◆ 第三章 お飾りの妃は手柄をたてる(7)
その日の晩、アルフレッドがやって来たのでベアトリスはすぐに指輪を突き返した。
「殿下、どうしてこんなもの贈ってきてるんですか!」
「どうしてとは?」
アルフレッドは不思議そうな顔をして、ベアトリスを見返す。
「これ、普段は宝物殿に置かれている超貴重な魔道具だってカイルさんから聞きましたよ? なんでそんなものを!」
「そんなの、愛しい妃に危険が迫らないか心配だからに決まっているだろう」
アルフレッドは当然のことのように言い放つ。
「だってこれ、国宝級の品物らしいじゃないですか!」
「ああ、そうだな」
アルフレッドは頷く。
「そうだな、じゃないでしょ!」
ベアトリスは頭痛がしてくるのを感じた。
「王宮の宝物殿にあるものは王族のものだ。俺が好きなように使っても何ら問題はない」
「それはそうですが……」
アルフレッドの正論に、ベアトリスは言葉を詰まらせる。だがしかし、国宝級のお宝をまるで日常使いの指輪のように渡すのはいかがなものかと思う。
「付けていてほしい。俺が安心できるから。錦鷹団の仕事をしていると、いつまた危険があるとも限らない」
いつもの命令口調ではなく窘めるような言い方に、ベアトリスは何も言えなくなる。
「物は所詮、物でしかない。お前の身の安全のほうが大切だ」
「そこまで言うなら……」
なんとなく、ここは折れたほうがいいような気がした。
ベアトリスの返事に、アルフレッドがほっとしたような顔をする。アルフレッドはベアトリスから指輪を取り上げて摘まむように持つと、ベアトリスの左手の指に指輪を嵌め直す。
ベアトリスはアルフレッドの横顔をじっと見つめた。
(昔、何かあったのかな?)
錦鷹団は秘密組織故に、扱っている件名も難しいものが多い。
何があったのかはわからないけれど、こんな大それたものを持ち出してくるなんて、以前何かがあったのではないかと感じた。
「明日はモヒート商会に潜入か?」
「はい」
「他の団員に任せることもできるのに。まあでも、お前の性格なら止めても行くのだろうな」
「よくご存じで」
ベアトリスの返事に、アルフレッドは苦笑する。
「この指輪があるから大丈夫だとは思うが……気を付けていけよ」
「わかっています」
頷くベアトリスを見つめ、アルフレッドは手を伸ばす。まるで存在を確認するかのように軽く撫でられ、その手はすぐに離れていった。
◇ ◇ ◇
今日は、モヒート商会にいよいよ潜入の予定だ。ベアトリスは緊張の面持ちで、調書と事前に入手していたモヒート商会の内部図面を見比べる。
『窓のない、とても狭くて暗い部屋でした。階段を上るまでにドアを二回開けたのを覚えています』
カイルによると、保護された女性はそう証言したという。それに当てはまる部屋は、地下にある貯蔵庫しかない。
(地下に入って右側と。屋敷の出口は正面玄関と裏口の二箇所……)
内部に潜入したら、地図を見ながら動いている余裕はないかもしれない。忘れないようにしっかりと頭に叩き込んだ。
そのときだ。「すみません」と声がした。
「はい」
書類に集中していたベアトリスはパッと顔をあげる。
「あれ? 気のせい?」
ベアトリスの前には誰もいなかった。不思議に思ったものの気を取り直して 再び資料を確認し始める。その時だ。




