。一服盛って閉じ込めます」


 ()()を眠らせるのか。悪くない。


「お前も悪い奴だな。妹を生贄にするか」


「王統の維持の為なら」


 狂っているのは百も承知。王と宰相はそれほど追い詰められていた。



            ◆



 護衛は気が進まなかったが、主人の命には逆らえない。他の者と協力して睡眠薬を茶に混ぜた。1時間もしないうちにお2人は突っ伏した。


「殿下とミランダ様は恋人同士なんだ。二人きりにしてあげよう」


 と姉を騙し、赤子たちと一緒に公爵家に隔離しておいた。


 お2人を殿下の寝室に運び入れ、仕上げに媚薬の香を炊く。そして外から鍵をかけた。


(恨むだろうなぁ。こんな形で裏切って。すみません…)


 心の中で謝りながら護衛は宮を去った。



            ♡



 ミランダが目を覚ますと暗い部屋で倒れていた。頭がぼんやりする。ルカと編み物をしていたところまでは覚えていた。変な匂いがする。鼻を袖で押さえて見回すと、香炉から煙が立っていた。フラフラと立ち上がり、花瓶の水をかけて火を消した。


「ル…ルカ!しっかりして!」


 同じく倒れているルカを起こそうと体を揺する。


「ル…」


 彼は手を伸ばし、ミランダを引き寄せた。大きな手で口を塞がれる。


「静かに。誰かが宮に入ってきた」


 囁くような声でルカが言う。ミランダには何も聞こえない。


「護衛さんもメイドさんもいない。赤ちゃんも」


「誰が来たの?どうする?」


 ルカは耳を澄ませた。緊張が伝わってくる。彼はミランダを抱きしめた。


「多分、誘拐される。僕にしっかりとしがみついてて。今は薬で動けない」


 眠ったフリをして。必ず脱出するから。ミランダは頷いた。その時、ドアの鍵が壊された。4、5人の足音が聞こえる。抱き合ったまま倒れる2人を見つけると口笛を吹いた。


「お熱いこって。どーすんだ。引き剥がすか?」


「このまま崖にでも落とそう。心中に見えるだろう」


 若い男の声だ。彼らはルカとミランダを大きな麻袋に入れて紐で数カ所縛った。


「いつぞやは世話になったな。殿下」


 憎々しげな声の男がルカの背中を蹴った。彼は呻き声ひとつ上げなかった。


「止せ!余計な傷をつけると検死でバレる」


「へーい」


 大きな板のようなものに麻袋を乗せ、運び出された。そのまま荷馬車に乗せられたようだ。ミランダは悲鳴を懸命に押さえた。ルカが優しく背を撫でてくれる。それでやっと耐えられた。



            ◇



 馬車は30分ほど走った。崖とか言っていたな。海に向かうつもりか。ルカは頭の中に地図を描いた。東に進んでいる。男達は馬に乗って並走している。先ほど蹴った男の声に聞き覚えがある。闇討ち騎士の1人だろう。


 ガクンと馬車が急停止した。外で騒いでいる。


「命令変更だぁ?」


「王妃様の命だ。王子を引き渡せ」


 誘拐犯以外に数人の気配がする。


「側妃様は自殺に見せかけろって言ってたぞ」


「こちらの権限の方が上だ」


「ちっ…」


 誘拐犯の馬が去って行った。御者が交代し、馬車は北上していく。


(事情は分かった。側妃が命じて誘拐された。その獲物を王妃が奪った)


 早く出してくれないかな。ミランダが発狂しそうだ。背中を(さす)っても震えが止まらない。ルカは囁いた。


「ごめんね。巻き込んで。絶対死なせないから。僕を信じて」


「うん」


 ミランダの手に力が戻った。少しして馬車が止まった。王妃の手下がルカたちを下ろして運ぶ。そこでやっと麻袋から出された。



            ♡



 彼らはミランダたちを床に転がすと部屋を出て行った。鍵をかける音がする。閉じ込められた。


 そろそろと手を離し身を起こす。ルカも立ち上がった。まだ喋るなと口に指を当てる仕草をした。数秒じっとして、やっと彼は口を開いた。


「ミランダ。大丈夫?」


「怖かった…」


 涙が止まらない。ルカは優しく抱きしめてくれた。さっきからくっつき過ぎな気がする。


「ここはどこかしら?」


 照れ隠しに部屋を見回した。暗い。彼はミランダを離すと、戸棚や引き出しを手探りで漁った。


「王都の東20キロ。そこから北に5キロ。王妃の実家の侯爵領だよ」


「攫ったのは側妃様?」


「どの側妃か知らないけど。そう言ってたね」


「そうね。沢山いらっしゃるから」


 ルカは細長い鉄の棒を鍵穴に差し込んだ。数回動かすとカチリと開いた。泥棒になれそう。


 2人は廊下を慎重に進んだ。妙な作りの屋敷だ。階段が見当たらない。突き当たりにドアがあったので開けた。


 部屋は一つしかないランプに照らされていた。棚に並ぶ不気味な標本。大きなテーブルには大工道具のような物が置いてある。


「起きた?」


 暗がりから男が現れた。その声を聞いた瞬間、ルカが後退(あとじさ)った。ミランダは驚いて彼の腕を握った。戸惑っていると男は嫌な笑顔を見せた。


「久しぶり。ルーカスくん」

 

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