◆ 第三章 お飾りの妃は手柄をたてる(18)
「幻術の魔道具だ。アルフレッド本人である俺が言っているのだから、間違いはない。俺はお前に何の権利も与えていない」
「それは……」
バロー伯爵は狼狽えて言葉に詰まり、自分の周囲を見回す。そして、すぐ傍らに座り込むベアトリスの存在に気付くと、しめたと言いたげな表情をした。
「来いっ!」
「嫌っ!」
バロー伯爵はベアトリスの腕を掴もうと手を伸ばす。その瞬間、バチンと大きな音がしてバロー伯爵の「うぎゃっ」という悲鳴が聞こえた。
(指輪が光ってる?)
ベアトリスの嵌めているアルフレッドから貰った指輪が、鈍く光を放つ 。
(これは、魔法?)
驚くベアトリスは、アルフレッドに力強く体を抱き寄せられた。
アルフレッドは素早く剣を、バロー伯爵の鼻先に突きつける。
「俺の寵妃に許可なく触れようとするとは、いい度胸だな。今すぐ死にたいのか?」
怒りに満ちた声が部屋に響く。
アルフレッドに背中を踏みつけられ、バロー伯爵は床に這いつくばったまま倒れている。そのバロー伯爵を、アルフレッドが凍てつく眼差しで睨み付けた。
「この男を捕らえろ」
「「はいっ」」
周囲から錦鷹団の団員達が飛び出してきて、あっという間にバロー伯爵が拘束される。
「到着が遅れて悪かった。怪我はないか?」
アルフレッドが抱き寄せたままのベアトリスを気遣うように見つめる。
「あ、はい。大丈夫……」
──大丈夫です。
そう言おうと思ったのに、その言葉は最後まで出てこなかった。
ふわーっと視界が暗くなり、意識が遠ざかる。
「おいっ! ベアトリス! ベアティ!」
最後に見えたのは、いつも偉そうな態度のアルフレッドが珍しく焦ったような顔をした姿だった。
◇ ◇ ◇
ふと目を覚ますと、見慣れた木製の天蓋が見えた。全体に彫刻がされた豪華な天蓋は、ベアトリスが離宮で使っているベッドに付けられたものだ。
「あれ? わたくし……」
ベアトリスは一体どうしてここにいるのだろうと、自分の記憶をたぐり寄せる。両手を上にかざすと、アルフレッドに貰った指輪が指に嵌まっているのが見えた。
指越しに天蓋を眺めていると、「お嬢様!」と声がした。
「よかった。気付かれたのですね!」
ソフィアはベアトリスの枕元に駆け寄る。
心配してくれたのか、その瞳は薄らと濡れていた。
「ソフィア? わたくし、どうしてここに?」
ベアトリスは枕元に立つソフィアを見上げる。
「王宮内をひとりで散歩中に体調を崩されて倒れられたと聞きました。ここへは、たまたま現場に居合わせたアルフレッド殿下が運んできてくださったのですよ」
「王宮内をひとりで散歩中に──」
散歩なんてした覚えはないから、アルフレッドがそう言い訳をしてくれたのだろう。
(夢じゃなかった)
ベアトリスは両手で顔を覆う。
バロー伯爵の部屋にひとりで忍び込んで返り討ちに遭いそうになり、駆けつけたジャン団長に助けられた。




