◆ 第三章 お飾りの妃は手柄をたてる(3)
組織売春の話を聞いたとき、ベアトリスは大いに怒った。
本人が希望して商業娼婦になったのならばいざ知らず、何も知らない若い女性を騙して違法薬物を投与して身を売らせ、さらにその違法薬物をダシにその行為を継続させてお金を吸い取るなんて。人生を台なしにする、許しがたき暴挙である。
(絶対に許すまじ!)
いきり立つベアトリスは難航する捜査の突破口になればと思い自ら囮捜査の囮となることを志願した。
その結果が、昨晩の出来事だ。
ベアトリスという囮に引っかかったふたりの男が逮捕された。しかし、ベアトリスの活躍むなしく、残念ながら男達の所持品からも自宅からも、違法薬物は出てこなかったという。
「うー、悔しい。絶対に捕まえてやろうと思ったのに!」
返す返すも悔しくてならない。これでは、怖い思いし損である。
「そう怒るな。お前が囮になったのも無駄にはならなそうだ」
「え? どういうことですか?」
ベアトリスは首を傾げる。
違法薬物が一切出てこなかったという話は今日の日中に聞いていた。ということは、囮捜査は失敗ではないのだろうか。
「連中の自宅から出てきたノートに、不審な情報があった。恐らく、人身売買だ」
「人身売買?」
ベアトリスは眉根を寄せる。
奴隷目的の人身売買であれば、ベアトリスがここで働き始めた直後に大規模な摘発があったはずだ。
「以前起きた、スリーコム子爵が関わっていた事件とは別組織ですか?」
「ああ、前回とは違う組織だな。スリーコム子爵の事件は国内の孤児が主なターゲットだったが、今回は外国人を連れてきている。問題が大きくなる前に解決したほうがいい」
「外国人……。もしかして、外国から女性を連れてきてその女性に違法薬物を与えて?」
ベアトリスは即座にことの重大性に気付き、手をぎゅっと握った。
国内の子供などを奴隷として売買するのはもちろん違法だが、外国人となると余計に質が悪い。きちんと対処して対策しないと、セルベス国がその国の国民を不当に扱っているとして国際問題に発展しかねないからだ。
「既にカイルに事件解決に向けて動くように指示済だ。ベアトリスも手伝ってやってくれ」
「わかりました」
ベアトリスはしっかりと頷く。
外国とは、どこの国だろう?
一体誰が?
次々と疑問が湧き起こる。
一方のアルフレッドは、ベアトリスの髪を弄び、指先で髪を梳く。
「カイルは普段は寡黙だが、とても有能だ。ベアトリスの力になってくれるだろう。……魔導具のことになると少し人が変わるが」
「魔導具?」
「ああ。今現在俺が知る限り、セルベス国で最も魔導具について詳しいのはカイルだろう」
「へえ……」
魔導具とは、魔法の力を与えた特別な道具のことだ。古い文献にはいくつか載っているが、一般市民が日常生活を送っていても実際に目にすることはまずない。魔力を吸収して不思議な作用を起こす道具全般を指し、ベアトリスも初めて見たのがこの離宮の入口に設置された扉だった。




