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◆ 第一章 この度、お飾りの妃に任命されました(7)

「カイル=ベイツってベイツ侯爵家のカイル様のことかしら?」


 ベアトリスは貴族の端くれ。高位貴族の名前と顔は大体記憶している。

 ベイツ侯爵家は代々王家に仕える名門中の名門貴族であり、カイルはそこの嫡男だ。舞踏会で一度だけ姿を見たことがある。先ほどの男性と同じ黒目黒髪だったが、顔は違った。


「ってことは、この『ジャン=アマール』というのがさっきの人の名前なのね」


 ベアトリスは即座に予想を付ける。


(団長閣下になるくらいなら高位貴族だとは思うけれど、アマール家なんて家門はあったかしら?)


 一度も舞踏会であったことがないし、聞いたこともない気がする。とは言え、ベアトリスも全ての貴族の家門を頭に入れているわけではないのでもしかしたらあるのかもしれない。


「錦鷹団っていう騎士団も聞いたことがないわね」


 ベアトリスの知る王都の騎士団は近衛騎士団と第一騎士団から第十騎士団までの、全部で十一種類だ。


(家に帰ったらお住まいを調べて、届けて差し上げよう)


 ベアトリスは拾った手紙を自分の鞄にしまうと、馬車乗り場へと歩き出した。



 ◇ ◇ ◇



 事件が起きた王宮舞踏会から早三日。ベアトリスは頭を抱えていた。


「人の噂って、広がるのが早すぎじゃない?」


 ──ベアトリス=コーベットは婚約者の気持ちを奪われた嫉妬に駆られて友人を虐め、それが婚約者本人にばれて婚約破棄された惨めな性悪令嬢である。


 それが現在のベアトリスの評判らしい。


 舞踏会でことの一部始終を目撃した友人が心配して連絡をくれ、そのことを教えてくれた。


「あれは本当に酷いと思ったわ。なんで反論しなかったのよ!」


 自分のことのように怒ってくれているのは、学生時代からの友人であるサルーナ公爵令嬢のマーガレットだ。緩く波打つ金髪と新緑を思わせる緑眼が魅力的な美女で、王家とも縁のある公爵令嬢でありながらいつもとても気さくに接してくれる。


「反論したって無駄でしょう? だって『真実の愛』らしいから」


 ベアトリスははあっと息を吐く。


「真実の愛ですって? あれが真実の愛なら、世の中には真実の愛しかないわ」


 マーガレットは怒り心頭の様子でハンカチを握りしめる。ベアトリスはそんなマーガレットを見て苦笑した。


「マーガレット、心配してくれてありがとう。わたくしはもう大丈夫よ。それに、結婚する前にあんな浅はかな人だとわかって大助かりだわ。結婚したあとに『真実の愛』を見つけられたら、それこそ本当に手に負えないもの」


 ベアトリスは両手を天井に向けて肘をおり、肩を竦める。

 マーガレットは目を瞬かせ、次いでくすくすと笑い出した。


「それもそうね。大事なベアティがおかしな男と結婚せずにすんだわ。今日は祝杯を上げなきゃ。乾杯!」


 マーガレットはちょうど目の前に置いてあった紅茶の入ったティーカップを持ち上げて、乾杯のポーズをする。その仕草がおかしくて、ベアトリスもくすくすと笑い出す。


「婚約破棄したことは全然気にしないんだけど、ひとつだけ問題があるとすればお祖父様とお祖母様にご心配をかけてしまったことね。ほら、おふたりとも高齢であることを気にしているから──」


 ベアトリスは、しゅんと肩を落とす。


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